アルバムレビュー:Miss Anthropocene by Grimes

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2020年2月21日

ジャンル:アートポップ、エレクトロポップ、インダストリアル・ポップ、ドリームポップ、ダークウェイヴ、エクスペリメンタル・ポップ

概要

Grimesの『Miss Anthropocene』は、2020年に発表された5作目のスタジオ・アルバムであり、Claire Boucherが自身のポップ表現を、より暗く、黙示録的で、神話的な領域へ押し進めた作品である。2010年の『Geidi Primes』と『Halfaxa』では、ローファイな電子音、SF的な固有名詞、幽霊のような声、ベッドルーム・ポップ的な実験性によって、Grimesは独自の異世界を作り始めた。2012年の『Visions』では「Oblivion」Genesis」に代表されるように、その異世界性を明確なポップ・ソングへ結びつけ、2015年の『Art Angels』では、Jポップ、Kポップ、EDM、ギターポップ、アートポップを極彩色に統合し、Grimesのポップ・スターとしての可能性を最大限に広げた。

その流れの後に発表された『Miss Anthropocene』は、前作『Art Angels』の明るさや過剰なポップ性から大きく後退し、より暗く、重く、終末的なムードを持つ。タイトルの「Anthropocene」は、人類の活動が地球環境に決定的な影響を与える時代を示す「人新世」を意味する。そこに「Miss」という擬人化された称号をつけることで、Grimesは気候危機、環境破壊、人工知能、戦争、薬物、死、インターネット、ポップ・カルチャーの暴力性を、一人のダークな女神のようなキャラクターへ変換している。つまり本作は、地球規模の破滅を、抽象的な問題としてではなく、人格を持つ神話的存在として描くアルバムである。

このコンセプトは、Grimesらしい。彼女は社会問題を直接的なプロテストソングとして歌うよりも、SF、ファンタジー、アニメ、ゲーム、インターネット的なキャラクター性、神話的なイメージへ変換する。『Miss Anthropocene』では、環境破壊や人類の自己破壊性が、暗いポップ・アイコンのように表現される。破滅そのものが歌い、誘惑し、踊り、囁く。これは非常に現代的なアートポップの方法である。世界の終わりはニュースの見出しとしてではなく、プレイリストに入る美しい曲として現れる。

音楽的には、本作はGrimesの中でも最もダークで重い音像を持つ。『Art Angels』のようなカラフルで跳ねるポップではなく、インダストリアルなビート、ダークウェイヴ的なシンセ、ドリームポップの浮遊感、トリップホップ的な沈み込み、EDM以後の低音、メタルやゴシックのイメージが混ざる。曲ごとの色は異なるが、全体としては黒、灰色、紫、深い青のようなトーンが支配している。明るいメロディもあるが、それは祝祭ではなく、廃墟の中で光るネオンのように響く。

Grimesの声は、本作でも中心的な楽器である。彼女のヴォーカルは、高く、加工され、幼さと人工性を同時に持つ。『Miss Anthropocene』では、その声がより幽霊的に使われている。時には少女の声のように軽く、時にはAIや天使、悪魔、未来の亡霊のように響く。歌詞を明瞭に伝えるというより、声の質感そのものが世界観を作る。これは初期作品から続くGrimesの特徴だが、本作ではその声が破滅の女神、ドラッグの幻覚、ネット上のアバター、あるいは人類後の存在として機能している。

歌詞の面では、死、破壊、依存、環境危機、戦争、テクノロジー、孤独、快楽、逃避が中心になる。「So Heavy I Fell Through the Earth」では、重力と落下のイメージを通じて、愛や存在の重さが歌われる。「Darkseid」では、世界の暗さ、暴力、絶望が抽象的に示される。「Delete Forever」では、薬物による死や喪失が、アコースティックなメロディに乗せて歌われる。「Violence」では、暴力と快楽、破壊とダンスミュージックの関係が描かれる。「4ÆM」では、夜明け前の不眠、加速、サイバーパンク的な疾走感が表現される。「My Name Is Dark」では、破滅的な自己像とインターネット時代の孤独が鋭く響く。

本作は、Grimesのキャリアの中でも特にアンビバレントな作品である。環境破壊や人類の暴力性を批判しているようでありながら、それらを美しく、魅惑的に、ポップな形で表現している。これは矛盾ではなく、本作の核心である。現代社会では、破滅も商品化され、災害もイメージ化され、暴力も映像として消費される。Grimesはその状況を、外側から説教するのではなく、自ら破滅のポップ・アイコンになることで示している。『Miss Anthropocene』は、終末を批判しながら、終末の美学に魅せられてもいる。

