
発売日: 1999年
ジャンル: ダブ、スカ、パンク、ラテン・レゲエ、ポリティカル・ロック
概要
『Brigadistak Sound System』は、バスク出身のミュージシャン/活動家であるFermin Muguruza(フェルミン・ムグルサ)が1999年に発表したソロ2作目のアルバムであり、グローバルな政治闘争とローカルなアイデンティティを音楽で結びつけた“戦う国際主義”のサウンド・ドキュメントである。
タイトルにある“Brigadistak”とは、スペイン内戦期にファシズムと戦うために世界中から集まった「国際旅団(International Brigades)」を指し、アルバム全体がその精神──越境する正義と連帯──を現代の音楽に昇華した内容となっている。
ダブ、レゲエ、スカ、ヒップホップ、アフロビート、さらにはバスク伝統音楽を交えながら、ムグルサはこの作品で「音楽こそが国境を越えた武器になり得る」という信念を力強く響かせている。
全曲レビュー
1. Urrun
アルバム冒頭を飾る、静かながらも緊張感のあるインストゥルメンタル。
「遠くへ」という意味のタイトルが示すとおり、旅と越境の予感に満ちた導入部。
2. Hitza Har Dezagun
“Let’s take the word(言葉を奪い返そう)”というメッセージ。
スカビートに乗って、バスク語のリリックが飛び交うエネルギッシュなプロテスト・ソング。
3. Maputxe
南米チリの先住民マプチェ(Mapuche)の闘争に捧げた一曲。
アンデス音楽とラテン・レゲエが交差し、先住民の声なき声を響かせる。
連帯のグローバル性を象徴する重要曲。
4. Bidasoa Dub
スペイン=フランス国境を流れるビダソア川をモチーフにしたダブ・チューン。
境界と記憶、亡命と移動が音の中に溶け合う、詩的でシネマティックなトラック。
5. Newroz
クルド人の春祭“Newroz”に捧げた、ミドル・イースタン調のスカ・ナンバー。
異文化へのリスペクトと闘争への共鳴が、熱量を伴って鳴り響く。
6. Ekhi Eder
「美しき太陽」という意味のバラード。
ダブを基調に、幻想的なサウンドスケープの中で“希望”をささやく。
7. Brigadistak Sound System
アルバムのタイトル曲にして、全体の精神的中核。
「われらは旅団、サウンド・システムで闘う」というリリックが象徴的で、パンクとダブの融合が炸裂するアンセム。
ノー・ボーダーの闘争精神を音で体現。
8. Bere-Bar
ジャジーなホーンが彩る、レイドバックしたダブ・ジャム。
“Bar”という日常的空間で交わされる会話に、革命の芽が宿る。
9. Radio Babylon
サウンドシステム文化へのオマージュ。
“Babylon=抑圧構造”に対する批判と、“ラジオ”という武器を手にしたレジスタンスの物語。
10. Askatasuna 97
“自由 97”と題された、レゲエ+ポエトリー・リーディングの政治的トラック。
過去の運動を記憶するアーカイヴとしての機能を持つ。
11. Aizu!
“聞け!”という直截的なタイトルで締めくくられるクロージング・トラック。
フェルミンのメッセージはここで最も明確に、「見過ごされる声」を聴くことを呼びかけている。
総評
『Brigadistak Sound System』は、Fermin Muguruzaが“音楽=闘争”を掲げて世界各地の社会運動と文化的現場を結びつけた、稀有にして力強いコンセプト・アルバムである。
これは単なるサウンドトラックではなく、“グローバルな反抑圧ネットワーク”としてのサウンド・システムの在り方を描いた作品であり、バスクから世界を見据えた稀代のアクティビストによる、音と闘争のマニフェストなのだ。
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