
発売日:2003年10月20日
ジャンル:ジャズ・ソウル、R&B、ネオ・ソウル、ソウル、ジャズ・ポップ
概要
Amy Winehouseの『Frank』は、2003年に発表されたデビュー・アルバムであり、後の世界的成功作『Back to Black』以前の彼女の音楽的出発点を示す重要な作品である。『Back to Black』が1960年代ガール・グループ、モータウン、ディープ・ソウル、ドゥーワップの影響を濃厚に打ち出した作品だったのに対し、『Frank』はよりジャズ、ネオ・ソウル、ヒップホップ・ソウル、2000年代初頭の英国R&Bに近い音像を持っている。ここでのWinehouseは、後年の悲劇的なソウル・アイコンというより、鋭い観察眼、乾いたユーモア、ジャズ・ヴォーカルの素養、率直な恋愛観を持つ若いシンガーソングライターとして登場する。
タイトルの『Frank』は、「率直な」「遠慮のない」という意味を持つと同時に、Frank Sinatraへの敬意を連想させる。Amy Winehouseは幼少期からジャズを聴き、Sarah Vaughan、Dinah Washington、Ella Fitzgerald、Billie Holiday、Frank Sinatraといった歌手の影響を受けていた。『Frank』では、そのジャズ的素養がはっきりと表れている。ただし、彼女は古典的なジャズ・シンガーとしてデビューしたわけではない。ジャズのフレージング、コード感、スウィングする感覚を、ネオ・ソウルやR&Bのビート、当時のロンドンの都市的なムードへ接続している。
このアルバムの重要性は、Amy Winehouseの歌詞の個性がすでに明確に表れている点にある。彼女の歌詞は、恋愛の理想化よりも、関係の不格好さ、性的な率直さ、相手への苛立ち、自分自身の矛盾、社会的な視線への反発を描く。『Frank』のWinehouseは、傷ついた女性というより、相手を観察し、切り捨て、嘲笑し、それでも愛や欲望に巻き込まれる女性である。その言葉には、年齢以上の老成した感覚と、若さゆえの攻撃性が同居している。
音楽的には、プロデューサーのSalaam Remiを中心に、ジャズ、R&B、ヒップホップ的なビート、アコースティックな響きが融合されている。2000年代初頭のネオ・ソウル、特にErykah Badu、Jill Scott、D’Angelo、The Roots周辺の影響も感じられるが、Winehouseの声と歌詞は明らかに英国的な鋭さを持つ。アメリカのネオ・ソウルが黒人音楽の歴史とスピリチュアルな自己認識に深く根ざしていたのに対し、『Frank』はロンドンの若い女性の私生活、恋愛、クラブ、ベッドルーム、苛立ちを、ジャズとR&Bの言語で描いた作品といえる。
Amy Winehouseのヴォーカルは、本作の時点ですでに非常に完成されている。彼女の声は太く、低く、鼻にかかった独特の響きを持ち、フレーズを後ろへ引きずるようなジャズ的タイム感がある。単に音程を正確に歌うのではなく、言葉の意味に合わせてリズムを崩し、伸ばし、吐き捨て、時に笑うように歌う。この語りの感覚が、彼女を同世代のR&Bシンガーとは異なる存在にしている。彼女の歌は、メロディをなぞるだけでなく、登場人物の性格や関係性を演じる。
キャリア上の位置づけとして、『Frank』は『Back to Black』の前段階であると同時に、別の可能性を持ったAmy Winehouseの記録でもある。『Back to Black』では、彼女の音楽はよりレトロ・ソウルへ凝縮され、歌詞も破滅的な恋愛と自己崩壊の方向へ深まっていく。しかし『Frank』には、より広いジャズ/R&Bのフィールド、軽やかなユーモア、知的な言葉遊び、若い才気がある。ここには、後のWinehouseを予感させる痛みもあるが、それ以上に、彼女がいかに優れたジャズ感覚とソングライティング能力を持っていたかが記録されている。
全曲レビュー
1. Intro / Stronger Than Me
アルバムは短いイントロを経て「Stronger Than Me」へ入る。この曲はAmy Winehouseのデビュー・シングルであり、彼女の歌詞の率直さ、ユーモア、そして挑発性を最初に示す重要曲である。タイトルは「私より強いはずなのに」という意味で、恋人に対して精神的な弱さや頼りなさを指摘する内容になっている。
音楽的には、ジャズ・ソウルとR&Bの中間にあるゆったりとしたグルーヴが特徴である。ベースは深く、ドラムは控えめに揺れ、コード進行にはジャズ的な洒落た感覚がある。Winehouseの声は最初から非常に存在感があり、若い新人とは思えないほど余裕を持って言葉を操る。彼女は相手を責めながらも、完全に怒っているわけではない。呆れ、皮肉、失望、愛情の残滓が混ざった歌唱である。