『Art Angels』と比較すると、本作は明らかに内向的で暗い。『Art Angels』では、Grimesは自らを無数のポップ・キャラクターへ分裂させ、明るく戦闘的で、時にユーモラスな世界を作った。『Miss Anthropocene』では、そのキャラクター性はよりゴシックで、冷たく、破滅的になっている。自己表現の爆発というより、世界の終わりを背景にしたダーク・ファンタジーである。ポップとしての即効性は前作より控えめだが、アルバム全体のムードは非常に強い。

日本のリスナーにとって『Miss Anthropocene』は、Grimesの作品の中でも、初期の幻想性と後期のポップ性が暗い形で結びついたアルバムとして聴ける。『Visions』の夢幻的な電子音、『Art Angels』のポップなフック、『Halfaxa』のゴシックな暗さが、ここでは終末的なコンセプトのもとに再配置されている。明るいポップを期待すると重く感じられるかもしれないが、ダークなエレクトロニック・ポップ、SF的な世界観、現代的な終末美学に関心があるリスナーには、非常に聴き応えのある作品である。

全曲レビュー

1. So Heavy I Fell Through the Earth

「So Heavy I Fell Through the Earth」は、アルバムの幕開けに置かれた長大で浮遊感のある楽曲である。タイトルは「重すぎて地球を突き抜けて落ちた」という意味を持ち、重力、落下、愛の重さ、存在の圧力が一体となっている。『Miss Anthropocene』の導入として、この曲は世界の終わりを派手に宣言するのではなく、深く沈み込むように始める。

音楽的には、ドリームポップとアンビエント・ポップの要素が強い。シンセは広く、リズムはゆっくりと揺れ、Grimesの声は空間の中に溶けていく。曲全体は、地上から下へ落ちていくというより、重力を失って宇宙空間を漂っているようにも聞こえる。この浮遊と沈降の二重感覚が重要である。

歌詞では、重さが中心的なイメージになる。愛や存在が重すぎるため、語り手は地球を突き抜けてしまう。これは恋愛の比喩としても読めるが、本作の文脈では、人類の重み、環境負荷、地球そのものへの沈み込みとしても読める。個人的な感情と惑星規模のイメージが重なるのが、Grimesらしい。

Grimesのヴォーカルは、ここで非常に非人間的で美しい。声は感情を直接ぶつけるのではなく、加工され、遠く、天体のように響く。悲しみや愛はあるが、それは人間的な距離ではなく、宇宙的な距離で表現される。

「So Heavy I Fell Through the Earth」は、『Miss Anthropocene』の入口として非常に効果的である。破滅は爆発ではなく、重力のように始まる。聴き手はこの曲で、地上から少しずつ離れ、Grimesの暗い惑星へ入っていく。

2. Darkseid

「Darkseid」は、アルバムの中でも特に不穏で、抽象的な楽曲である。タイトルはDCコミックスのヴィランDarkseidを連想させるが、曲の内容は単なるキャラクターへの言及ではなく、暗黒、支配、暴力、終末的な力を象徴しているように響く。本作のコンセプトである人類の破滅的側面を、暗い神話的存在として表現する曲である。

音楽的には、低く重いビートと、不安定なシンセ、陰鬱な空気が中心である。Grimesの声は前面に出すぎず、トラックの中で不気味に漂う。曲全体はポップソングとして明快に開かれるより、黒い霧のように広がる。前曲の浮遊感に対し、この曲ではより地底的で暗い質感がある。

歌詞は断片的で、絶望や暗さが反復される。世界の暗い面を見つめるというより、その暗さに包まれている状態が表現されている。Grimesはここで、破滅を論理的に説明しない。むしろ、暗さそのものを音にする。

この曲の重要な点は、本作の「神話化」の手法を示していることである。現代の不安、環境危機、社会的暴力、テクノロジーへの恐れは、ニュースや論文の言葉ではなく、Darkseidのような暗黒の存在として提示される。Grimesは現代の恐怖をポップ神話に変換している。

「Darkseid」は、アルバムのダークな基調を深める楽曲である。聴きやすさよりもムードを重視し、『Miss Anthropocene』が明るい未来のアルバムではないことを明確にする。

