
発売日: 1967年11月
ジャンル: サイケデリックポップ、バロックポップ、ポップロック
サイケデリック時代のHollies——実験性と美しさが融合した傑作
The Hollies の7thアルバム Butterfly は、1967年のサイケデリック・ムーブメントの流れを取り入れた、彼らの最も実験的でカラフルな作品 となった。ビートミュージックからの脱却を図り、オーケストレーション、エキゾチックな楽器、幻想的なサウンドスケープを駆使し、ビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』やThe Beach Boysの『Pet Sounds』に匹敵するアート性を追求 している。
このアルバムは、Graham Nash、Allan Clarke、Tony Hicks のソングライティングチーム(L. Ransford名義)が手掛けたオリジナル楽曲のみで構成 されており、カバー曲なしの純粋な創作アルバムとしても注目される。Nash は本作の実験的な方向性を強く推し進めたが、その後のバンドの音楽性をめぐる意見の対立が原因で、翌年にバンドを脱退し、Crosby, Stills & Nash へと進むことになる。
全曲レビュー
1. Dear Eloise
幻想的なオルガンとバロック風のアレンジで幕を開ける。静かなイントロから一気にポップなメロディへと展開するダイナミックな構成 が特徴的で、The Hollies のサイケデリックな側面を強調する楽曲。
2. Away, Away, Away
軽快なギターとコーラスが際立つトラック。牧歌的な雰囲気とエキゾチックなコード進行が、当時のサイケデリックポップのトレンドを反映している。
3. Maker
インド音楽の影響を受けた楽曲 で、シタールの響きとミスティックな雰囲気が漂う。1967年の音楽シーンを象徴するサウンドのひとつ。
4. Pegasus
タイトル通り、神話的で幻想的な雰囲気を持つ楽曲。遊び心のあるアレンジと、ドリーミーなメロディが特徴。
5. Would You Believe?
華やかなストリングスと繊細なボーカルワークが際立つ。ロマンティックなバラードで、バロックポップの要素が強い。
6. Wishyouawish
アップテンポなポップチューンで、The Hollies らしい軽快なコーラスワークが魅力的。サイケデリック要素は控えめだが、アルバム全体の流れに溶け込んでいる。
7. Postcard
エキゾチックな雰囲気のトラック。シタールの使用と独特なリズムが印象的で、1960年代後半の実験精神が反映された楽曲のひとつ。
8. Charlie and Fred
ストーリーテリングの要素が強く、歌詞の内容が際立つトラック。オーケストレーションが効果的に使われ、映像的なイメージを喚起させる。
9. Try It
シンプルながらも、サイケデリックなエフェクトが施された実験的なトラック。ボーカルハーモニーが流れるように美しく、アルバムのハイライトのひとつ。
10. Elevated Observations?
トリッピーなサウンドと哲学的な歌詞が特徴的な楽曲。エフェクトが多用され、Nash のサイケデリックなアプローチが色濃く出た作品。
11. Step Inside
ジャジーな雰囲気を持つトラックで、グルーヴィーなアレンジが印象的。Nash のボーカルが際立ち、60年代後半のアートロックの要素を感じさせる。
12. Butterfly
アルバムのタイトル曲であり、美しいメロディと繊細なアレンジが特徴のバラード。サイケデリックなエフェクトとストリングスが幻想的な雰囲気を醸し出す。
総評
Butterfly は、The Hollies の最もアート志向が強く、サイケデリックな実験精神が詰まったアルバム である。オーケストレーションやエキゾチックな楽器の導入、サイケデリックな歌詞とエフェクトが、1967年の音楽シーンを象徴するサウンドを形成している。
しかし、商業的には期待したほどの成功を収めず、バンドの方向性をめぐる議論を引き起こした。このアルバムの後、Graham Nash は自身のアート志向をより追求するためにバンドを脱退し、Crosby, Stills & Nash へと移ることになる。
後のThe Hollies の音楽は、よりポップな方向へとシフトしていくため、本作は彼らの最もサイケデリックで実験的なアルバムとして際立つ作品 となった。
おすすめのリスナー:
- 60年代のサイケデリックポップやバロックポップが好きな人
- The Beatles の『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』やThe Beach Boys の『Pet Sounds』が好きな人
- Graham Nash の作曲センスをより深く知りたい人
おすすめアルバム
1. The Beatles – Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (1967)
サイケデリックポップの金字塔的アルバムで、本作と同時期に制作された影響がうかがえる。
2. The Beach Boys – Pet Sounds (1966)
繊細なアレンジとオーケストレーションを駆使した名作で、Butterfly の音楽性と共通する部分が多い。
3. The Zombies – Odessey and Oracle (1968)
バロックポップの代表作であり、幻想的なメロディが特徴。Butterfly と並ぶ名盤。
4. The Byrds – The Notorious Byrd Brothers (1968)
フォークロックとサイケデリックが融合した作品で、Nash の後の音楽性と近いものがある。
5. The Kinks – Something Else by The Kinks (1967)
バロックポップやサイケデリックな要素があり、本作と同じ時代のサウンドを持つ。
Butterfly は、The Hollies が音楽的に最も実験的だった時期の集大成であり、サイケデリック時代の隠れた名盤 である。バンドのポップセンスとアート志向が見事に融合した、彼らのキャリアの中でも特異な魅力を放つ一枚 だ。
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