1. 歌詞の概要
「C’mon Kids（カモン・キッズ）」は、The Boo Radleysが1996年にリリースした同名アルバム『C’mon Kids』のタイトル・トラックであり、バンドが前作『Wake Up!』で獲得したブリットポップ的なポップ性からあえて逸脱し、より実験的で挑発的なサウンドと姿勢を打ち出した象徴的な楽曲である。
曲の冒頭から聴き手を揺さぶるようなノイジーなギターとサイケデリックな構成が展開し、まるで「前作の成功に甘んじるな」とでも言わんばかりの強いメッセージが響いてくる。タイトルの「C’mon Kids」は、単なる若者への呼びかけではなく、旧来の価値観や怠惰なポップミュージックに対する挑戦、そして「お前たちは目を覚ませ」と鼓舞するようなスローガンとして機能している。
歌詞では、過去の自分を壊し、心の奥底にある声に耳を澄ませるように呼びかけるパートが続く。「同じ道を歩いていても何も変わらない」「古い夢を壊して、何か新しいものを創れ」と、やや荒々しくも愛のこもった叱咤が込められている。
2. 歌詞のバックグラウンド
1995年の「Wake Up Boo!」でメジャーな成功を収めたThe Boo Radleysは、その流れに乗って“次世代のポップヒーロー”になることもできたはずだった。しかし彼らはそれを選ばなかった。むしろ、「C’mon Kids」以降は、ポップスの枠からはみ出すようにノイズ、エレクトロニカ、アンビエント、ドラムンベースなどを貪欲に取り込み、あえて“キャッチーさ”を犠牲にしたサウンドを展開していく。
「C’mon Kids」はその方針を明確に宣言する曲であり、アルバムの導入として機能する同時に、“変化への決意表明”とも言える内容である。マーティン・キャリルはこの時期、インタビューで「『Wake Up!』で手にしたリスナーをあえて振り落とすような作品にしたかった」と語っており、これはその実践そのものなのだ。
この曲の“怒り”や“混沌”は、商業主義や形式化したロックへの苛立ちでもあり、何より「自分たちが自分たちであるために必要だった混乱」だった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
C’mon kids, don’t do yourself down
Throw out your arms for something and let it fly
さあ子どもたち、自分を卑下するな
手を広げて、何かをつかみ取れ 飛ばせWe could be a team, if we worked it out
We could be a dream, if we worked it out
僕たちはチームになれる 力を合わせれば
夢にもなれる もしやる気があるならIt’s all too beautiful, and too damn right
あまりに美しくて あまりに正しすぎるからこそWhy should we be the ones to stop?
なぜ僕たちが 止まらなきゃいけないんだ？
※ 歌詞の引用元：Genius – C’mon Kids by The Boo Radleys
この歌詞において印象的なのは、“夢を見ろ”とストレートに言っていない点にある。その代わりに、「変化を受け入れろ」「失敗を恐れるな」「惰性で進むな」というネガティブを通じてしか語れないような、90年代的なポジティブのかたちが見えてくる。
4. 歌詞の考察
「C’mon Kids」は、90年代後半のUKロックが直面していた“ブリットポップの終焉”を予言するかのような内容を含んでいる。商業的成功がバンドの表現の自由を奪うようになっていた当時、「Wake Up Boo!」で手に入れた注目を一気に破壊するようなこの曲の選択は、明らかに“覚悟の反逆”であった。
曲全体が問いかけているのは、「お前は誰のために生きてる？」「このままの音楽で満足か？」というような、アーティスト自身にも、リスナーにも刺さる問いだ。ポップスの形式をなぞることへの飽き、既存の価値観をなぞることへの拒絶。その姿勢は極めてロック的であり、同時に理性的な自己批評でもある。
そしてそれを“子どもたち”に呼びかけるという構造は、まるで自分たちの過去のリスナー、あるいは過去の自分たちへの宣戦布告のようにも見える。The Boo Radleysはこの曲で、“愛されること”を捨て、“伝えるべきこと”に賭けたのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Yes by Manic Street Preachers
ポップでありながら、刃のように鋭く社会を切り裂く一曲。 - A Design for Life by Manic Street Preachers
“自己価値”と“階級”をテーマにした、強烈なメッセージソング。 - Only Shallow by My Bloody Valentine
音の洪水の中にある美と不穏を同時に描く、変化と拒絶のサウンド。 - This Is Hardcore by Pulp
ポップスターが自らの崩壊を歌う、ブリットポップ終焉の預言書。 - Do You Remember the First Time? by Pulp
思い出を美化せず、生々しく語るという90年代的ノスタルジーの解体。
6. The Boo Radleysの変革と反骨の結晶：再び“自分”になるために
「C’mon Kids」は、The Boo Radleysというバンドが「迎合」を拒み、「自己変革」を選んだ証である。これは単なるサウンドの方向転換ではない。商業的成功の甘い味を知りながら、それでもあえて“不安定な表現”に賭けた、真のアーティストとしての選択だった。
この曲にあるのは、啓発でもなく、説教でもない。“自分を信じろ”という言葉さえない。ただ、「お前が感じる違和感を、無視するな」という声だけが、歪んだギターと重たいリズムの中で鳴り響いている。
だからこそ、この曲は“青春”の歌ではない。“青春の終わり”を自覚し、それでもなお創造的であろうとする者すべてに向けたアンセムなのだ。
アルバム『C’mon Kids』全体の楽曲や、ポスト・ブリットポップ期におけるThe Boo Radleysの変化をさらに深掘りしてみますか？
コメント