発売日: 2009年6月23日
ジャンル: ポストロック、エクスペリメンタル、エレクトロニカ
アルバム全体の印象
Tortoiseの6枚目のスタジオアルバム『Beacons of Ancestorship』は、バンドのキャリアにおける新たな冒険であり、音楽的実験がさらに深化した作品である。リリースまでの5年間というブランクにもかかわらず、彼らの革新性と創造力は衰えるどころか、新たな高みに到達している。
本作では、エレクトロニカやクラウトロックの要素が強調され、リズムや音響の探求がこれまで以上に大胆に展開されている。タイトルの「Beacons of Ancestorship」には、音楽的なルーツや伝統を参照しながら、それを現代的な文脈で再構築するという意志が込められている。Tortoiseらしいジャンルを超えた多彩なサウンドスケープが、リスナーを未知の音楽体験へと誘う。
録音やプロダクションにも独特の工夫が施されており、アナログとデジタルの融合が際立つ。全体としてアルバムは、緻密に計算された音響美と即興的な自由さを同時に備えた一枚に仕上がっている。
トラック解説
1. High Class Slim Came Floatin’ In
アルバム冒頭のこの曲は、力強いシンセのリフと複雑なリズムが際立つ、鮮烈なオープニングトラック。ジャズとエレクトロニカを融合させたサウンドが、アルバムの方向性を象徴している。特に中盤のリズムチェンジが印象的で、耳を引きつける。
2. Prepare Your Coffin
比較的メロディックでキャッチーなこの曲は、アルバムの中でも親しみやすい一曲。ギターのリフとキーボードのコントラストが楽曲のダイナミズムを際立たせており、反復的なフレーズが心地よい高揚感を生む。
3. Northern Something
ダークで不気味なシンセサウンドが特徴的なトラック。繰り返しの中に細かな変化を加えながら、緊張感のある雰囲気を構築している。短いながらも強烈なインパクトを残す。
4. Gigantes
このトラックでは、クラウトロックの影響が顕著に表れている。繰り返されるリズムとシンセのフレーズが、トランス状態に誘うような没入感をもたらす。後半の大胆なノイズの挿入がユニークだ。
5. Penumbra
わずか1分半の短いトラックだが、その中に豊かな音響的冒険が詰まっている。リズムとメロディが絡み合い、まるで小さな音楽の断片が一つの物語を語っているようだ。
6. Yinxianghechengqi
アルバムで最もエネルギッシュなトラックの一つ。高速なリズムと尖ったシンセサウンドが展開し、攻撃的なエッジを持つ。ライブパフォーマンスでの白熱した演奏を思わせる一曲。
7. The Fall of Seven Diamonds Plus One
ゆったりとしたペースで進行する楽曲で、アルバム全体の中で一種の静けさを提供する。哀愁を帯びたメロディが、まるで物語のクライマックスの余韻を感じさせるようだ。
8. Minors
不穏でダークな雰囲気を持つトラック。低音が重厚感を生み、シンセサウンドが音響的なドラマを描き出す。細部にまで行き届いたプロダクションが光る。
9. Monument Six One Thousand
エレクトロニカの影響が強く、リズムの展開が非常にユニーク。リスナーを引き込むような引力を持つ曲であり、特にヘッドフォンでの聴取がおすすめだ。
10. Charteroak Foundation
アルバムを締めくくるこのトラックは、長尺の構成と緩やかな展開が特徴。まるでエンドロールのような余韻を残しつつ、壮大なサウンドスケープが最後まで続く。
アルバム総評
『Beacons of Ancestorship』は、Tortoiseがその独創性をさらに発展させた作品であり、音楽的な新天地を切り開いたアルバムである。エレクトロニカやクラウトロックを含む多様な影響を受けながら、従来のポストロックの枠を超えた冒険的な音作りが印象的だ。特にリズムの複雑さと音響の緻密さは聴くたびに新たな発見をもたらし、リスナーを挑発し続ける。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
『Standards』 by Tortoise
Tortoiseの2001年のアルバムで、リズムとサウンドの探求が際立つ。『Beacons of Ancestorship』に通じるエネルギーを感じられる。
『Geogaddi』 by Boards of Canada
複雑なサウンドデザインとダークな雰囲気を持つエレクトロニカの名盤。Tortoiseの実験性を気に入った人にはおすすめ。
『Tago Mago』 by Can
クラウトロックの名盤。反復と即興の美学が、『Beacons of Ancestorship』のファンに響くだろう。
『A Thousand Suns』 by Disappears
Tortoiseのメンバーであるジョン・マッケンタイアがプロデュースを手掛けたアルバム。サイケデリックな音響が特徴的。
『Rounds』 by Four Tet
アコースティック楽器とエレクトロニカを融合させた作品。細やかなリズム構築がTortoiseのサウンドと共通している。
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