3. Delete Forever

「Delete Forever」は、本作の中でも最も感情的に直接的で、Grimesのソングライティングの新しい側面を示す楽曲である。タイトルは「永遠に削除する」という意味を持ち、デジタル時代の言葉である「delete」が、死や喪失、消去の比喩として使われている。薬物による死や友人の喪失を背景にした曲として聴ける、非常に重いバラードである。

音楽的には、アコースティック・ギターの響きが前面に出ており、Grimesの作品としては珍しくフォーク的な感触がある。シンセや加工された声も使われているが、曲の中心には素朴なコードとメロディがある。このアコースティックな質感が、歌詞の切実さを強めている。

歌詞では、薬物、喪失、死、後悔、消えてしまった人々への思いが歌われる。デジタル上では何かを削除できるが、人の死や記憶は簡単には消えない。「Delete Forever」という言葉には、消したい痛みと、消えてしまった人への取り返しのつかなさが同時にある。

Grimesのヴォーカルは、ここでは比較的人間的に響く。いつもの幽霊的な加工感は残るが、曲の感情はかなり直接的である。終末的なコンセプトの中で、この曲だけは非常に個人的な喪失へ焦点を合わせている。

「Delete Forever」は、『Miss Anthropocene』の中でも特に重要な曲である。地球規模の破滅や神話的な暗さだけでなく、実際に失われた人間の命と向き合うことで、アルバムに深い感情的な重さを与えている。

4. Violence

「Violence」は、アルバムの中でも最もダンス・ミュージックに接近した楽曲であり、本作の代表曲の一つである。タイトルは「暴力」を意味するが、曲は暗いクラブ・トラックのように洗練されている。この組み合わせが非常に重要である。暴力はここで、恐ろしいものとしてだけでなく、快楽、誘惑、反復するビートとして表現される。

音楽的には、i_oとの共同制作によるミニマルで鋭いビートが中心である。リズムは冷たく、シンセは無駄が少なく、Grimesの声はその上で軽く浮かぶ。曲は非常に踊りやすいが、歌詞の内容は不穏である。破壊的な関係、暴力への依存、壊されることへの奇妙な欲望が感じられる。

歌詞では、相手が自分に暴力を加えること、あるいは自分が暴力的なシステムに巻き込まれていることが、恋愛や快楽の言葉と重ねられる。これは個人的な関係としても、地球と人類の関係としても読める。人類は地球に暴力を振るい、同時にその破壊によって自分自身も傷ついている。『Miss Anthropocene』のコンセプトでは、この二重性が非常に重要である。

Grimesの声は、ここで感情を大きく叫ばない。むしろ、暴力を受け入れているような冷たさがある。そのため、曲はより不気味になる。暴力が悲劇としてではなく、快楽の一部として消費される現代的な感覚が、ダンスビートの中で表現されている。

「Violence」は、『Miss Anthropocene』の美学を非常によく示す楽曲である。破壊、快楽、クラブ的な身体性、環境的な比喩が一つに結びついた、冷たく美しいダーク・ポップである。

5. 4ÆM

「4ÆM」は、Grimesの中でも特にサイバーパンク的な疾走感を持つ楽曲である。タイトルは「午前4時」を意味するように読め、眠れない夜、クラブの終わり、夜明け前の危うい時間を連想させる。Æという文字を含む表記も、Grimesらしい人工的で未来的な感覚を強めている。

音楽的には、ドラムンベースやインド音楽的な旋律感、エレクトロニック・ポップ、ゲーム音楽的な高揚感が混ざっている。ビートは速く、曲は常に前へ走る。暗いアルバムの中にあって、この曲には強い運動性があるが、それは明るい解放というより、眠れない都市を駆け抜けるような焦燥である。

歌詞では、夜明け前の時間、覚醒、不眠、異常なテンションが感じられる。午前4時は、一日の終わりでも始まりでもない曖昧な時間であり、身体と精神が不安定になる時間である。Grimesはこの時間帯を、サイバーパンク的な高揚と不安の場として描く。

ヴォーカルは高く加工され、メロディは異国的で、曲全体が現実から少し外れている。Grimesはここで、世界の終末を静かに嘆くのではなく、終末の夜を高速で走る音楽として表現している。

