Alibis by Martika（1988）楽曲解説

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. 特筆すべき事項：恋愛の“解毒”としての表現

1. 歌詞の概要

「Alibis」は、マルティカのデビューアルバム『Martika』（1988年）に収録された楽曲で、若さゆえの恋愛のすれ違いや、信じる心の脆さを鋭く描いたナンバーである。タイトルの「Alibis（アリバイ）」は、言い訳、偽りの説明、真実を覆い隠すための方便を意味しており、それが恋愛関係における「信頼の崩壊」や「隠された裏切り」と結びつくことで、楽曲全体にサスペンスフルな緊張感を与えている。

曲の語り手は、相手の不誠実に気づきながらも、その「アリバイ」を繰り返し受け入れてきた。だが、やがてその積み重ねが限界を迎え、自らの感情を静かに、しかし確実に解放していく様子が綴られている。マルティカはこの楽曲で、甘さや憧れだけではない、“少女”から“大人の女性”へと変化していく過程を表現しているとも言える。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Toy Soldiers」のようなメランコリックなヒット曲で知られるマルティカだが、『Martika』アルバムには他にも、こうした心理的に複雑な作品がいくつか収録されている。「Alibis」はその中でも、特に人間関係の不透明さと、そのなかでの自己の目覚めをテーマにしており、ティーン・ポップにしては非常に洞察的な視点を備えている。

楽曲制作には、当時のヒットメイカーたちと並んでマルティカ自身も関与しており、彼女が単なるパフォーマーではなく、自分の感情を表現するソングライターとしての一面を持っていたことを示している。こうしたパーソナルな関与があるからこそ、言葉一つひとつがリアルに響き、10代の心の揺れを忠実に伝えているのだろう。

3. 歌詞の抜粋と和訳

You’ve always got your alibis
いつも言い訳ばかりね

But this time, I won’t listen to your lies
だけど今度ばかりは、あなたの嘘には耳を貸さない

I used to fall for your disguise
あなたの仮面に何度も騙されたけど

But now I see through all your lies
もうすべて見抜いてしまったのよ

引用元：Genius Lyrics – Martika / Alibis

4. 歌詞の考察

「Alibis」の歌詞は、恋愛の終焉が“怒り”ではなく“覚醒”によって訪れるという点で、非常に印象的である。語り手は、相手の嘘に気づいていながらも、それを受け入れてしまっていた過去を悔やみつつ、同時にそれを乗り越えようとしている。

この楽曲には、恋愛における“被害者意識”ではなく、自己の目覚めというポジティブな変化が描かれている。つまり「騙されたままの自分」から、「真実を見つめられる自分」へと成長していく過程なのだ。

また、「仮面（disguise）」や「嘘（lies）」といった語句の選び方からは、恋人というよりも“欺瞞的な他者”としての相手像が浮かび上がる。そうした象徴性は、マルティカの世界観における「恋愛＝自己の鏡」という哲学を感じさせる。恋人の嘘に傷ついたことで、むしろ自分の本当の心に気づく——この構造は、内省的なバラードに特有の自己探求の流れを持っている。