発売日: 2021年11月5日
ジャンル: ロック、ポップ・ロック、ブルース・ロック、アダルト・コンテンポラリー
概要
『Against the World』は、Hansonが2021年に発表したミニマルながらも骨太なスタジオ・アルバムであり、パンデミック下において“音楽を作ること、届けること”の本質を問い直した意欲作である。
本作は従来のアルバム形態とは異なり、2021年4月から1か月ごとに1曲ずつシングルをリリースしていくという“連続公開プロジェクト”の形式で進行され、最後にまとめてアルバムとしてパッケージ化された。
この形式は、パンデミックによりツアー活動が制限されたなかでの、“ファンとの繋がりを絶やさない”という意志の表れでもあり、Hansonの創作活動における柔軟性と即時性を証明するものとなった。
サウンド的には、前作『String Theory』のオーケストラ路線から一転、原点回帰ともいえるギター・ベース・ドラム中心のロックバンドサウンドへ。
よりライブ感のあるアプローチで、“今、ここ”に立つHansonの姿をダイレクトに映し出している。
全曲レビュー
Annalie
南米的な軽快なリズムを基調に、開放感あふれるメロディが心地よいポップ・ナンバー。
“アナリー”という名の女性を追いかける旅が描かれ、リスナーを異国の風景へと誘う。
Don’t Ever Change (feat. Rick Nielsen)
Cheap Trickのギタリスト、リック・ニールセンとの共演による、疾走感あふれるロックンロール。
60〜70年代のパワーポップへのオマージュが強く感じられ、演奏の迫力と歌のキレが両立している。
Only Love
「愛だけがすべてを貫く」というメッセージを込めた、王道のロック・バラード。
ミドルテンポの落ち着いたアレンジに、テイラーの伸びやかなヴォーカルが冴える。
Strange World
ややダークで浮遊感のあるサウンドが印象的なトラック。
「この奇妙な世界で、どうにか進んでいく」という歌詞が、コロナ禍の不安と重なる。
ザックのドラムが繊細さと緊張感を巧みに両立させている。
Against the World
タイトル曲にして、バンドの信念を体現したアンセム。
「僕らは世界を敵に回しても、自分たちの道を行く」というフレーズが、30年続く彼らの独立精神を象徴する。
力強いリフと分厚いコーラスが、“声を上げること”の重要性を訴える。
Fearless
迷いを振り払うように前へ進むことをテーマにした、アップテンポなナンバー。
キャッチーなサビとダイナミックな構成が、ライブ映えを意識した楽曲となっている。
One
アルバムのクロージングを飾る、静かで力強いピアノ・バラード。
「結局、人と人が向き合うところにしか、本当の意味はない」という哲学的なメッセージが込められている。
ストリングスとハーモニーが美しく、静かな感動で幕を閉じる。
総評
『Against the World』は、Hansonが“ロック・バンドとして生きる”ことを選び続けてきた理由を、明確に提示するアルバムである。
複雑なオーケストラや過度なポップ・プロダクションを排し、ベーシックな楽器編成とストレートなソングライティングに立ち戻ったことで、彼らの“音楽の核”がよりクリアに浮かび上がった。
そして何より、このアルバムは「どうやってリリースするか」「誰に向けて作るか」という問いそのものが、作品の構造と内容に内包されている。
1曲ずつ時間をかけて届けられることで、リスナーとの対話が深まり、音楽そのものに“呼吸”が生まれている。
タイトル『Against the World』には、単に“反抗”の意味ではなく、“孤独の中でも意志を貫く”という、創作者としての静かな決意が込められている。
30年続くキャリアの中で、Hansonは今なお“自分たちの言葉”で音楽を語ろうとしている。
このアルバムは、その声にしっかりと耳を傾けたくなる、真摯で瑞々しい記録なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Foo Fighters『Wasting Light』
バンド原点回帰の熱量と、ロックの誠実さが共鳴する作品。 - Dawes『All Your Favorite Bands』
アナログ的な演奏と人生の物語を重ねる作風が、Hansonの本作と美しく響き合う。 - The Killers『Pressure Machine』
ロックバンドによる“現在地の記録”としてのアルバム、という点で共通。 - Switchfoot『Native Tongue』
信念とサウンドの純度を両立させた作品。スピリチュアルなニュアンスも近い。 -
The Wallflowers『Exit Wounds』
ベーシックなバンド・サウンドと成熟したリリックが、Hansonと同じ文脈で語られる。
6. 制作の裏側（Behind the Scenes）
『Against the World』の制作は、2020年からのパンデミックの最中、リモートや分散レコーディングを含む特殊な環境下で行われた。
Nashvilleにある自身のスタジオ“3CG Studios”でのセッションでは、外部プロデューサーを入れず、全曲をセルフプロデュース。
また、毎月リリースの形式は、当初の“配信時代の変化に対応するため”というアイデアから始まったが、結果的にはファンとのつながりを強める新たなアプローチとなった。
さらに、YouTubeでは楽曲ごとのドキュメンタリー映像も公開されており、楽曲の背景や制作意図をバンド自身の言葉で届けるスタイルが採られた。
これにより、“音楽を作る＝関係を築く”というHansonらしい哲学が、アルバムそのものの構造としても現れている。
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