アルバムレビュー：Backspacer by Pearl Jam

アルバムレビュー

2025.12.12

『Backspacer』は、Pearl Jam が2009年に発表した9作目のスタジオアルバムである。
前作『Pearl Jam（Avocado）』（2006）で示した“外向きの力強さ”をさらに洗練し、
ここでは “軽やかさ・ポップ性・前向きなエネルギー” を明確に打ち出している。

90年代から続いた内省・混乱・喪失といったテーマから一歩離れ、
本作では
“今を生きる、過去に縛られない、心を解き放つ”
という姿勢がアルバム全体を支えている。

プロデューサーは、
The Killers、Green Day を手がける Brendan O’Brien。
彼のタイトで明快なプロダクションが、
Pearl Jam をよりポップでカラフルな世界へと導いた。

曲構成はスピーディでコンパクト。
12曲で約36分という短さもあり、
“駆け抜けるように明るいPearl Jam” を堪能できる希少な一枚である。

全曲レビュー

明るくスピーディで、アルバムのポジティブさを象徴。
エディの声も軽やかで、力強いオープニング。

オルタナとパンクを融合した疾走曲。
ライブ映えするエネルギーとシャープなサウンドが魅力。

本作の代表曲であり、Pearl Jam の“新しい表情”を示した大ヒット。
爽快なビート、キャッチーなメロディ、前向きな歌詞。
ファンを笑顔にする力を持つ名曲。

軽妙なギターリフが耳に残る、ユニークでキッチュなロック。
バンドの遊び心が表れている。

Pearl Jam のバラッドの中でも際立つ名曲。
“ただ呼吸して、今を生きる”という普遍的テーマ。
エディの声が極めて美しい、心を震わせる静かな瞬間。

海と波をモチーフに、“乗り越える力”を描くロックバラッド。
胸を開くようなメロディ展開が素晴らしい。

ピアノから始まるドラマティックな曲。
“知られざる可能性がまだある”というポジティブなテーマが光る。

短く鋭いパンク曲。
アルバムにスパイスを加えるハイテンションチューン。

しっとりと広がるバラッド。
内面の葛藤や孤独を穏やかに描く曲で、アルバムの中間に落ち着きを作る。

嵐のような人生に立ち向かう力をテーマにした力強い楽曲。
マイクのギターの伸びやかさが印象的。

静かで深い弾き語り。
人生の痛みと誠実さに向き合うラスト。
エディのボーカルが胸に迫る余韻を残す。

総評

『Backspacer』は、Pearl Jam のキャリアにおいて
もっとも明るく、もっとも軽やかで、もっとも爽やかな作品と言える。

特徴を整理すると、

90年代の重苦しさから完全に離れ、
“成熟したロックバンドの幸福な瞬間” を捉えた作品とも言える。

同世代のバンドと比較するなら、
・R.E.M. 後期の軽やかさ
・Foo Fighters のメロディ志向
・Green Day のポップパンクの勢い
などと響き合うが、
Pearl Jam はより“落ち着いた大人の余裕”がある。

また、『Backspacer』はライブでの人気も極めて高く、
特に「The Fixer」「Amongst the Waves」「Unthought Known」などは
ファンにとって“心が上向く瞬間”を象徴する曲となっている。

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制作の裏側（任意セクション）

『Backspacer』制作時、Pearl Jam は心理的にも制作的にも非常に良い状態にあった。
Brendan O’Brien の復帰によって作業はスムーズに進み、
バンドメンバーは
「難しく考えず、自然に演奏する」
という共通感覚を持って臨んだという。

また、アルバムのアートワークには
コミックアーティスト Tom Tomorrow を起用。
これが音楽の“軽やかさ”と視覚的に呼応し、
Pearl Jam の新しい顔つきを象徴する一因となった。

暗い時代を越え、
“前を見る勇気”を音にした Pearl Jam。
その幸福な瞬間を封じ込めた作品が
『Backspacer』なのである。