1. 歌詞の概要
「All the Kids Are Right(オール・ザ・キッズ・アー・ライト)」は、アメリカのオルタナティブ・ロック・デュオ、Local H(ローカル・エイチ)が1998年に発表した3rdアルバム『Pack Up the Cats』に収録された代表曲である。
この楽曲は、バンドとそのファンとの関係、そして“舞台の上で失敗したときの恐怖と恥”をユーモアと皮肉を交えて描いた、自虐的かつ鋭利なロック・ナンバーである。
タイトルの「All the Kids Are Right」は、要するに“観客の若者たちは正しかった”という意味で、ステージでの酷いパフォーマンスや音楽的な失望を前に、聴衆が感じた「失望」がまさに正当だったことを、語り手自身が認めてしまっている。
その率直さ、諦め、そしてロックバンドとしての“傷つきやすさ”を露骨にさらけ出すことで、この曲は多くの音楽ファンにとって逆説的に誠実なアンセムとして響いている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Local Hは、スコット・ルーカス(Scott Lucas)のギター&ヴォーカルと、当時のドラマー、ジョー・ダニエルズからなる2人編成のロックバンドであり、その“ミニマムでマキシマム”なサウンドで注目を集めてきた。
『Pack Up the Cats』は1998年にIsland Recordsからリリースされた作品で、前作『As Good as Dead』のヒットを受けて、よりコンセプチュアルかつ自伝的な要素を取り込んだアルバムとして制作された。
「All the Kids Are Right」は、アルバムのなかでもひときわキャッチーなギターリフと皮肉に満ちたリリックで耳を引くナンバーであり、失敗したライブの夜を題材に“バンドが壊れていく過程”をドキュメンタリーのように描いている。
それは、スターを夢見て音楽を始めた人間が、現実の中で“嫌われ者”になる恐怖に晒されながら、それでも歌い続けるという、どこか悲喜劇的な視点を伴っている。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「All the Kids Are Right」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“You heard that we were great / But now you think we’re lame”
「君たちは“あのバンドはすごい”って聞いて来たのに / 今じゃ“あいつらは最低だ”って思ってるんだろ?」
“You saw the show / You thought we sucked”
「ライブを見た / クソだったって思っただろ?」
“And we totally fucked up”
「完全にやらかしちまったよ」
“Now all the kids are right / All the kids are right”
「だからさ、子どもたちはみんな正しかった / まさにその通りだったんだ」
“You said we’d be better / We’re not even the same”
「君たちは“もっと良くなる”って言ってくれたけど / もう俺たちは以前のバンドじゃないんだよ」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Local H – All the Kids Are Right Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲の最大の特徴は、ロックバンドが自身の失敗を、しかも“観客の目線”から描いてしまうという大胆なスタンスにある。
多くのロックソングが「俺たちは正しい」「お前らは分かってない」といった反抗の精神を掲げるなかで、「ああ、ごめん。君たちが正しかったんだよ」と認めてしまうこの曲は、ある意味でその“反抗”すらも脱構築してしまっている。
“バンドはライブで全てが決まる”と言われる世界において、ライブでの失敗はバンドの命取りにもなり得る。
それをあえて歌詞にすることで、Local Hは自分たちを“神話化”するのではなく、“失敗する人間の側”に引き下ろしてみせる。
この態度こそが、90年代オルタナティブロックの精神――誠実さ、皮肉、自虐、そして諦念――を象徴しているのだ。
「We totally fucked up」というストレートな告白には、自虐と同時に、どこか“それでもやり続けるんだ”という不屈さも滲んでいる。
この曲は“諦めの歌”であると同時に、“まだ終わってないという意思表示”でもある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Sell Out by Reel Big Fish
“商業化されたバンド”という批判を逆手にとった、スカパンクの代表曲。 - Monkey Wrench by Foo Fighters
自分自身に対する怒りと決別をエネルギッシュに爆発させるロック・ナンバー。 - My Own Worst Enemy by Lit
自分のダメさを全開にさらけ出す、ポストグランジの痛快な自虐ロック。 -
The Impression That I Get by The Mighty Mighty Bosstones
日常の運不運と向き合いながらも、“それでも俺は生きてる”という底力を感じさせる楽曲。 -
Flagpole Sitta by Harvey Danger
周囲への冷笑と、自分への不信感をユーモラスに詰め込んだ90年代の風刺ロック。
6. “ロックスターも、間違える”
「All the Kids Are Right」は、バンドの弱さを隠さず、それをそのまま“歌”にしてしまうという、ある意味でとても勇敢なロックソングである。
それは、ステージでミスをした瞬間に受ける“沈黙”や“視線”の痛みを知っている者にしか書けない詩であり、それでも続けていく覚悟を、さりげなく滲ませた叫びでもある。
この曲は、“ステージの上でしくじったロックスター”の歌であると同時に、“誰だって間違える”という真実を肯定する、笑って泣ける自虐のアンセムなのだ。
完璧じゃなくてもいい。恥をかいても、それでも音楽を鳴らし続ける――その姿こそが、ほんとうの“リアル”なのだから。
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