Blue Lights by Jorja Smith(2016)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Blue Lights」は、Jorja Smithが2016年にSoundCloud上で自主リリースしたデビューシングルであり、彼女の名を世に知らしめた作品です。タイトルにある“Blue Lights”は、警察車両の青いパトライトを意味しており、この曲は「警察と若者(特に黒人コミュニティ)」との緊張関係、社会的偏見、そして個人が抱える不安や恐怖を静かに、しかし鋭く描いた社会的メッセージソングです。

歌詞は一人称の語り口で進行し、ブルーライトが近づいてくるだけで体がこわばるような、日常に潜む不条理な恐怖を描いています。それは犯罪者ではなく「ただそこにいるだけの人間」が標的になってしまう現代社会のゆがみを示唆しており、彼女の冷静で繊細な歌声がその緊張感と無力感をより一層際立たせています。

一見穏やかで美しいメロディの背後には、ロンドン郊外で生きる若者たちが直面する社会構造的な問題が浮き彫りになっており、そのギャップこそがこの楽曲の大きな魅力の一つです。

2. 歌詞のバックグラウンド

Jorja Smithはイギリス・ウィンブリー生まれ、ウェスト・ミッドランズのウォールソール育ちで、ジャマイカ系の父親とイギリス人の母親を持つ多文化的背景を持っています。「Blue Lights」は、彼女が高校時代に作詞・作曲した作品であり、わずか18歳で世に出したとは思えないほどの洞察力と社会意識を感じさせる楽曲です。

この曲の制作にはGrimeアーティストのDizzee Rascalの楽曲「Sirens」(2007年)のサンプリングが使用されており、イギリスにおけるGrimeとソウル/R&Bの融合を象徴する作品でもあります。Dizzeeの原曲もまた、黒人青年が警察に追われる物語を描いており、それを引き継ぎながら、Jorjaはより個人的で内省的な視点から同じ問題にアプローチしています。

SoundCloudにアップロードされた直後から音楽業界の注目を集め、DrakeやKendrick Lamarといった大物アーティストたちにも称賛され、彼女のキャリアを飛躍的に押し上げました。後にリリースされたデビューアルバム『Lost & Found』(2018年)にも収録され、現在ではJorja Smithの代表曲の一つとして定着しています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Blue Lights」の印象的な歌詞の一部を抜粋し、日本語訳を添えて紹介します。

I wanna turn those blue lights into strobe lights
あの青いライトを、ただのストロボライトに変えたい

Not blue flashing lights, maybe fairy lights
警告の青じゃなく、フェアリーライトみたいに輝いてほしい

Those blue lights, what they mean, they mean the feds are behind me
青いライト、それが意味するのは——警官が私の背後にいるということ

Trying to find my way home, but it’s hard to see the road
家に帰りたいだけなのに、道が見えないほど不安でいっぱい

Is it a crime to be dark in this country?
この国で肌が黒いことって、罪なの?

Blue lights are the only lights that cause my heart to skip
青いライトだけが、私の心を凍らせる

歌詞引用元: Genius – Blue Lights

4. 歌詞の考察

「Blue Lights」の核心にあるのは、「無実であるにもかかわらず、警察の存在そのものが恐怖を引き起こす」というパラドックスです。冒頭で語られる“青いライト”は、犯罪から市民を守るべき存在であるはずの警察が、ある種の人々にとっては脅威や不安の象徴になってしまっているという現実を描写しています。

特に「Is it a crime to be dark in this country?(この国で肌が黒いことは罪なの?)」という一節は、イギリスにおける人種問題を鋭く問う問いかけであり、リスナーに強いインパクトを与えます。これはアメリカにおけるBlack Lives Matter運動と同様に、イギリスでも社会的に広がりを見せているテーマであり、Jorja Smithはそれをあくまで静かに、しかし決して目をそらさずに伝えています。

また、曲中では「罪を犯していないにも関わらず、警察に追われる可能性がある」日常の緊張感が描かれています。それは一見すると“非現実的”な状況に見えるかもしれませんが、多くの若者——特に移民や労働者階級のコミュニティに属する人々——にとっては非常にリアルな感覚です。

さらに、楽曲後半では「どうして警察が近づいてくるだけで、身を固くしてしまうのか?」という自己反省やアイデンティティへの問いもにじみます。そうした“自問自答”の構造が、ただの社会批評ではなく、内面のドラマとして楽曲に深みを与えているのです。

歌詞引用元: Genius – Blue Lights

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Sirens by Dizzee Rascal
    この曲のサンプリング元。より直接的な語り口で、警察に追われる若者の視点を描いたGrimeの重要作。

  • Cellophane by FKA twigs
    自分の存在が社会的にどう見られているかという視点から、深い自己探求をする楽曲。サウンドは異なるが、感情の奥行きは共鳴する。

  • People by Libianca
    個人の心の痛みと、それに対する社会の無関心を描いた一曲。静けさの中に深い感情が息づいている点で共通点がある。

  • U.N.I.T.Y. by Queen Latifah
    女性であること、黒人であることの尊厳を堂々と宣言したラップの名作。社会的意識を持った楽曲として共振する。

6. 静かなプロテスト:Jorja Smithの声が持つ力

「Blue Lights」は、デビュー曲にしてすでに完成された芸術性と社会的意義を備えた稀有な作品です。プロテスト・ソングでありながら、怒りをぶつけるのではなく、静かに語りかけることで逆に強い印象を残すそのスタイルは、Jorja Smithのアーティストとしての哲学そのものとも言えます。

彼女はこの楽曲で、政治的メッセージと感情表現、詩的な言葉とリアルな日常描写を見事に融合させ、“現代の若者たちの声”としての役割を果たしました。その後の彼女の作品——たとえば「Teenage Fantasy」や「Don’t Watch Me Cry」など——もまた、社会的・個人的なテーマを繊細に描いていますが、その出発点が「Blue Lights」であったことは疑いようがありません。

この曲が与えてくれるのは、単なる“感動”ではなく、“気づき”と“問いかけ”です。聴き手に委ねられた解釈の余地が広く、その分、聴くたびに新しい意味が浮かび上がるような奥深さを持っています。だからこそ「Blue Lights」は、単なるデビュー曲ではなく、Jorja Smithの核となるアイデンティティを象徴する永遠の代表作なのです。

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