Cheerleader by St. Vincent(2011)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Cheerleader」は、St. Vincent(本名:Annie Clark)が2011年にリリースした3作目のアルバム『Strange Mercy』に収録された楽曲であり、タイトルに込められた“チアリーダー”という象徴を通して、女性が社会や他者から期待される役割や抑圧と向き合う姿勢を、鋭くも詩的に描き出しています。

この曲に登場する“チアリーダー”は、明るく笑顔で他人を励まし、無条件に応援し、自己犠牲的にふるまう存在として表現されており、語り手はそのような役割をもはや受け入れられないという強い自己宣言を行っています。「私はもうチアリーダーじゃない」──そのフレーズは、内面の解放、個としての自立、そして社会的規範への抵抗の意思を示しています。

2. 歌詞のバックグラウンド

Strange Mercy』は、St. Vincentの音楽的進化と精神的な深まりを示す重要作であり、過去2作でのアートポップ的アプローチをさらに深化させ、より個人的で内省的なテーマに踏み込んだアルバムです。彼女はこのアルバムの制作過程で意図的に“沈黙の時間”を作り、自身の心の声に耳を澄ますことで、多くの楽曲により鋭い感情的なリアリティを与えました。

「Cheerleader」はその中でも特にフェミニズム的な視点が色濃く出ており、女性アーティストが抱える「好かれるべき」「美しくあるべき」「支えるべき」といった期待への疑問を、静かな怒りとともに描いています。同時に、それはアーティストとしてのSt. Vincent自身が、リスナーや社会からの“期待”や“役割”を拒み、より自由な表現へと突き進もうとする姿勢の表明でもあります。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I don’t wanna be a cheerleader no more
もう私はチアリーダーなんかになりたくない

I don’t wanna be the dirt anymore
もう“踏みつけられる存在”なんてごめんだ

I don’t wanna be your whipping boy
あなたの“八つ当たりの的”にはならない

I don’t wanna be your cheerleader no more
私は、もう誰かを励ますためだけにいるんじゃない

I’ve played dumb when I knew better
もっとわかっていたのに、バカのふりをしていた

Tried too hard just to be clever
頭が良く見えるよう、必死になっていた

歌詞全文はこちら:
Genius Lyrics – Cheerleader

4. 歌詞の考察

「Cheerleader」の語り手は、他人の期待に応えようとする自分、無理して笑顔でふるまう自分、賢く見せようと努力する自分に対して、深い疑問と疲弊を感じています。その姿勢は、現代社会における“女性らしさ”の強要や、“いい人”であろうとするプレッシャーに対する明確な拒絶として読めます。

特に「I’ve played dumb when I knew better(もっとわかっていたのに、バカのふりをしていた)」という一節は、知性を持ちながらも周囲に“都合のいい存在”として扱われることに対する痛烈な皮肉であり、ジェンダー構造における不均衡の象徴とも言えるでしょう。

また、曲の中で繰り返される“I don’t wanna be…”という否定形の連続は、自己の定義を“拒絶”という方法で行う極めて重要な表現です。何かになるのではなく、何かであることをやめることで、本来の自分に近づいていく──この曲はそのような“自己解体と再構築”の過程を描いた内省的な闘争の記録でもあります。

サウンド面では、静かに始まるトーンがサビで急激に爆発的になる構成が、抑圧されていた感情がついにあふれ出す瞬間を音で表現しており、非常にダイナミックかつドラマティックな展開が印象的です。

引用した歌詞の出典:
© Genius Lyrics

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Control by Halsey
    抑圧されたアイデンティティと自己制御への葛藤を描いたダークなポップソング。

  • Just a Girl by No Doubt
    女性であることへの社会的期待を皮肉と怒りで表現した90年代フェミニズムの象徴。
  • Cellophane by FKA twigs
    見られる存在としての自分と、その苦しみを繊細かつ痛烈に描いた傑作バラード。

  • Crucify by Tori Amos
    自己犠牲と罪悪感からの解放をテーマにした内省的なピアノ・ソング。

6. “いい子”という仮面を脱ぎ捨てる時──内なる反抗の詩

「Cheerleader」は、St. Vincentが社会、他者、あるいは自分自身から押し付けられた“役割”と決別しようとする、その過程を克明に描いた反抗の詩です。外からは見えにくい感情の疲労、気づかれない怒り、言葉にできない不一致感──それらを音と詩の力で鮮明に浮かび上がらせたこの曲は、単なる“自己肯定”を超えた、真の意味での“自我の確立”に向かう強い意思の表明です。

それは、誰かに応援されるのを待つのではなく、自分自身を応援するために立ち上がるという選択。
だからこそ「Cheerleader」は、静かで力強い“解放のアンセム”として、今も多くの人々の心に残り続けているのです。

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