Can’t Repeat by The Offspring(2005)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Can’t Repeat」は、The Offspringが2005年にリリースしたベストアルバム『Greatest Hits』のために書き下ろされた新曲であり、彼らの長いキャリアの中でも異色な「回想と後悔」をテーマとする内省的なロック・ナンバーである。

タイトルの「Can’t Repeat(繰り返せない)」が示すように、この曲は過去への憧憬と、それを取り戻すことのできない現実とのギャップに苦しむ姿を描いている。
青春時代の思い出、かけがえのない瞬間、あの頃感じていた「永遠」。それらがもう戻らないことを理解しながらも、なお心はそこにとどまってしまう——そんな“過去への旅”が、この曲の主旋律である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Can’t Repeat」は、2005年にThe Offspringがリリースした初のベストアルバム『Greatest Hits』のリード・シングルとして発表された。
バンドはこの曲で、1990年代の疾走感とは異なる“成熟”と“回想”を持ち込み、サウンドにも抒情性がにじむ。

それまでのオフスプリングは、ユーモアや風刺、社会への怒りといった要素を前面に出すことが多かったが、この楽曲では、ボーカルのDexter Hollandが自身の個人的な思い出や喪失感をもとに、よりパーソナルでエモーショナルなトーンを採用している。

その変化は、ただ歳を重ねたバンドの“しみじみとした回顧”ではない。むしろ、心の奥底に沈んでいた「やり直せない痛み」への気づきが表出した、The Offspring流の大人のロックといえる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は「Can’t Repeat」の代表的な一節。引用元は Genius Lyrics。

I woke the other day
ある日、ふと目が覚めた

And saw my world has changed
すると、自分の世界が変わっていたんだ

The past is over but tomorrow’s wishful thinking
過去は終わった。でも明日はただの希望的観測にすぎない

I can’t hold onto what’s been done
もう過ぎ去ったことを掴んではいられない

I can’t grab onto what’s to come
まだ来ぬ未来を掴もうとすることもできない

And I’m just wishing I could stop
ただ、時間を止めたいと願うばかりさ

サビでは、こう歌われる:

I can’t repeat
俺はもう繰り返せない

A life gone by
あの過ぎ去った人生を

And all it’s changed
そして変わってしまったすべてを

Is time
それを変えたのは、ただ「時間」だった

時間の流れの残酷さ、思い出の美しさ、そして“それを取り戻せない”というどうしようもなさが、静かにしかし強く響く言葉で綴られている。

4. 歌詞の考察

「Can’t Repeat」は、The Offspringにしては珍しく“感情の奥底”を丁寧に掘り下げる楽曲である。

ここには怒りも風刺もない。あるのは、過去の美しさと、それに対する喪失感、そしてそれでもなお生きていかなくてはならない現実である。
歌詞の主人公は「何かを失った」人間であり、それは恋人かもしれないし、友人や家族、あるいは過去の自分自身かもしれない。

そして彼はそれを取り戻そうとするのではなく、「取り戻せないことを受け入れる」プロセスに身を委ねている。それは成長でもなく、希望でもない。ただ、静かに諦め、そしてその中でなお思い出すことをやめられない人間の姿だ。

「未来を見ようとしても、それすら掴めない」。このラインは、単なるセンチメンタルではなく、人生というものの不確実性と、記憶にすがるしかない瞬間の脆さをリアルに表している。

The Offspringは、ここで「それでも前を向け」とは歌わない。むしろ、「戻れないことを知ったうえで、なおその場所を見つめてしまう」人間の姿を淡々と描ききる。それが、この曲の最大の深みであり、魅力なのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Wake Me Up When September Ends by Green Day
    喪失と記憶をテーマにしたバラード。The Offspringと同様の叙情性が光る。

  • The Kids Aren’t Alright by The Offspring
    「今はもう戻らない」若者たちの希望と崩壊を描いたバンド屈指の名曲。
  • Miss You Love by Silverchair
    内向的でメランコリックな失恋ソング。過去に取り残された感覚が共通する。

  • Good Riddance (Time of Your Life) by Green Day
    選択と別れを祝福するような、過去と未来の交差点に立つ名バラード。

  • Drive by Incubus
    自分の恐れと選択について思索する、内省的な現代ロック。

6. “取り戻せない時間”を抱きしめて——The Offspringの静かな夜明け

「Can’t Repeat」は、The Offspringがこれまで見せてこなかった一面——過去を静かに見つめる“成熟した感情”を提示した、貴重な楽曲である。

それは若さや怒りを燃料にして走り続けてきたバンドが、ふと立ち止まり、「振り返る」ことの意味を問うた瞬間でもある。
そしてその振り返りは、悲しみや喪失を越え、「それでも生きている」という不完全な肯定にたどり着く。

もう戻れない。もう繰り返せない。
だけど、その記憶があるからこそ、人は今を生きられるのかもしれない。
「Can’t Repeat」は、そんな人生の真理を、静かに、そして優しく私たちに教えてくれるのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました