アルバムレビュー：All Directions by The Temptations

発売日: 1972年7月27日
ジャンル: ソウル、ファンク、サイケデリックソウル

All Directionsは、ザ・テンプテーションズの名プロデューサー、ノーマン・ホイットフィールドが手掛けたアルバムであり、彼らのサイケデリックソウル期の頂点を示す作品の一つだ。このアルバムは、ザ・テンプテーションズにとって新たな方向性を確立し、特に「Papa Was a Rollin’ Stone」はグラミー賞を獲得するなど、彼らのキャリアにおける大成功を収めた楽曲となった。ホイットフィールドの大胆なプロダクションと、ファンク、ソウル、そしてサイケデリックの要素が組み合わさり、テンプテーションズの音楽をより一層進化させた作品である。

各曲ごとの解説:

1. Funky Music Sho Nuff Turns Me On
   　アルバムのオープニングトラックは、リズミカルでエネルギッシュなファンクナンバー。ファンキーなベースラインと強力なホーンセクションが特徴的で、タイトル通り、ファンキーな音楽がリスナーを引き込む。メンバーのボーカルが一体となり、パワフルなグルーヴを生み出している。
2. Run Charlie Run
   　社会的なメッセージが込められた一曲で、チャーリーという白人男性を中心に、アメリカの人種差別問題に触れている。ザ・テンプテーションズの鋭い歌詞と力強い演奏が重なり合い、社会的批判と音楽的な実験が見事に融合している。
3. Papa Was a Rollin’ Stone
   　アルバムのハイライトであり、12分を超える大作。ファンクとサイケデリックソウルが融合した名曲で、謎めいたベースラインと、ゆったりとしたグルーヴが特徴的。歌詞は父親をテーマに、家族との複雑な関係を描いており、エモーショナルなボーカルと壮大なアレンジが感動を呼ぶ。ノーマン・ホイットフィールドによるインストゥルメンタル部分も含め、曲全体に緊張感と重厚感が漂っている。
4. Love Woke Me Up This Morning
   　アップテンポのラブソングで、ファンキーなリズムとキャッチーなメロディが印象的な楽曲。ラブソングとしての明るさと、テンプテーションズの滑らかなハーモニーが心地よいコントラストを生み出している。
5. I Ain’t Got Nothin’
   　ソウルフルで感情的なバラード。切ないメロディとリードボーカルが印象的で、恋愛における失望や苦悩を歌っている。シンプルなアレンジがボーカルを際立たせ、エモーショナルな展開が心に残る。
6. The First Time Ever (I Saw Your Face)
   　ロバータ・フラックの名曲をカバーした一曲。ザ・テンプテーションズによるこのバージョンは、彼らの美しいハーモニーとソウルフルな表現が光る。静かで感動的なアレンジが、曲全体に優雅な雰囲気を与えている。
7. Mother Nature
   　環境問題や自然への畏敬をテーマにした曲で、社会的メッセージが強い。サイケデリックなアレンジと、リズミカルなグルーヴが自然の力強さを表現し、ザ・テンプテーションズの新たな挑戦を感じさせるトラック。
8. Do Your Thing
   　ファンクとソウルが融合した、ダンサブルで力強いナンバー。シンプルながらもグルーヴィーなビートが印象的で、メンバーのエネルギッシュなボーカルが楽曲を引き立てている。

アルバム総評:

All Directionsは、ザ・テンプテーションズがノーマン・ホイットフィールドと共に、音楽的にさらに革新を遂げたアルバムである。特に「Papa Was a Rollin’ Stone」は、ザ・テンプテーションズの代表曲であり、ファンクとサイケデリックソウルの融合が完璧に実現された楽曲だ。このアルバムは、単なるポップソングではなく、社会問題や人間関係といった深いテーマに取り組んでおり、モータウンの中でも特に成熟した作品と言える。ファンキーでありながらも深みのあるサウンドと、ザ・テンプテーションズの緻密なボーカルハーモニーが、アルバム全体を通して一貫して高い完成度を保っている。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

1. Superfly by Curtis Mayfield
   ファンクと社会問題をテーマにした名作。カーティス・メイフィールドの力強い歌詞とグルーヴィーなサウンドが、ザ・テンプテーションズのサイケデリック期と共鳴する。
2. What’s Going On by Marvin Gaye
   社会的テーマを扱い、モータウンサウンドの枠を超えた名作。ザ・テンプテーションズの同時期のサウンドやメッセージ性を感じられる。
3. Psychedelic Shack by The Temptations
   サイケデリックソウルの代表作であり、All Directionsと同様に、ファンクとサイケデリックの要素が強い。ノーマン・ホイットフィールドのプロデュースが光る一枚。
4. Innervisions by Stevie Wonder
   社会的なメッセージを持ち、ファンクやソウルのエッセンスを取り入れたスティーヴィー・ワンダーの傑作。深いメッセージ性と革新性が、ザ・テンプテーションズのサウンドと共鳴する。
5. There’s a Riot Goin’ On by Sly and the Family Stone
   ファンクとサイケデリックの融合を極めたアルバム。社会問題をテーマにしつつ、グルーヴィーなサウンドで魅せる作品で、ザ・テンプテーションズの進化を感じるリスナーにおすすめ。