1. 歌詞の概要
“All Along the Watchtower“は元々、ボブ・ディランが1967年に発表した楽曲で、アルバム『John Wesley Harding』に収録されています。その翌年、Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)がこの曲をカバーし、自身のアルバム『Electric Ladyland(1968)』に収録。このバージョンは原曲をはるかに凌駕するほどのインパクトを持ち、「カバーがオリジナルを超えた」稀有な例として語り継がれています。
歌詞は、謎めいた寓話的な会話形式で進行します。登場するのは「道化師(Joker)」と「泥棒(Thief)」、そして「監視塔(Watchtower)」の存在。物語は具体的な説明を排除しつつ、権力、欺瞞、運命の不条理さを暗示的に描き出しています。どこか旧約聖書の預言書を思わせる語り口で、聴き手に多くの解釈の余地を与える構成になっています。
2. 歌詞のバックグラウンド
ボブ・ディランの原曲は、彼がバイク事故後に引退状態にあった時期に書かれた作品で、宗教的・哲学的モチーフが濃く、ミニマルなフォーク・スタイルで録音されています。一方、ジミ・ヘンドリックスのカバーは、彼のキャリアにおいて最も商業的成功を収めたシングルであり、全米チャートでもトップ20入りを果たしました。
このバージョンのレコーディングには、**ブライアン・ジョーンズ(The Rolling Stones)**をはじめとする多くのミュージシャンが参加しており、ヘンドリックスは何十回にも渡ってギターとボーカルのテイクを重ねたことで知られています。彼自身がプロデューサーとして参加し、細部にわたるまで音の構成を徹底的に練り上げたことも、この曲の完成度を高めた要因の一つです。
また、ボブ・ディラン自身も後にライブでこの曲を演奏する際には、ジミ・ヘンドリックスのアレンジに影響を受けたバージョンを採用しており、その影響力の大きさが窺えます。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Lyrics:
“There must be some kind of way outta here,” said the joker to the thief
和訳:
「ここから抜け出す道があるはずだ」と道化師は泥棒に言った
Lyrics:
“There’s too much confusion, I can’t get no relief”
和訳:
「混乱が多すぎて、心が休まらない」
Lyrics:
“Businessmen, they drink my wine, plowmen dig my earth”
和訳:
「ビジネスマンは俺のワインを飲み、農夫は俺の大地を耕す」
Lyrics:
“None of them along the line know what any of it is worth”
和訳:
「だが誰一人として、それらの価値をわかっていない」
Lyrics:
“All along the watchtower, princes kept the view”
和訳:
「監視塔の上では、王子たちが遠くを見張っていた」
Lyrics:
“While all the women came and went, barefoot servants, too”
和訳:
「女たちは行き交い、裸足の召使いたちもいた」
このように、社会的ヒエラルキー、支配と搾取、そして精神的な逃避の欲求が象徴的に描かれており、シンプルな構成ながら寓意に満ちた深遠な詩となっています。
(※歌詞の引用元: LyricsFreak)
4. 歌詞の考察
この曲の魅力は、比喩と象徴に満ちた構造によって、現実と幻想、支配と反抗、精神と肉体が交差する多層的な物語になっている点にあります。
特にヘンドリックスのバージョンは、歌詞の内包する暴発寸前の怒りと焦燥感を、ギターとアレンジで見事に具現化しています。オープニングのフィードバック混じりのコード、繊細にして攻撃的なギターソロ、引き裂かれるようなボーカル。それらすべてが**不安定な時代(ベトナム戦争、公民権運動、若者の疎外)**を象徴するような緊張感に満ちています。
- 「道化師」と「泥棒」というキャラクターは、権力の外側にいる者たちの視点であり、既存の秩序に対する懐疑と反抗の象徴。
- 一方、「監視塔」や「王子たち」は、体制側=支配者層の象徴であり、彼らの無関心さや形骸化した支配体制を暗示している。
ヘンドリックスがこの曲に込めたのは、言葉では語りきれない時代の不穏な空気と、自身の内面に渦巻くエネルギーだったと言えるでしょう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Voodoo Child (Slight Return)” by Jimi Hendrix
ヘンドリックスによるもう一つのギターの代表作。強烈なブルースとスピリチュアリティが交錯。 -
“Like a Rolling Stone” by Bob Dylan
オリジナルの詩的世界を深く知りたい人に。ヘンドリックスが愛したディランの代表作。 -
“White Room” by Cream
サイケデリックな詩世界と爆発的なギターワークが”Watchtower”と通じる。 -
“While My Guitar Gently Weeps” by The Beatles
内省的で哲学的な歌詞と情熱的なギターの融合。 -
“Gimme Shelter” by The Rolling Stones
社会不安と暴力を象徴するロックの名曲。ヘンドリックスの持つ切迫感と共鳴する。
6. 『All Along the Watchtower』のユニークな特徴
✅ 「カバーがオリジナルを超えた」と称される稀なケース
✅ 歌詞のミステリアスな物語性と、ギターによる爆発的な感情表現の融合
✅ 録音に20回以上のギター/ボーカルトラックを重ねた緻密なプロダクション
✅ ディラン本人もライブでヘンドリックス版を踏襲するほどの影響力
✅ ロック史上、最も象徴的なギターイントロのひとつとして語り継がれている
結論
“All Along the Watchtower“は、ジミ・ヘンドリックスのアーティスティックな野心と、1960年代の社会的混沌をそのまま音に昇華した歴史的名曲です。
その詩的な歌詞は読むたびに新たな意味をもたらし、ギターの咆哮は何十年経っても色褪せることがありません。ジミ・ヘンドリックスという存在が、単なるギタリストではなく、時代の預言者的存在だったことを証明する一曲と言えるでしょう。
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