「4ÆM」は、本作の中でも特にエネルギーのある楽曲である。暗さと疾走感、エスニックな旋律と未来的なビートが融合し、Grimesのジャンル横断的な才能が強く表れている。

6. New Gods

「New Gods」は、タイトル通り「新しい神々」をテーマにした楽曲であり、『Miss Anthropocene』の神話的コンセプトを直接的に示す重要曲である。人新世、テクノロジー、資本、人工知能、気候変動、ポップ・アイコンが、新しい神々として人間の前に現れる。古い宗教の神々ではなく、現代社会が作り出した新たな支配的存在が歌われているように響く。

音楽的には、ゆったりとしたテンポで、ダークなドリームポップとして展開される。シンセは広く、メロディは物憂げで、Grimesの声は透明でありながら不安を含む。曲は派手に爆発せず、静かな諦めのように進む。

歌詞では、新しい神々が必要なのか、あるいは新しい神々に見捨てられたのかという問いが感じられる。現代人はもはや古い神話だけでは世界を理解できず、テクノロジーや破壊的なシステムを神のように扱っている。しかし、その神々は人間を救うとは限らない。むしろ、彼らは人間が作ったにもかかわらず、人間を超えて支配する存在になっている。

Grimesのヴォーカルは、ここで祈りにも諦めにも聞こえる。彼女は新しい神々を賛美しているのではなく、その登場を冷たく見つめているようである。『Miss Anthropocene』というアルバムそのものが、新しい神の一形態を作っているとも言える。

「New Gods」は、本作の思想的な中心に近い楽曲である。人類が自ら生み出した力に支配されていく時代の不安を、静かなダーク・ポップとして表現している。

7. My Name Is Dark

「My Name Is Dark」は、『Miss Anthropocene』の中でも最も攻撃的で、ロック的な暗さを持つ楽曲である。タイトルは「私の名前は闇」という意味で、自己像そのものが暗黒と同一化している。Grimesの作品にしばしば見られるキャラクター化された自己表現が、ここではゴシックで破滅的な形を取っている。

音楽的には、歪んだギター、重いビート、インダストリアルな質感が組み合わさり、アルバムの中でも特に荒々しい。Grimesの声は高く加工されているが、曲全体にはロック的な攻撃性がある。電子音楽とメタル的な美学が混ざり、暗いネット空間の中で鳴るオルタナティブロックのように響く。

歌詞では、孤独、死、インターネット時代の破滅感、自己嫌悪、世界への苛立ちが断片的に現れる。Grimesはここで、終末の女神というアルバム全体のコンセプトを、自分自身の名前として引き受ける。闇は外部にあるだけでなく、自己の名前そのものになる。

この曲の魅力は、過剰な暗さをほとんど演劇的に扱っている点である。真剣な絶望でありながら、同時にキャラクター化されたダーク・ポップでもある。Grimesは現代的な自己表現の一つとして、闇や破滅をアバター化している。

「My Name Is Dark」は、本作の中でも特に強烈な曲である。インダストリアル、ゴシック、ネット時代の孤独、ポップな自己演出が一体となり、『Miss Anthropocene』の暗いエネルギーを最も直接的に示している。

8. You’ll Miss Me When I’m Not Around

「You’ll Miss Me When I’m Not Around」は、タイトルからして不在、別れ、死後の記憶を強く感じさせる楽曲である。「私がいなくなったら、あなたは私を恋しく思うだろう」という言葉は、恋愛の別れにも、死や自己消滅の予告にも聞こえる。本作の中では、比較的メロディアスでありながら、非常に不穏な曲である。

音楽的には、シンセポップとドリームポップの中間にあり、メロディは聴きやすい。ビートは強すぎず、Grimesの声が中心に置かれている。『Art Angels』ほど明るくはないが、曲としてのフックは比較的明確である。

歌詞では、不在になること、相手に後悔を残すこと、自分が消えた後に初めて価値が分かるという感覚が歌われる。これは個人的な関係にも読めるが、本作の環境的な文脈では、人類が失ってから自然や世界の価値に気づくという比喩にも聞こえる。地球、愛する人、自己。どの対象も、いなくなって初めて重要性が理解される。

Grimesの歌唱は、ここでは比較的素直で、メロディの美しさが前面に出る。しかし、その美しさの背後には消失の予感がある。聴きやすい曲であるほど、タイトルの冷たさが強く残る。

