発売日: 2010年3月8日
ジャンル: ポップ、アダルト・コンテンポラリー、ソフト・ロック、バラード
概要
『Brother』は、ボーイゾーンが2010年にリリースした通算4枚目のスタジオ・アルバムであり、グループの再出発と、失われた仲間への深い追悼の意を込めた、極めてパーソナルで感情的な作品である。
本作は、2009年に急逝したメンバー、スティーヴン・ゲイトリーに捧げられており、アルバムタイトルの「Brother（兄弟）」は、メンバー同士の絆と、彼の不在を乗り越えて音楽を続けるという意志の象徴でもある。
スティーヴンが生前にレコーディングしていた楽曲も含まれ、アルバムを通じて彼の声と存在が“今も共にある”という強いメッセージが貫かれている。
音楽的には、ストリングスを基調とした叙情的なバラードが中心で、派手なポップよりも“静かな誠実さ”が際立つアダルト・コンテンポラリーな作風へとシフト。
「Gave It All Away」「Love Is a Hurricane」などのシングル曲は、悲しみと希望の狭間で“再生”を描いた傑作であり、グループにとって最も真摯な瞬間が記録されたアルバムとなった。
全曲レビュー
1. Gave It All Away
ミカ（MIKA）の書き下ろしによる感動的なバラード。
スティーヴン・ゲイトリーのリードボーカルで始まり、彼の死後も“一緒に歌っている”ことを実感させる名曲。静かなピアノとストリングスが涙を誘う。
2. Love Is a Hurricane
エレクトロ・ポップ調のダンサブルなナンバー。アルバムの中では異色の明るいテンポ感を持ちつつも、“愛の嵐”というメタファーが力強く響く。再起のエネルギーを象徴する一曲。
3. Ruby
穏やかなギターと軽快なリズムによる、ラブソングらしいラブソング。日常にある愛情の小さな幸せを描いた親しみやすいトラック。
4. Too Late for Hallelujah
信仰的イメージを織り交ぜながら、償いと再出発をテーマにした深みのあるバラード。後悔の中に希望を見出そうとする姿勢が強く印象に残る。
5. Separate Cars
別々の人生を歩むことになった恋人たちの心情を描いたミディアムテンポのポップソング。メロディと語り口に、成熟した表現力がにじむ。
6. One More Song
亡き友に捧げる“もう一度だけの歌”。シンプルな構成ながら、歌詞とボーカルの誠実さが胸を打つトリビュート・ソング。
7. Right Here Waiting
リチャード・マークスの名バラードのカバー。静かで切実なアレンジが施され、原曲の持つ普遍的な愛のテーマをより内省的に昇華している。
8. Nothing Without You
失って初めて気づく大切さを歌う直球のラブソング。ボーイゾーンらしい誠実なバラードで、ハーモニーが美しく溶け合う。
9. ‘Til the Sun Goes Down
夕暮れまでのひとときを共に過ごすという、詩的で柔らかなナンバー。アコースティックギターとストリングスが温かみを添える。
10. Time
“時の流れ”と“癒し”をテーマにした、ゆったりとしたテンポの終幕曲。傷ついた心を抱えながら前に進もうとする姿が重なり、本作の締めくくりにふさわしい。
総評
『Brother』は、ボーイゾーンにとって“喪失のアルバム”であると同時に、“希望と再生のアルバム”でもある。
スティーヴン・ゲイトリーの存在は今作の至るところに息づいており、その声と魂は、残されたメンバーとリスナーの心に深く刻まれている。
アルバム全体に漂うのは、ポップミュージック特有の浮ついた華やかさではなく、静かで切実な祈りのような温度感である。
“派手な再起”ではなく、“音楽を続けることそのものが誠実な弔いである”という姿勢が、本作の最も強いメッセージなのだろう。
キャリア中盤におけるこの作品は、グループの新しい在り方──大人として、仲間を失った者として、そして歌い続ける者として──を提示した、まさにボーイゾーンの“第二章”の幕開けであり、
『Brother』というタイトルは、そのすべてを包み込む、静かで温かな言葉なのである。
おすすめアルバム（5枚）
- Take That『Beautiful World』
再結成後のTake Thatが描いた“喪失と再出発”。大人のポップとしての共鳴点が多い。 - Westlife『Gravity』
同じく成熟したバラード中心の構成で、誠実な愛と人生を描いた作品。 - Ronan Keating『Songs for My Mother』
ボーイゾーンのローナンによる、母への追悼アルバム。『Brother』と精神的に地続きの作品。 - Michael Bublé『To Be Loved』
感情表現豊かなポップ＆バラード集。温かみと誠実さが『Brother』に通じる。 - Il Divo『Wicked Game』
クラシカルなアプローチで愛と哀しみを歌う。『Brother』の荘厳な空気感と相性が良い。
後続作品とのつながり
『Brother』の後、ボーイゾーンは2013年の『BZ20』でデビュー20周年を祝う作品を発表し、
さらに2018年には『Thank You & Goodnight』で正式なラスト・アルバムをリリースすることとなる。
その後の歩みの中で、『Brother』はいつまでも“スティーヴンのための音楽”として、
そして“ボーイゾーンが絆でつながるグループであること”の証として、特別な意味を持ち続けている。
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