発売日: 1997年9月16日
ジャンル: ソン / ボレロ / キューバ音楽
1997年にリリースされたBuena Vista Social Clubは、キューバ音楽の豊かな遺産を世界に知らしめた歴史的なアルバムである。プロデューサーのライ・クーダーが中心となり、キューバの伝説的なミュージシャンたちを集めて制作された本作は、失われつつあった伝統的な音楽スタイルに再び光を当てた。
アルバムは、1950年代のハバナに存在した実際の「ブエナ・ビスタ・ソーシャルクラブ」と呼ばれる音楽と社交の場にインスパイアされており、その雰囲気を音楽で蘇らせている。ソン、ボレロ、ダンソンといったジャンルの楽曲が収録され、ノスタルジックな空気感と卓越した演奏技術が融合した一枚だ。
トラック解説
1. Chan Chan
アルバムの冒頭を飾るこの楽曲は、シンプルで美しいメロディが印象的。コンパイ・セグンド作の名曲で、穏やかなギターリフとリズムが、キューバの田舎町の風景を思い起こさせる。リーダー的存在のイブラヒム・フェレールの歌声が温かさを添える。
2. De Camino a La Vereda
軽快なリズムと陽気な雰囲気が特徴のトラック。トランペットの鮮やかなフレーズが際立ち、キューバ音楽特有のエネルギーを感じさせる。
3. El Cuarto de Tula
このトラックでは、アフロキューバンのリズムが前面に出ており、パーカッションが楽曲を強力に牽引する。グループ全体の息の合ったアンサンブルが圧巻で、聴く者をダンスフロアへと誘うようなエネルギーがある。
4. La Bayamesa
アルバムの中でも特に静かで感動的なバラード。ピアノのメロディとフェレールの感情豊かな歌声が、キューバ音楽のロマンチックな一面を見事に表現している。
5. Dos Gardenias
フェレールのソロが際立つ楽曲で、愛と喪失をテーマにした情感豊かなボレロ。控えめな伴奏が彼のボーカルを引き立て、シンプルながらも深い感動を与える。
6. ¿Y Tú Qué Has Hecho?
コンパイ・セグンドがリードするこの楽曲は、ユーモアと軽快さが際立つ。彼のユニークな声とギターのプレイが、楽曲に温かみを加えている。
7. Veinte Años
オマーラ・ポルトゥオンドがボーカルを担当した楽曲で、彼女の歌声はまるで絹のように滑らか。切ない愛を歌った歌詞と、優雅なメロディが絶妙に調和している。
8. El Carretero
牧歌的な雰囲気を持つこの楽曲は、田園地帯の風景を音楽で表現している。シンプルなアレンジの中に、深い郷愁を感じさせる一曲。
9. Candela
情熱的でスリリングなリズムが特徴のトラック。パーカッションとコール&レスポンスのボーカルが、キューバ音楽のダイナミズムを存分に引き出している。
10. Amor de Loca Juventud
ゆったりとしたテンポとメランコリックなメロディが特徴の楽曲。若き日の恋の記憶を歌った詩が、どこか普遍的なノスタルジアを感じさせる。
11. Orgullecida
アコースティックギターの美しいアルペジオと、歌声の透明感が魅力的な一曲。控えめなアレンジが、楽曲の持つ純粋さを際立たせている。
12. Murmullo
優雅でロマンチックなボレロ。控えめな演奏の中に、情熱と切なさが込められている。夜の静けさを思わせるような楽曲だ。
13. Buena Vista Social Club
アルバムのタイトル曲であり、インストゥルメンタルの美しさが際立つ。ルベーン・ゴンザレスのピアノが中心となり、楽曲全体をエレガントに彩っている。
14. La Bayamesa (Reprise)
アルバムのラストを飾るリプライズバージョン。静かで心に残る終幕となり、リスナーに深い余韻を与える。
アルバムの背景: 伝統音楽の復活と国際的な成功
1990年代後半、ライ・クーダーがキューバを訪問し、イブラヒム・フェレールやコンパイ・セグンドなど、地元のベテランミュージシャンたちと共にこのアルバムを制作した。冷戦によるキューバの孤立もあって、彼らの音楽は国際的な注目を浴びる機会が限られていたが、このアルバムの成功により、キューバ音楽の豊かな文化が世界に広まった。
また、このアルバムは1999年にドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』としても映像化され、音楽と共に彼らのストーリーが描かれることで、さらに広く支持を得ることとなった。
アルバム総評
Buena Vista Social Clubは、キューバ音楽の伝統と美しさを凝縮した傑作であり、ノスタルジックな魅力と卓越した演奏技術が詰まっている。時代やジャンルを超えて、多くのリスナーに感動を与えるこのアルバムは、キューバ音楽の魅力を初めて触れる人にも、深く理解している人にも愛されるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
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キューバ音楽の多様性を楽しめる名盤で、Buena Vista Social Clubのファンには必聴。
Introducing… Rubén González by Rubén González
アルバムの中心人物でもあるルベーン・ゴンザレスのソロ作で、ピアノの妙技が堪能できる。
Gracias by Omara Portuondo
オマーラ・ポルトゥオンドの感情豊かな歌声を中心に据えたソロアルバム。
Cachao’s Master Sessions, Vol. 1 by Israel “Cachao” López
キューバ音楽の基盤となるマエストロ、カチャオの作品で、伝統的なサウンドが楽しめる。
Ry Cooder by Ry Cooder
プロデューサーのライ・クーダー自身のアルバムで、世界各地の音楽を取り入れたエキゾチックなサウンドが特徴。
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