1. 歌詞の概要
「Better Best Forgotten」は、イギリスのポップグループStepsによる1999年のシングルであり、彼らのデビューアルバム『Step One』（1998年）からの最後のシングルカットである。楽曲のテーマは「失恋と前向きな別れ」であり、タイトルが示すように「思い出すより、忘れた方がましな恋」を爽快なテンポと共に描き出している。
恋人との関係が終わり、その痛みを経て「もう振り返らない」と心に決めた瞬間が、この曲のエネルギーの源だ。涙や未練に沈むのではなく、軽やかに過去を手放し、未来に目を向ける――そんな強さと希望がこの曲には込められている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Stepsは1990年代後半に登場したイギリス発のポップグループで、ABBA譲りのキャッチーなメロディと、男女混成ならではのコーラスワークを武器に人気を集めた。「Better Best Forgotten」は、彼らがティーンポップシーンで確固たる地位を築いた時期にリリースされ、UKチャートで2位を記録したヒット曲である。
この曲は、Stepsの多くの楽曲と同様に、Pete Waterman率いるプロデュース・チームによって手がけられている。軽快なビートとユーロポップ的アレンジは、90年代後半のイギリスのポップシーンの象徴ともいえるスタイルであり、同時代のS Club 7やAquaなどとも共通する明るい音像を持つ。
3. 歌詞の抜粋と和訳
If only you read my mind
もしあなたが私の心を読めたならYou’d see I was hurt inside
きっと、私がどれだけ傷ついていたか分かるはずA thousand times I’ve tried
何度も何度も努力してきたTo turn our love around
ふたりの愛をもう一度取り戻そうとBut every time
だけどそのたびにYou just let me down
あなたは私を失望させたIt’s better best forgotten
だからもう、忘れてしまったほうがいい
引用元：Genius Lyrics – Steps / Better Best Forgotten
4. 歌詞の考察
この曲の主題は、シンプルながらも深い。恋愛がうまくいかなかったことを「失敗」として悲しむのではなく、それを「教訓」として受け止め、忘れてしまうことで新たな一歩を踏み出すという発想だ。
「It’s better best forgotten（それは、忘れてしまったほうがまし）」というフレーズは、英語的にもやや面白い言い回しで、“忘れよう”よりも“忘れたほうがベスト”と重ねることで、決断の強さが際立っている。それは未練や後悔を断ち切るための呪文のようでもあり、聴き手にとってもある種のカタルシスをもたらす言葉となっている。
また、歌詞の中では「何度も修復を試みたが、それが報われることはなかった」という感情が繰り返される。恋愛における“努力の限界”と“現実との折り合い”がテーマになっており、それがこの曲にほろ苦い真実味を与えている。
しかし、音楽そのものは明るく、踊れるビートに乗せてこの失恋を描くことによって、「悲しみを笑い飛ばす強さ」が浮かび上がってくる。まさにポップスの持つ魔法の一つといえる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Say You’ll Be There” by Spice Girls
失恋と希望の間で揺れる複雑な感情を、軽快なリズムに乗せて描いた一曲。 - “Last Goodbye” by Atomic Kitten
過去との決別をテーマにした、前向きな別れの歌。 - “Love’s Got a Hold on My Heart” by Steps
同じくStepsによる、愛の苦しさと喜びが交錯するドラマチックなポップチューン。 - “I Quit” by Hepburn
関係を断ち切る決意を、女性の視点から力強く歌ったガールズポップ。 - “Too Little Too Late” by JoJo
遅すぎた愛の謝罪に対する冷静な拒絶を、スローテンポの中に詰め込んだ一曲。
6. ポップソングが持つ“癒し”の力
「Better Best Forgotten」は、ただのダンスチューンではない。その根底にあるのは、恋の終わりを受け入れることの難しさ、そしてその先にある“感情の回復”である。特にティーンエイジャーや若いリスナーにとって、こうした感情を言語化してくれる楽曲の存在は大きい。明るいビートの中に秘められた「癒し」は、ただ失恋を嘆くだけでなく、「もう大丈夫」と背中を押してくれるやさしさにも通じる。
90年代後半から2000年代初頭にかけてのUKポップスは、こうした感情の起伏をサウンドの明るさと融合させるのが巧みであった。「Better Best Forgotten」もまた、そんな“笑って泣ける”ポップの真骨頂といえる一曲であり、リスナーがどこかで手放せない痛みを、そっと受け取ってくれるような存在なのかもしれない。
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