発売日: 2018年4月20日
ジャンル: インディーロック / サイケデリックロック
Lord Huronの3枚目のアルバム、Vide Noirは、それまでの作品のフォークやアメリカーナの要素に加え、サイケデリックなサウンドを大胆に取り入れた挑戦的な一作である。タイトルのVide Noir(フランス語で「黒い空虚」)が示すように、このアルバムは失われた愛、存在の不安、そして夜の神秘に満ちた旅を描いている。
アルバム全体に漂う映画的な雰囲気と深遠なテーマは、Lord Huronらしい物語性をさらに高めている。リバーブが効いたギター、濃厚なベースライン、そしてサイケデリックなエフェクトが織りなすサウンドスケープは、都会のネオンの光と孤独な夜の闇を彷徨う感覚をリスナーに与えてくれる。
トラック解説
1. Lost in Time and Space
アルバムの幕開けは、宇宙的なサウンドスケープで始まる幻想的な楽曲。シュナイダーの夢見るようなボーカルが、「時と空間の狭間で迷子になった」というテーマを表現している。物語の冒頭にふさわしい神秘的な一曲だ。
2. Never Ever
強烈なベースラインとアップテンポなビートが印象的な楽曲。失った愛への執着が歌われており、「君がいない世界では生きられない」という切実な感情がエネルギッシュなメロディに乗せられている。
3. Ancient Names (Part I)
重厚なギターリフとドラムが特徴の、サイケデリックロック色の強い楽曲。謎めいた「古代の名前」というモチーフが登場し、物語が新たな局面を迎える。アルバムの中でも特に力強いトラックだ。
4. Ancient Names (Part II)
前曲の続編となるダークな楽曲。スリリングな展開と重々しいリズムが、主人公の苦悩や追い詰められる心情をリアルに描き出している。
5. Wait by the River
ソウルフルな要素を取り入れた、美しいバラード。この曲では、川辺で愛を待ち続ける主人公の切ない心情が描かれている。シンプルながらも胸に響くメロディと、シュナイダーの感情的なボーカルが印象的だ。
6. Secret of Life
浮遊感のあるシンセサウンドと哲学的な歌詞が特徴的な楽曲。「生命の秘密」という壮大なテーマが、抽象的な言葉で語られる。サイケデリックなアレンジが楽曲をさらに神秘的にしている。
7. Back from the Edge
この楽曲では、荒々しいギターとリズムが緊迫感を生み出している。歌詞には、生と死の境界を超えた旅路や、それに伴う恐怖と解放感が描かれている。
8. The Balancer’s Eye
不穏な雰囲気と軽快なリズムが融合した一曲。正義やバランスを象徴する「天秤の目」というモチーフが歌詞に登場し、物語の謎めいた要素を深めている。
9. When the Night Is Over
静かで感傷的な楽曲。夜の終わりとともに何かが失われる感覚を描いており、聴く者の心を静かに揺さぶる。リバーブの効いたギターが楽曲の雰囲気を一層引き立てている。
10. Moonbeam
この楽曲は、優しいギターと穏やかなボーカルが心地よい夜の旅の一幕を描いている。「月の光」というロマンティックなイメージが、アルバムのサイケデリックなテーマに新たな彩りを加えている。
11. Vide Noir
タイトルトラックであるこの楽曲は、アルバムのテーマを象徴する一曲。重厚で暗いサウンドスケープが、タイトルの「黒い空虚」を音楽で表現している。終盤に向かうにつれて壮大さを増していく構成が圧巻だ。
12. Emerald Star
アルバムのラストを飾る幻想的な楽曲。失われた希望や、新たな旅の始まりを感じさせるエンディングで、聴き終わった後も深い余韻を残す。
アルバムの背景: 夜の都市とサイケデリックな旅路
Vide Noirは、都会の夜とそこに潜む孤独や神秘をテーマにしており、サイケデリックなサウンドがその世界観を効果的に表現している。シュナイダーは、アルバム制作中にロサンゼルスの夜を歩き回る中でインスピレーションを得たと語っており、その経験が楽曲の隅々に反映されている。幻想的でありながら感情に訴える歌詞とサウンドは、Lord Huronの進化を強く感じさせる。
アルバム総評
Vide Noirは、Lord Huronの音楽的探求と進化を示す野心的な作品だ。フォークやアメリカーナにとどまらず、サイケデリックロックの要素を取り入れることで、彼らの世界観はより広がりを見せている。夜の闇を彷徨うような感覚を味わえるこのアルバムは、リスナーに深い没入体験を提供し、聴き終わった後も強い印象を残す。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Currents by Tame Impala
サイケデリックなサウンドとモダンなエレクトロニカが融合したアルバムで、Vide Noirの雰囲気と通じる。
Lost in the Dream by The War on Drugs
広がりのあるギターサウンドとノスタルジックな雰囲気が共通点。
Turn on the Bright Lights by Interpol
夜の都市をテーマにした暗く洗練されたサウンドが楽しめる。
Masseduction by St. Vincent
実験的で都会的な音楽を好む人におすすめの一枚。
Hot Fuss by The Killers
煌びやかなロックサウンドと都会的な歌詞が、本作と似た感覚を提供する。
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