発売日: 2013年6月18日
ジャンル: ロック、ポップ・ロック、パワー・ポップ、ブルース・ロック
概要
『Anthem』は、Hansonが2013年にリリースした6作目のスタジオ・アルバムであり、そのタイトルの通り「高らかに掲げる宣言＝アンセム」としての役割を担った、力強く自信に満ちた一作である。
前作『Shout It Out』のソウルフルで明るいサウンドから一転、本作ではよりロック色が強まり、分厚いギターリフやシャープなドラムワーク、攻めの姿勢を感じさせる楽曲が多く収録されている。
初期のポップなイメージを払拭し、より骨太なアメリカン・ロック・バンドとしての立ち位置を明確にした点で、彼らのキャリアにおける重要なターニングポイントとなった。
また、セルフプロデュース体制を継続しながらも、楽曲ごとのアレンジには挑戦的な試みが多く、ブルースやファンク、ゴスペルの要素も散見される。
この“雑食性”こそが、長年にわたってHansonがポップスに真摯に向き合い続けてきた証でもある。
全曲レビュー
Fired Up
オープニングから爆発するロック・ナンバー。
ギターリフとシャウトの融合によって、Hanson史上最もアグレッシブなサウンドを展開する。
「準備はできているか？」という挑発的なフレーズが、アルバム全体のモードを提示している。
I’ve Got Soul
ファンキーなホーンとクラップが印象的なアップビート・チューン。
70年代ソウルへのオマージュを含みつつも、現代的なアレンジで“Hanson流のダンスミュージック”を提示している。
歌詞には「魂は奪われない」という不屈のメッセージが込められている。
You Can’t Stop Us
力強いコーラスとリズミカルなパーカッションによる、グループ・アンセムのような楽曲。
“俺たちは止まらない”というシンプルで直球なフレーズが、バンドとしての信念を象徴する。
Get the Girl Back
本作のリード・シングル。
60〜70年代のポップ・ソウルを彷彿とさせるサウンドに、軽快なメロディが乗る。
失恋後に彼女を取り戻す決意を描いた歌詞が、甘さと男らしさを絶妙に行き来する。
Juliet
ロマンティックでミステリアスなトーンを持つ楽曲。
タイトル通り、シェイクスピアの悲劇を想起させるイメージを、現代的に再解釈している。
サビのコード展開が美しく、演劇的な構成が印象的。
Already Home
日常への回帰と安心感をテーマにしたミディアム・テンポのバラード。
サウンドは落ち着いていながらも、ハーモニーの力強さが心に響く。
For Your Love
アイザックがメイン・ヴォーカルを務めるブルージーなバラード。
重厚なギターと渋みのある歌唱が融合し、バンドの年輪を感じさせる成熟した楽曲。
Lost Without You
疾走感のあるポップ・ロックで、愛する人を失った不安と焦燥を描く。
ザックのダイナミックなドラムが牽引する、ライブ映えする構成。
Cut Right Through Me
切迫した感情をそのまま投影したような、ストレートなラヴ・ソング。
コーラスの繊細さとロック的推進力のバランスが絶妙。
Scream and Be Free
アルバム終盤を飾るエモーショナルなロック・バラード。
“叫んで、自由になれ”というタイトルが象徴するように、内なる解放と変化への希求が歌われる。
Tragic Symphony
恋愛の喪失をクラシックの交響曲になぞらえた異色作。
ピアノと弦楽を活かした壮麗なアレンジが際立ち、アルバムに劇的な陰影をもたらしている。
総評
『Anthem』は、Hansonが“成熟したロック・バンド”としての立ち位置を確立したアルバムであり、同時に彼らのキャリアにおける最大の音楽的挑戦でもある。
かつて“MMMBop”の少年たちと称された時代は遠く、本作においてはすべての楽曲が自信に満ち、バンドとしての意志と個性がくっきりと浮かび上がっている。
特にロック志向の強い楽曲群――「Fired Up」「You Can’t Stop Us」「Lost Without You」などでは、これまで以上にタイトな演奏と攻めの姿勢が顕著で、ライブを前提にした“肉体性”を感じさせる。
一方で、「Juliet」「For Your Love」「Tragic Symphony」などの楽曲では、叙情性や構築美といった“歌を紡ぐ力”が極めて高いレベルで発揮されており、エンタメ性と芸術性の融合が見事に成立している。
このアルバムに通底するのは、“声を上げること”の大切さである。
叫ぶこと、闘うこと、愛すること、別れること――そのすべてが「Anthem＝賛歌」になりうる。
Hansonはこの作品を通じて、「僕たちは、ただの兄弟バンドでも、ポップスターでもない。音楽で人生を語る、本物のバンドなんだ」と、強く静かに訴えかけている。
おすすめアルバム（5枚）
- NEEDTOBREATHE『Rivers in the Wasteland』
スピリチュアルとロックの交差点を描いた作品で、『Anthem』の情熱的な側面と重なる。 - Walk the Moon『Talking is Hard』
パワー・ポップとロックの融合による明快なサウンドが、Hansonの進化系を感じさせる。 - The Killers『Battle Born』
アメリカン・ロックと叙情性のバランスという点で共通する、壮大なサウンドスケープを描くアルバム。 - Alabama Shakes『Sound & Color』
ソウルとロックを高い次元で融合させた作品で、Hansonのブルース志向とも呼応する。 -
Kings of Leon『Mechanical Bull』
ギター中心の骨太なロック・サウンドと、男たちの弱さや情熱を描いたリリックが『Anthem』と響き合う。
7. 歌詞の深読みと文化的背景
『Anthem』の歌詞群には、「声を持つこと」「自分の存在を主張すること」が一貫したテーマとして流れている。
たとえば「You Can’t Stop Us」は、業界やメディアからの過小評価、時に無理解すら跳ね返す強い自己肯定のメッセージであり、音楽を続けるというHansonの根源的な意志表明でもある。
「I’ve Got Soul」では、“自分の中の魂だけは誰にも奪えない”という、人種や国境を越えた普遍的な人間の尊厳を感じさせる。
さらに、「Scream and Be Free」は、感情の抑圧からの解放を高らかに歌っており、“声を上げること＝自由の第一歩”というHansonの哲学が凝縮されている。
このように、本作は単なる“ロック・アルバム”ではなく、Hanson自身の存在証明であり、彼らにとっての「音楽とは何か」を再定義した、極めて個人的かつ普遍的な“アンセム”なのだ。
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