1. 歌詞の概要
「Bertha（バーサ）」は、Grateful Dead（グレイトフル・デッド）が1971年にリリースしたライブ・アルバム『Grateful Dead（Skull & Roses）』の冒頭を飾るエネルギッシュなロック・ナンバーである。
本作は、逃げること、追われること、そして逃げ続けるなかでの開き直りや自己肯定感がテーマとなっている。タイトルにもなっている“Bertha”という女性の正体は明かされないが、彼女は語り手を魅了し、混乱させ、そして追い詰めてくる謎めいた存在として描かれる。
語り口は軽快で飄々としているが、その裏には人生に対する皮肉、愛に対する抵抗、そして自由に対する執着が滲んでおり、「逃げながら笑う」というデッドらしい生き方が濃縮されている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Bertha」は、Jerry Garcia（ジェリー・ガルシア）が作曲し、Robert Hunter（ロバート・ハンター）が作詞を担当した。
この曲の誕生には、ユーモラスな裏話がある。ガルシアとグレイトフル・デッドのロードクルーは、バンド事務所に置かれた古いファン（扇風機）を「Bertha」と呼んでおり、その扇風機がいつもガタガタと騒音を立てながら彼らを悩ませていたという。
その“追いかけてくる存在”としてのBerthaが、やがて“逃げられない愛”や“不可避な運命”といった象徴に転化され、楽曲へと昇華されたのだ。
『Skull & Roses』版はスタジオ録音ではなくライブ録音でありながら、そのエネルギーと完成度の高さはスタジオ盤に匹敵するほどで、Grateful Deadのライブ・バンドとしての実力を知らしめるきっかけとなった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Bertha, don’t you come around here anymore
バーサ、もうここには来ないでくれI don’t know what I done wrong
何をしたのか、自分でもよくわからないけどYou know I’m tryin’ to live without you
君なしで生きようとしてるのにIt’s getting hard to do
でも、それはどんどん難しくなってきてるんだI had to move, really had to move
逃げなきゃいけなかった、本当にそう思ったThat’s why if you please, I am on my bended knees
だからお願いだ、もう俺をそっとしておいてくれ
出典: Genius Lyrics – Bertha by Grateful Dead
4. 歌詞の考察
「Bertha」は、物語性よりも“語り口”にこそ力がある楽曲だ。
語り手は、Berthaという存在に追われ、何度も逃げようとするが、同時にどこかで彼女を求めてもいる。
この相反する感情の揺れ――「逃げたいけれど惹かれる」「切りたいけれど忘れられない」――は、恋愛だけでなく人生の選択や自己との葛藤に通じるものでもある。
「I had to move, really had to move（逃げなきゃいけなかった）」というリフレインは、物理的な逃走というより、精神的な“解放の希求”のようでもあり、それが明るいテンポと陽気なメロディに乗せられることで、悲壮感を脱ぎ捨て、むしろ痛快なユーモアへと昇華されている。
また、「Don’t you come around here anymore（もう来ないでくれ）」という否定的な呼びかけの裏には、未練や愛情の残滓があり、聴き手はその複雑さに共感を覚える。
ハンターの歌詞は常に“断定しない強さ”を持っており、この曲もまた、関係性の余白を豊かに残している。
演奏面でも、キーボードの軽快なアクセントとリズム隊の躍動が曲に命を吹き込んでおり、デッドの「アメリカン・ロックンロール」的な一面を象徴している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Deal by Grateful Dead
ギャンブルと人生の駆け引きをテーマにしたガルシアのソロ的楽曲。軽快で明るいが、哲学的な含みも。 - Sugaree by Jerry Garcia
同じく恋と逃避をテーマにした、スローで内省的なソウルフル・バラード。 - The Golden Road (To Unlimited Devotion) by Grateful Dead
デッド初期のサイケデリックで陽気なアンセム。無限の自由への賛歌。 - Jack Straw by Grateful Dead
逃亡と友情、選択と運命をテーマにした物語性の高いロック・ナンバー。 - Loose Lucy by Grateful Dead
女性との軽妙な関係性をユーモアたっぷりに描いたファンキーな一曲。
6. 逃げながら笑う、デッド流の自由と愛
「Bertha」は、Grateful Deadの楽曲のなかでも、とりわけ軽快で開放的なナンバーでありながら、その奥には複雑な感情のレイヤーが存在している。
それは“追いかけてくるもの”への恐怖であり、“追いかけてくるものを求めてしまう”という自己矛盾でもある。
それでもこの曲は、「逃げることは弱さではない」と教えてくれる。むしろ逃げることは、生き延びるための知恵であり、また再び出会うための猶予なのかもしれない。
「Bertha」は、恋愛にも人生にも“うまくいかないこと”があることを肯定し、その不完全さを笑い飛ばす自由を与えてくれる。
だからこの曲は、50年以上経った今も、多くのリスナーにとって“走り出すきっかけ”になり続けているのだ。
逃げながらでもいい――あなた自身のテンポで、走り続けていこう。Grateful Deadがそうであったように。
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