Bury a Friend by Billie Eilish（2019）楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Bury a Friend」は2019年にリリースされたシングルであり、デビューアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』の中核を成す楽曲である。この曲はビリー・アイリッシュが自らを「怪物の下のベッド」という視点から描き、恐怖や死、破壊衝動をテーマにした不気味で実験的な作品である。歌詞の語り手は人間ではなく、彼女を監視し、絡みつく異形の存在であるかのように語られる。そのため、この楽曲は「死」と「悪夢」の象徴として機能しつつ、同時にビリー自身の内的な葛藤や自己破壊的衝動を投影した寓話のようにも響く。

音像はシンプルでありながら、低音のビートと不規則なノイズ、突然の絶叫が散りばめられ、不穏さを強調する。ビリーの囁くような歌声は「人間ではない語り手」の立場を強化し、リスナーに不快感と同時に強烈な引力を与えている。この曲の登場によって、アルバム全体が「夢と死、眠りと恐怖」という一貫したテーマを持つことがはっきりとしたのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

この曲の背景には、ビリーと兄フィニアス・オコネルの独自の創作スタイルがある。ふたりは常に「物語性」を重視しており、ただの恋愛や自己表現ではなく、聴き手を異世界に引き込むような音楽を目指していた。「Bury a Friend」においては、彼女自身が「ベッドの下の怪物」の視点で歌うことで、ポップソングとしては異例のホラー的要素を前面に押し出している。

インスピレーションの一部は、実際の睡眠障害や悪夢体験に基づくといわれる。アルバムタイトル『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』は睡眠と死を結びつける問いを掲げており、この曲はその問いに対する象徴的な答えのひとつとして機能するのだ。

ミュージックビデオも衝撃的で、暗闇の中で人々の手に抑え込まれ、注射を打たれるビリーの姿が映し出される。これは「自分ではない何かに支配される」恐怖を具現化しており、薬物依存や精神的な囚われの比喩としても解釈される。つまり、この楽曲は単なるホラー表現ではなく、現代社会における自己破壊や強迫観念を芸術的に描き出したものなのである。

3. 歌詞の抜粋と和訳

（引用元：Genius Lyrics）

What do you want from me? Why don’t you run from me?
君は私から何を望むの？　なぜ逃げないの？

What are you wondering? What do you know?
君は何を思っているの？　何を知っているの？

Why aren’t you scared of me? Why do you care for me?
なぜ私を恐れないの？　なぜ私に気をかけるの？

When we all fall asleep, where do we go?
私たちが眠りについたとき、どこへ行くのだろう？

I wanna end me
私は自分を終わらせたい

繰り返される問いかけは、人間と怪物、意識と無意識、生と死の境界を曖昧にしている。「I wanna end me」という一節は、自己破壊衝動を生々しく告白する強烈なフレーズである。

4. 歌詞の考察

この曲を読み解く鍵は「視点」である。歌詞は「怪物」の声のように響くが、その実態はビリー自身の心の奥底からの声だとも考えられる。つまり、彼女は自分自身に問いかけ、自分を支配し、時に滅ぼそうとする内的な「影」と対話しているのである。

「When we all fall asleep, where do we go?」という問いは、アルバム全体のテーマに直結している。眠りは死のメタファーであり、その先に待っているのは「無」なのか、それとも「夢」なのか。この問いは人間存在そのものに突きつけられる哲学的な探求でもある。

また「I wanna end me」という直接的な表現は、ティーンエイジャーの自己破壊衝動を反映すると同時に、リスナーに強烈な共感や不安を呼び起こす。これは単なるショックワードではなく、現代の若者が抱えるメンタルヘルス問題を芸術的に言語化したものとしても評価されるべきだろう。

音楽的にも、この曲は極端にミニマルで、リズムの切り替えや音の「間」を駆使することで、聴き手に心理的な緊張を与える。特に曲中の絶叫やノイズは、心の奥底から突き上げてくる「もうひとりの声」を象徴しているようにも聞こえる。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

• You Should See Me in a Crown by Billie Eilish
  同じく不気味で攻撃的な楽曲であり、支配と恐怖の美学が共通する。
• Copycat by Billie Eilish
  他者との関係性を怪物的に描き、自我を主張する曲。
• Everybody’s Got to Learn Sometime by Beck
  暗く内省的なトーンを持つカバー曲で、死や終焉のテーマを内包。
• Closer by Nine Inch Nails
  自己破壊衝動と快楽を結びつけたインダストリアルの代表曲。
• Haunted by Beyoncé
  ゴシックなサウンドと支配的な歌唱が重なり、恐怖と欲望を同時に描き出す。

6. ホラーと内省の交差点

「Bury a Friend」は、ポップの枠を超え、ホラー映画のような演出と深い内省を兼ね備えた稀有な楽曲である。ビリー・アイリッシュはここで、怪物的な存在を演じながらも、それを自分自身の声としてリスナーに突きつけた。この二重性こそが彼女の魅力であり、世界的な評価を決定づけた要因である。

最終的に、この曲は単に「恐怖を描いた楽曲」ではなく、人間の内に潜む「破壊的な衝動」や「死への好奇心」を音楽的に表現したものである。悪夢のようでありながら、同時に人間の最も根源的な問いに触れるこの楽曲は、ビリー・アイリッシュのアーティストとしての深みを示す象徴的な作品なのだ。