「You’ll Miss Me When I’m Not Around」は、『Miss Anthropocene』の中でポップ性と死のイメージが最も自然に結びついた楽曲である。軽やかに聞こえながら、不在の重みを静かに残す。

9. Before the Fever

「Before the Fever」は、タイトルが示す通り、「熱の前」をテーマにした楽曲である。熱は病、感染、情熱、災厄、地球温暖化、集団的な狂気を連想させる。本作の人新世的なテーマにおいて、このタイトルは非常に象徴的である。破滅が本格化する直前の、静かな不安を描く曲として聴ける。

音楽的には、非常に暗く、スロウで、沈み込むようなサウンドが特徴である。ビートは重く、シンセは深く、Grimesの声は遠くから聞こえる。曲全体に、何かが起こる前の静けさがある。終末そのものではなく、終末の直前の空気が表現されている。

歌詞では、終わりの予感、熱、接近する危機、逃れられない変化が感じられる。これは個人的な病の歌にも、地球規模の気候危機の歌にも読める。Grimesは具体的な説明を避け、抽象的なイメージによって不安を作る。

この曲は、アルバム終盤において非常に重要な沈降の役割を持つ。「4ÆM」や「My Name Is Dark」のようなエネルギーの後、ここではすべてが冷えていく。あるいは、熱が上がる前の静かな状態に入っていく。

「Before the Fever」は、『Miss Anthropocene』の終末的なムードを深める楽曲である。破滅を直接描くのではなく、その前兆としての静けさを音にしている。

10. IDORU

「IDORU」は、アルバムの最後を飾る楽曲であり、タイトルはWilliam Gibsonの小説『Idoru』を連想させる。Idoruは日本語の「アイドル」に由来する言葉で、仮想アイドル、人工的なポップスター、デジタル上の存在、偶像化された人格を思わせる。Grimesの美学と非常に相性の良い概念であり、アルバムの終曲として重要な意味を持つ。

音楽的には、本作の中では比較的明るく、ドリームポップ的な美しさがある。シンセは柔らかく、メロディは浮遊し、Grimesの声は愛らしく、どこか天使的に響く。暗いアルバムの最後に、完全な救済ではないが、淡い光が差すような曲である。

歌詞では、愛、理想化、存在しない相手への憧れ、偶像への感情が感じられる。IDORUという概念は、人間と人工物、現実と仮想、愛と消費の境界を曖昧にする。Grimes自身もまた、現代のデジタル・ポップにおいてキャラクター化された存在であり、この曲は自己言及的にも聴ける。

アルバム全体が終末、暴力、環境危機、死のイメージに満ちている中で、「IDORU」は不思議な軽さを持つ。ただし、それは現実的な希望というより、仮想空間の中で見る夢のような希望である。世界が壊れても、偶像やデジタルな愛は残るのかもしれない。あるいは、それもまた破滅の一部なのかもしれない。

「IDORU」は、『Miss Anthropocene』の終曲として美しい。暗い世界の最後に、人工的な天使のようなポップソングが現れることで、アルバムは完全な絶望ではなく、奇妙に甘い余韻を残して終わる。

総評

『Miss Anthropocene』は、Grimesのキャリアの中でも特に暗く、コンセプト性の強いアルバムである。『Art Angels』が極彩色のポップ実験だったのに対し、本作は黒く、重く、終末的である。人新世という地球規模のテーマを扱いながら、それを直接的な社会派アルバムにはせず、破滅の女神、暗いアイドル、人工的な神話として提示した点に、Grimesの独自性がある。

本作の最大の特徴は、破滅を美しく描いていることだ。環境危機、暴力、薬物、死、テクノロジーへの不安は、通常であれば警告や抗議の言葉で語られる。しかしGrimesは、それらを美しいメロディ、加工された声、暗いシンセ、ダンスビート、ゴシックなキャラクター性へ変換する。これは危険な美学でもある。破滅を魅力的に描くことは、破滅を批判することと紙一重である。しかし、その危うさこそが本作を現代的にしている。

「So Heavy I Fell Through the Earth」は、重力と落下の感覚でアルバムを開く。「Delete Forever」は、薬物と喪失を非常に人間的なバラードとして描く。「Violence」は、破壊と快楽をクラブ・トラックとして表現する。「4ÆM」は、夜明け前のサイバーパンク的な疾走を鳴らす。「My Name Is Dark」は、自己と闇を同一化するゴシックなインダストリアル・ポップである。そして「IDORU」は、暗い終末の後に人工的な甘さを残す。曲ごとに表情は異なるが、全体としては一貫した暗い未来像がある。

