1. 歌詞の概要
「Any Day Now(エニィ・デイ・ナウ)」は、カナダのオルタナティブ・ロックバンド The Watchmen(ザ・ウォッチメン)が1994年にリリースしたサード・アルバム『In the Trees』に収録された楽曲であり、「もうすぐ」「間もなく」というタイトルどおり、“訪れそうで訪れない変化”や“期待と不安のはざま”に揺れる心情を描いた一曲である。
この曲の語り手は、ある出来事が起きるのを待っている。
それは愛の終わりなのか、関係の修復なのか、それとも自分自身の覚醒なのか――答えは明示されない。
だが、繰り返される「Any day now」というフレーズには、いつか何かが起こるという希望と、それが起こらなければならないという焦燥がこもっている。
日常の中で感じる漠然とした“変わるべき何か”をテーマにしたこの曲は、静かでありながら、深く、胸の奥を静かに揺さぶってくる。
2. 歌詞のバックグラウンド
『In the Trees』はThe Watchmenの代表作のひとつとして知られ、1990年代中盤のカナダのオルタナティブ・シーンを象徴するアルバムである。
「Any Day Now」はシングルカットはされていないが、アルバムの中でひときわ静謐な存在感を放ち、ファンの間では“隠れた名曲”として語り継がれている。
当時のバンドは、より内省的で詩的な表現を志向しており、本作も派手な展開はなく、言葉とメロディ、余白と静けさの緊張感で成り立っている。
音楽的には、アコースティック・ギターの響きと穏やかなテンポが心地よく、Daniel Greavesの穏やかなボーカルが“待つこと”の静かな苦悩を体現している。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に歌詞の一部を抜粋し、その和訳を紹介する。
“Any day now / It’s gonna change”
「もうすぐだ / 何かが変わるはずなんだ」
“I’ve been waiting / But I don’t know for what”
「ずっと待ってきた / でも何を待ってるのかは分からない」
“The signs are all around me / But I don’t know what they mean”
「兆しはあちこちにある / でもそれが何を示しているのか分からない」
“Still I stay here / Still I hope”
「それでもここにいる / それでも望みを捨てない」
歌詞全文はこちら:
The Watchmen – Any Day Now Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Any Day Now」が描くのは、明確な未来が見えない中でも、何かが起こると信じるしかない人間の感情である。
語り手は、期待しすぎるわけでもなく、絶望しているわけでもない。ただ、いつ来るとも分からない変化を、静かに、でも切実に待っている。
この姿勢は、90年代のオルタナティブ・ロックに多く見られる“受動的な抵抗”や“静かな覚悟”の象徴でもある。
声高に叫ぶことなく、身を沈めることで世界の波を受け入れようとするその在り方は、**「待つこともまた意志である」**という哲学的な視点すら感じさせる。
また、「待っているけど何を待っているのか分からない」というラインは、現代に生きる誰しもが感じたことのある感覚ではないだろうか。
進みたいのに足が動かない。変わりたいのに何を変えればいいか分からない。
そんな“曖昧な渇望”をこの曲は静かにすくい取って、音楽として昇華している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Waiting for a Superman by The Flaming Lips
自分では変えられない世界を受け入れつつ、何かを待つ心のやさしさと痛みを描く名曲。 - Drive by Incubus
人生のハンドルを握ることの意味と、それを避けてきた過去を見つめ直す楽曲。 - The Man Who Can’t Be Moved by The Script
“待ち続けること”にすべてを懸ける男の姿を描いた現代的バラード。 -
Somewhere Only We Know by Keane
何かを求めて歩き続ける、ノスタルジックでロマンティックな心象風景の歌。 -
Wasting My Time by Default
「待つこと」に意味はあるのかと問いかける、焦燥と願望が入り混じったロックバラード。
6. “変化は来る。それがいつかは分からないけれど。”
「Any Day Now」は、行き場のない期待と、変化を信じることでしか立っていられない心を描いた、“待つ人のための祈り”のような歌である。
それは、希望というには弱く、確信というには曖昧だ。
でも、その曖昧さを受け入れたところにしか、本当の強さや再生は宿らないのかもしれない。
この曲は、答えが出ないままの人生を生きる私たちに、「それでも待っていていい」と言ってくれる。
何かが起こる日を信じて、それまでの時間を大切に抱きしめながら、今日もまた静かに立ち続ける――そんな姿にそっと寄り添う、優しくも芯のある一曲だ。
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