1. 歌詞の概要
「Bleeding Love」は、Leona Lewis(レオナ・ルイス)が2007年にリリースしたデビュー・アルバム『Spirit』のリードシングルであり、彼女の名を一躍世界に知らしめた代表曲である。
この楽曲は、恋によって深く傷つきながらも、その愛から離れられずに“心が出血している”かのような痛みと陶酔感の混じった感情を、ソウルフルで劇的なボーカルとともに描いている。
タイトルの「Bleeding Love(血を流す愛)」という表現は、比喩として非常に強烈であり、恋愛における情熱と苦しみの共存、そして自ら進んで痛みを受け入れる愛のかたちを象徴している。
この曲の語り手は、周囲から「やめておけ」と言われる恋に対して、それでも「私にはこの愛が必要」と思い、壊れそうな心を抱えながらも愛に身を委ねていく。
恋愛の喜びだけでなく、そこに伴う痛みや狂おしさまでも真正面から歌い上げたこの曲は、世界中のリスナーの心を掴み、「傷つくことさえも愛なのだ」と静かに語りかけるような力強さを持っている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Bleeding Love」は、OneRepublicのフロントマンであるRyan Tedderと、ソングライターのJesse McCartneyによって書かれた楽曲であり、当初はJesse本人が歌う予定だったが、Leona Lewisの圧倒的な声質により楽曲の運命は大きく変わった。
Leonaは、2006年にイギリスの人気オーディション番組『The X Factor』で優勝し、その後Syco Recordsと契約。
「Bleeding Love」は彼女のファーストアルバムの中心曲として構想され、彼女のソウルフルでエモーショナルなボーカルを最大限に活かすためのバラードとして再構成された。
この曲は、2007年のイギリスとアメリカを含む世界各国で大ヒットを記録し、Billboard Hot 100で1位を獲得。
同時に、当時の音楽界では珍しい“クラシックなソウルバラード”でのブレイクスルーとしても注目された。
その成功は、「アイドル出身アーティストが本格派のソウルシンガーとして認められる可能性」を示した、極めて象徴的な出来事だった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
「Bleeding Love」の歌詞は、恋の喜びではなく、“愛することによってむしろ苦しむ”という感情の複雑さをありのままに表現している。
Closed off from love, I didn’t need the pain
愛なんて閉ざしてた、痛みなんて必要じゃなかったのに
冒頭からすでに、過去の傷が恋に対する心の壁を作っていたことが語られる。
But then I saw you and I knew / Something inside me changed
でもあなたを見た瞬間 / 心の中で何かが変わったの
恋に落ちる瞬間の直感的な衝動。それは理性では抗えない感覚の目覚めでもある。
But everyone around me thinks that I’m going crazy / Maybe, maybe
周りのみんなは、私が狂ってるって思ってる / たぶん、そうかもしれない
ここでは、周囲の反対と、自分の感情の激しさへの戸惑いが同時に描かれる。
You cut me open and I keep bleeding love
あなたが私を切り裂いたの / でも私はまだ“愛を流し続けてる”
このサビの核心は、傷つけられてもなお、その人を想い続ける矛盾と狂おしさである。
歌詞の全文はこちら:
Leona Lewis – Bleeding Love Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Bleeding Love」は、Leona Lewisがその圧倒的なボーカルスキルによって、愛の本質を“美しさ”や“幸せ”ではなく、“痛みと自己喪失”の中に描き出した稀有なバラードである。
この曲における愛は、決して癒しではない。むしろ、愛によって心が引き裂かれ、壊れ、でもそれでもなお求めてしまう——そんな中毒的で矛盾した感情を、“愛してる”のひとことで片づけずに描いている。
その意味でこの曲は、恋にのめり込んだことがある人、報われない愛に苦しんだことがある人にとって、“わかる”という共鳴を生む鏡のような作品となっている。
また、サビの「keep bleeding love」は、一見すると苦痛の連続を意味するようでいて、実はそこに**「それでもなお、私のなかには“愛”が流れている」という生の宣言**でもある。
つまりこの曲は、愛によって傷つきながらも、“愛するという行為そのものを否定しない”ことの尊さを歌っているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Un-break My Heart by Toni Braxton
深く傷ついた恋の別れを受け入れられず、「時間を戻して」と願うソウルフルなバラード。 - Listen by Beyoncé
自分の心の声を無視され、ようやく“自分のために歌う”決意をした女性の力強い訴え。 - Someone Like You by Adele
過ぎ去った恋を手放しながらも、まだ癒えない感情を誠実に描いた名バラード。 - Hurt by Christina Aguilera
亡き父への後悔と愛情を交錯させた、喪失と愛の深い痛みを描いたバラード。 - All I Ask by Adele
最後の夜を“愛している”と言って終えたいという、愛への切実な願いが込められた1曲。
6. “愛は、時に血を流すほどのもの”
「Bleeding Love」は、Leona Lewisが**“愛されること”と“傷つくこと”の間にある微妙な境界線を、美しくも痛々しく描き出した珠玉のバラード**である。
それは、ただ幸せで甘いだけの恋ではない。
むしろ、深く愛すれば愛するほど、自分が壊れていくような感覚。
それでも「この人を愛したことに後悔はない」と言えるだけの、本物の愛の重さと危うさがそこにはある。
そしてLeonaは、その全身から絞り出すような声で、私たちが「愛とは何か」と問い直すきっかけを与えてくれる。
傷ついても、なお愛したいと思える。そんな愛の姿を、彼女はあまりにもリアルに、あまりにも美しく歌っている。
だからこそ、「Bleeding Love」は今なお、“壊れながらも愛を手放せなかった誰か”の胸に、静かに血を流し続けているのだ。
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