Grimesのヴォーカルは、本作において非常に重要である。彼女の声は、人間の声でありながら、人間ではないもののように響く。AI、天使、悪魔、少女、アイドル、亡霊。これらのイメージが、声の加工と重なっている。『Miss Anthropocene』というアルバムの擬人化された破滅の女神は、まさにこの声によって成立している。声がキャラクターになり、キャラクターが世界観になる。

音楽的には、Grimesの過去作の要素が暗い方向へ再統合されている。『Geidi Primes』や『Halfaxa』のローファイで神秘的な暗さ、『Visions』の電子音の浮遊感、『Art Angels』のポップなメロディ感覚。それらが、インダストリアル、ダークウェイヴ、トリップホップ、EDM的な質感と混ざり合っている。前作ほど曲ごとの派手な色彩はないが、アルバム全体のムードは非常に強い。

一方で、本作は聴き手を選ぶ。『Art Angels』のようなポップな即効性や明るい爆発力を期待すると、やや重く、内向的に感じられる。曲によっては構成が曖昧で、歌詞も抽象的である。また、環境危機や人新世という大きなテーマを掲げながら、その扱いがかなり美学化されているため、明確なメッセージを求めるリスナーには捉えにくい可能性もある。

しかし、その曖昧さは本作の本質でもある。現代の破滅は、単純な善悪や警告だけでは表現しきれない。人類は破壊を恐れながら、それを消費し、美化し、楽しみ、加速させている。『Miss Anthropocene』は、その矛盾を音楽として体現している。破滅を憎みながら、破滅の美しさに惹かれる。暴力を批判しながら、暴力的なビートで踊る。環境危機をテーマにしながら、それをポップ・キャラクターとして提示する。このねじれが、本作の核心である。

日本のリスナーにとって本作は、Grimesの中でもSF的・ゴシック的な側面が好きな場合に特に聴き応えがある。アニメ、ゲーム、サイバーパンク、ダークファンタジー、ネットカルチャー、環境不安が混ざったポップとして聴くと、その世界観が理解しやすい。明るいポップではないが、暗い電子音楽として非常に完成度が高い。

総じて『Miss Anthropocene』は、Grimesが人新世の不安を、破滅の女神というポップ神話へ変換したアルバムである。終末的でありながら美しく、冷たくありながら甘く、批判的でありながら誘惑的である。『Art Angels』のような開放感はないが、Grimesのキャリアにおける最も濃密なダーク・ポップ作品として重要な位置を占める。これは、人類が自らの破滅を見つめながら、それでも美しい音楽として消費してしまう時代のアルバムである。

おすすめアルバム

1. Grimes – Visions(2012)

Grimesの出世作であり、「Oblivion」「Genesis」を収録した代表作である。『Miss Anthropocene』よりもローファイで夢幻的だが、電子音、声の加工、個人的な不安をポップに変換する感覚は共通している。Grimesの核心を知るうえで欠かせない。

2. Grimes – Art Angels(2015)

『Miss Anthropocene』の前作であり、Grimesが最もカラフルでポップな方向へ振り切ったアルバムである。Jポップ、Kポップ、EDM、ロック、アートポップを大胆に混ぜた作品で、『Miss Anthropocene』の暗さと対照的に聴くことで、Grimesの幅広さがよく分かる。

3. Grimes – Halfaxa(2010)

初期Grimesのゴシックで儀式的な側面を強く示す作品である。『Miss Anthropocene』の暗いムードや幽霊的な声の使い方は、この初期作品とも深くつながっている。洗練前の神秘的なGrimesを知るために重要である。

4. Crystal Castles – Crystal Castles II(2010)

暗い電子音、ノイズ、ゴシックなクラブ感覚、インターネット時代の冷たい暴力性を持つ作品である。Grimesより攻撃的で荒いが、『Miss Anthropocene』のダークなエレクトロニック感覚と関連性が高い。

5. FKA twigs – MAGDALENE(2019)

繊細な声、身体性、電子音、宗教的・神話的イメージ、痛みの美学を持つ作品である。Grimesとは音楽性が異なるが、現代のアートポップにおいて、個人的な痛みや大きな象徴性を先鋭的なプロダクションで表現する点で響き合う。

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