発売日: 2018年8月17日
ジャンル: インディーポップ、アートポップ、オルタナティブロック
『Be the Cowboy』は、ミツキの表現力とアーティストとしての幅広さを存分に発揮したアルバムであり、彼女の音楽的キャリアにおける新たな頂点を示した作品だ。本作では、シンセサウンドやポップな要素を大胆に取り入れつつ、ミニマルで洗練されたプロダクションが特徴的だ。その一方で、歌詞には内面的な孤独や愛の複雑さ、自己探求といったテーマが深く掘り下げられており、感情的な重みを失っていない。
タイトルに込められた「カウボーイであれ」というフレーズは、自らの感情や行動をコントロールする力強さを象徴している。ミツキはその強さを探求しながら、同時に人間の弱さや傷つきやすさを描くという相反するテーマを、アルバム全体で巧みに融合させている。
トラック解説
- Geyser
アルバムのオープニングを飾るこの曲は、静かに始まりながら、次第に感情が高まっていくダイナミックな構成が印象的だ。歌詞では愛と情熱が火山の噴火のように描かれ、爆発的な感情が音楽の中に表現されている。 - Why Didn’t You Stop Me?
シンセを多用したポップなサウンドが際立つ一曲。軽快なメロディーに反して、歌詞は後悔と喪失感を描いており、そのギャップが楽曲に深みを与えている。 - Old Friend
控えめなピアノのアレンジが印象的な楽曲。失われた友情や未練を歌った歌詞が、穏やかなサウンドの中に切なさを漂わせている。 - A Pearl
疾走感のあるリズムとメランコリックなメロディーが特徴の一曲。歌詞では「真珠」を心の中の痛みやトラウマの象徴として用いており、ミツキの詩的な感性が光る。 - Lonesome Love
カントリー風の軽快なギターが目立つ楽曲で、孤独と愛の矛盾がテーマとなっている。「Nobody butters me up like you」などのシニカルなフレーズが印象的だ。 - Remember My Name
重厚なギターリフとエネルギッシュなボーカルが響く一曲。タイトルの通り、存在を忘れられることへの恐れと、その中で自分を認めてもらいたいという願望が込められている。 - Me and My Husband
短いながらもインパクトのあるポップソング。結婚生活の表面にある平穏と、その裏に潜む孤独や自己喪失が描かれる。ミツキの鋭い洞察力が光る楽曲だ。 - Come into the Water
静謐なサウンドスケープが広がる楽曲で、タイトル通り「水」のイメージが楽曲全体に漂う。癒やしと危うさが共存する独特の空気感を持つ。 - Nobody
本アルバムの代表曲で、軽快なディスコ調のリズムに乗せて、孤独の感情を大胆に歌い上げた一曲。繰り返される「Nobody」というフレーズが、切迫した孤独感をシンプルに強調している。 - Pink in the Night
甘美なメロディーの中に、静かな狂気が感じられる一曲。愛への執着や切望が描かれ、聴き手を複雑な感情に引き込む。 - A Horse Named Cold Air
ミニマルなピアノアレンジが印象的な楽曲で、深い孤独と静けさを描いている。タイトルに象徴されるように、不気味さと美しさが同時に存在する。 - Washing Machine Heart
アップテンポなシンセポップで、身体と心の関係性を象徴的に描いた歌詞が特徴。「Washing Machine」にたとえられる恋愛の機械的な側面がテーマとなっている。 - Blue Light
スローなビートと暗い雰囲気が漂う楽曲。夜の孤独感や、心の深い部分に触れる歌詞が印象的だ。 - Two Slow Dancers
アルバムのラストを飾るこの曲は、シンプルなアレンジとノスタルジックな歌詞で、アルバム全体を締めくくるにふさわしい一曲。ゆっくりと踊る二人の姿が、時間の儚さや過去への思いを象徴している。
アルバム総評
『Be the Cowboy』は、ミツキのアーティストとしての進化を象徴する作品だ。大胆なサウンドと緻密なプロダクションが、彼女の感情的で詩的な歌詞を際立たせている。孤独や愛の矛盾、自己探求といったテーマをポップな楽曲で描き出すことに成功しており、リスナーに強いインパクトを与える。実験的でありながらも親しみやすさを持つこのアルバムは、ミツキの代表作としてインディーロック史に刻まれるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Melodrama by Lorde
ポップなサウンドに内面的な歌詞を乗せたアルバムで、『Be the Cowboy』の感情的な深さとポップセンスを共有する。
Punisher by Phoebe Bridgers
孤独と喪失感を詩的に描いたアルバムで、ミツキの内省的な歌詞世界と共鳴する部分が多い。
Titanic Rising by Weyes Blood
壮大なアレンジと普遍的なテーマを追求した作品で、ミツキの持つノスタルジックな感覚とリンクする。
Masseduction by St. Vincent
実験的なポップサウンドと鋭い歌詞が特徴のアルバムで、ミツキの『Be the Cowboy』に通じる大胆さを持つ。
Stranger in the Alps by Phoebe Bridgers
静謐なアレンジと感情的な歌詞が共通点として挙げられ、ミツキの繊細な表現を愛するリスナーにおすすめ。
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