発売日: 1992年10月5日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、フォークロック
R.E.M.の8作目となるアルバム『Automatic for the People』は、バンドのキャリアの中でも最高傑作とされる作品の一つである。『Out of Time』でメインストリームの成功を収めた翌年にリリースされた本作は、さらなる音楽的成熟を遂げ、批評的・商業的な大成功を収めた。全世界で1,800万枚以上を売り上げたこのアルバムは、1990年代のオルタナティヴ・ロックを象徴する作品であり、時間の経過とともにその地位を確立している。
『Automatic for the People』の特徴は、内省的でメランコリックなトーンと、アコースティックを中心とした温かいアレンジである。ギタリストのピーター・バックによるリフや、ベーシストのマイク・ミルズのコーラスが美しく絡み合い、ボーカルのマイケル・スタイプは人間の生と死、喪失、再生といった普遍的なテーマを詩的に描写している。また、プロデューサーのスコット・リットとバンドメンバーの共同作業による緻密なアレンジが、楽曲の深みをさらに高めている。
ストリングス編曲には、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズが参加し、アルバムに壮大さと荘厳さを加えている。この作品は、ロックバンドとしてのエネルギッシュな一面ではなく、静けさと深い感情に焦点を当てており、特に「Everybody Hurts」や「Nightswimming」などの楽曲が持つ叙情性は、多くのリスナーの心に深く響いている。
トラックごとの解説
1. Drive
アルバムのオープニングを飾るこの曲は、静かで思索的なトーンを持つ。アコースティックギターのシンプルなリフと静かなストリングスが織りなすミニマルなサウンドが特徴。歌詞では、若者への問いかけや、時代の変化への反応が感じられる。
2. Try Not to Breathe
生と死をテーマにしたメランコリックなトラック。スタイプのボーカルは、死を迎える人物の視点から語られており、温かみのあるアコースティックアレンジとコーラスが楽曲を支えている。切なくも美しい一曲だ。
3. The Sidewinder Sleeps Tonite
軽快なメロディとユーモラスな歌詞が特徴的な楽曲。タイトルやコーラスの「Call me when you try to wake her up」など、曖昧なイメージが散りばめられており、アルバムの中で異彩を放つ。トーンは明るいが、どこか哀愁も感じられる。
4. Everybody Hurts
R.E.M.の代表曲で、アルバムの中核をなすバラード。ミルズのピアノとストリングスの壮大なアレンジが、スタイプの優しいボーカルと融合し、人生の困難に直面するリスナーに寄り添う。歌詞の「みんな傷つく」というメッセージは、普遍的な励ましとなっている。
5. New Orleans Instrumental No. 1
タイトル通り、インストゥルメンタルのトラックで、淡いギターとシンセサイザーが紡ぎ出す、映画のサウンドトラックのような楽曲。アルバム全体の流れを整える静かなインタールードとして機能している。
6. Sweetness Follows
暗く感動的な楽曲で、ストリングスが楽曲全体を包み込むような役割を果たしている。歌詞では、喪失や悲しみから再生への道を描いており、スタイプのボーカルが楽曲に深い感情をもたらしている。
7. Monty Got a Raw Deal
フォーク色の強い楽曲で、ピーター・バックのギターリフが際立つ。歌詞にはハリウッド俳優モンゴメリー・クリフトの人生が反映されており、映画的なイメージが広がる。
8. Ignoreland
アルバムの中で最もエネルギッシュな曲。歪んだギターと怒りに満ちたスタイプのボーカルが、アメリカの政治への批判をストレートに表現している。この楽曲だけがアルバム全体の穏やかなトーンから外れた、攻撃的なサウンドを持つ。
9. Star Me Kitten
静かで夢のような楽曲。エレクトリックピアノと柔らかなコーラスが印象的で、歌詞は抽象的だが親密さを感じさせる。深い夜に聴くのにぴったりの一曲。
10. Man on the Moon
コメディアンのアンディ・カウフマンに捧げられた楽曲で、バンドの代表曲の一つ。カントリー調のギターと親しみやすいメロディが、スタイプの遊び心溢れる歌詞と完璧にマッチしている。タイトルの由来は、カウフマンの不思議な人生を象徴するものだ。
11. Nightswimming
ピアノを中心に据えたシンプルで美しい楽曲。青春時代のノスタルジックな記憶を呼び起こす歌詞が、聴く者の心に深く訴えかける。ジョン・ポール・ジョーンズのストリングスアレンジが感動をさらに増幅させている。
12. Find the River
アルバムを締めくくる感動的なバラード。穏やかなアコースティックアレンジと、スタイプの内省的な歌詞が特徴。人生の旅路をテーマにしたこの曲は、リスナーに優しく語りかけるような終わり方をしており、深い余韻を残す。
アルバム総評
『Automatic for the People』は、R.E.M.がキャリアの頂点で放った、芸術性と感情が見事に融合した作品である。内省的なテーマと豊かなアレンジは、90年代のロックシーンにおける特異な存在としてのR.E.M.を確立した。全体を通じて、人生の儚さや美しさを感じさせる本作は、多くのリスナーの心に残り続けるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Out of Time by R.E.M.
前作で、ポップと内省的なサウンドの融合が楽しめる。特に「Losing My Religion」のファンにはおすすめ。
The Joshua Tree by U2
壮大なテーマ性と美しいアレンジが共通し、人生のスケールを感じさせるアルバム。
Grace by Jeff Buckley
深い感情表現と美しいメロディが、『Automatic for the People』の雰囲気に近い。
Blue by Joni Mitchell
アコースティックを中心とした内省的な作品。シンプルながらも心を揺さぶる歌詞が共通点。
OK Computer by Radiohead
感情的で深いテーマを持つオルタナティヴロックアルバム。メランコリックなトーンが共通している。
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