発売日: 2015年3月31日
ジャンル: インディーフォーク、アコースティック、アンビエント
Sufjan Stevensの7作目となる『Carrie & Lowell』は、彼の音楽キャリアの中で最も個人的で感情的なアルバムであり、母親キャリーの死と彼女との複雑な関係をテーマにしている。アルバムタイトルには、母親キャリーと義理の父親ローウェルの名前が冠され、スフィアンが幼少期を過ごしたオレゴン州での思い出が、温かさと悲しみが入り混じる形で描かれている。このアルバムでは、前作『The Age of Adz』のエレクトロニックな要素から一転し、アコースティックギターやピアノ、控えめなアンビエントサウンドを中心としたシンプルでミニマルな構成が採用されている。
本作は、スフィアンの柔らかい歌声と詩的な歌詞が際立ち、深い内省と喪失感、再生のテーマを追求している。サウンドは穏やかでありながら、歌詞には鋭い感情の痛みが込められており、聴く者の心に深く染み入る作品となっている。全体を通じて、スフィアンの持つ音楽的な才能がシンプルな形で結実し、彼のキャリアの中でも最も完成度が高いアルバムの一つに数えられる。
トラック解説
1. Death with Dignity
アルバムのオープニングを飾る静かなフォークソングで、アコースティックギターと柔らかなコーラスが印象的。亡くなった母親キャリーへの想いが淡々と歌われ、歌詞には深い悲しみと赦しの感情が込められている。控えめなサウンドが歌詞を際立たせる名曲。
2. Should Have Known Better
穏やかなギターのアルペジオで始まり、中盤からはシンセパッドが加わり希望の光が差し込むような展開を見せる楽曲。喪失感を歌う一方で、未来への一筋の希望が歌詞とサウンドに表現されている。
3. All of Me Wants All of You
アコースティックギターとミニマルなエレクトロニックビートが融合したトラックで、距離感のある関係や孤独がテーマ。控えめなアレンジとスフィアンの静かな歌声が、聴く者の心に染み渡る。
4. Drawn to the Blood
より感情的なトラックで、痛みや怒りが静かな音の中に潜んでいる。歌詞には愛や苦悩、赦しを求めるスフィアンの葛藤が描かれており、シンプルなアレンジがその感情を増幅させている。
5. Eugene
子供時代の思い出を振り返るようなノスタルジックなトラック。アコースティックギターとピアノの繊細なアレンジが、美しくも切ない郷愁を感じさせる。
6. Fourth of July
母親の死を直接的に扱った最も心に響く楽曲。亡くなる直前の会話を再現したような歌詞と「We’re all gonna die」という繰り返しのフレーズが、聴き手に深い感情の余韻を残す。
7. The Only Thing
スフィアンの葛藤と内面の苦悩を描く曲で、シンプルなギターと優しいメロディが印象的。自己の存在や愛の意味を問いかける内容が詩的に描かれている。
8. Carrie & Lowell
アルバムのタイトル曲で、母親キャリーと義理の父親ローウェルとの思い出が淡々と歌われる。ピアノとギターの控えめな伴奏が、スフィアンの感情的な歌詞を引き立てている。
9. John My Beloved
静かなピアノと繊細な歌声が心に響くバラード。歌詞には愛と喪失、孤独が織り交ぜられ、聴き手を深い感情の旅へと誘う。
10. No Shade in the Shadow of the Cross
宗教的なイメージと自己の葛藤が描かれた短いフォークソング。アコースティックギターのシンプルな伴奏とスフィアンの親密な歌声が特徴的。
11. Blue Bucket of Gold
アルバムを締めくくる静かな楽曲で、アンビエントなサウンドと儚いメロディが印象的。終盤の音の広がりが、悲しみと希望が入り混じる余韻を残す。
アルバム総評
『Carrie & Lowell』は、スフィアン・スティーヴンスが持つ音楽的才能と詩的な感性が最高の形で結実したアルバムである。シンプルなアレンジと深い感情が見事に調和し、個人的なテーマを普遍的な物語として描き出している。母親キャリーとの複雑な関係やその死を受け入れる過程を、静かで美しい音楽に昇華させた本作は、喪失と再生の物語としてリスナーに深い感動を与える。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
For Emma, Forever Ago by Bon Iver
内省的で感情豊かな楽曲が並ぶアルバムで、『Carrie & Lowell』と同じく孤独と再生をテーマにしている。シンプルなアレンジと深い感情が共通点。
Seven Swans by Sufjan Stevens
宗教的なテーマを扱ったアルバムで、フォークサウンドと詩的な歌詞が『Carrie & Lowell』に通じる。静けさの中に深い感情が宿る一枚。
Pink Moon by Nick Drake
ミニマルで繊細なフォークアルバム。アコースティックギターと親密なボーカルが特徴で、『Carrie & Lowell』の持つ静けさと美しさが感じられる。
Ghosteen by Nick Cave and the Bad Seeds
喪失と再生をテーマにしたアルバムで、深い感情と詩的な歌詞が『Carrie & Lowell』と共鳴する。アンビエントなサウンドも共通点。
I See You by The xx
静かで親密なサウンドと、感情的な歌詞が印象的なアルバム。ミニマルなアレンジと感情表現が『Carrie & Lowell』に通じる部分が多い。
コメント