歌詞では、語り手が恋人に対して「もっと男らしくあってほしい」と求める。ただし、これは単純なジェンダー観の押し付けとしてだけ読むべきではない。Winehouseはここで、恋愛関係における役割期待そのものを皮肉に扱っている。相手に頼りたいのに、相手が自分より弱く見える。その苛立ちを、彼女は非常にストレートに歌う。恋愛の失望を美しく包むのではなく、会話の中で相手に浴びせるような言葉で表現している。
「Stronger Than Me」は、『Frank』のタイトル通り、率直で遠慮のないAmy Winehouse像を提示する。ジャズ的な洗練と、パブでの口論のような生々しさが同居した、彼女らしいデビューの一撃である。
2. You Sent Me Flying / Cherry
「You Sent Me Flying」は、失恋によって感情が大きく揺さぶられる様子を描いた楽曲である。タイトルは「あなたは私を吹き飛ばした」という意味を持ち、恋愛の衝撃、拒絶された痛み、自尊心の崩れを示している。続く短いセクション「Cherry」は、彼女のギターへの愛着を歌うような軽い小品として機能し、感情の重い前半に対して親密な余韻を加える。
音楽的には、ジャズ・バラードの要素が強く、ピアノとベースの柔らかな響きがWinehouseの歌を支える。彼女のヴォーカルは非常にしなやかで、フレーズの末尾を引き延ばしたり、言葉をわずかに遅らせたりすることで、感情の揺れを表現する。ここでは『Frank』のジャズ・シンガーとしての側面が特に強く出ている。
歌詞では、相手に拒絶されたことによって、語り手の心が空中へ放り出されるような感覚が描かれる。Winehouseの恋愛表現は、被害者的な悲しみに閉じない。彼女は傷ついているが、その傷を観察し、少し皮肉っぽく言葉にする。自分がどれほど動揺しているかを認めながら、それを冷静に歌にする力がある。
「Cherry」は、より小さな親密さを持つパートであり、彼女の音楽生活の身近な道具としてのギターを感じさせる。恋愛の痛みから、音楽という自分の場所へ戻るような効果もある。二部構成として、Winehouseの傷つきやすさと音楽的な自立が同時に表れる楽曲である。
3. Know You Now
「Know You Now」は、相手を見抜く視線をテーマにした楽曲である。タイトルは「今のあなたを知っている」という意味で、恋愛における幻想が剥がれ、相手の本当の姿が見えてくる瞬間を描く。Winehouseの歌詞には、相手の嘘や弱さを鋭く観察する力があるが、この曲はその典型である。
音楽的には、軽いジャズ・ファンクの感覚を持ち、リズムには少し跳ねるような動きがある。曲は重くなりすぎず、むしろ皮肉な余裕を持って進む。Winehouseの声も、感情を大きく爆発させるより、相手を冷静に見つめるように響く。
歌詞では、相手が以前とは違って見えること、あるいは最初から見えていなかった本性が分かってきたことが歌われる。恋愛の初期には魅力的に見えたものが、時間が経つにつれて不誠実さや浅さとして見えてくる。Winehouseはその失望を、嘆きではなく、冷めた観察として表現する。
「Know You Now」は、『Frank』における若い女性の知性と批評性を示す曲である。彼女は恋に溺れるだけではない。相手を見て、判断し、言葉にする。その視線の鋭さが、Winehouseのソングライターとしての大きな魅力である。
4. Fuck Me Pumps
「Fuck Me Pumps」は、『Frank』の中でも特に辛辣で、風刺性の強い楽曲である。タイトルは、性的なアピールを意識したハイヒールを指す俗語であり、クラブやバーで男性の視線を集めようとする女性像を皮肉に描いている。Winehouseはここで、女性を一方的に嘲笑しているだけではなく、男性の視線、消費される女性性、都市の夜の空虚さを鋭く描く。
音楽的には、軽快なジャズ・ソウルのアレンジが特徴で、歌詞の辛辣さに対してサウンドは非常に洒落ている。この対比が曲の魅力である。Winehouseの歌唱は、ほとんどコメディ的な語りのように進み、登場人物を観察しながら、その虚しさを浮き彫りにする。
歌詞では、夜の街で男性の注目を求め、ブランドや外見、性的な魅力に依存する女性像が描かれる。しかし、その背景には、社会が女性に求める価値基準もある。Winehouseの視線は冷たいが、完全な外部からの嘲笑ではない。彼女自身もまた、女性として見られること、欲望されること、評価されることの構造の中にいる。そのため、この曲には批判と自己認識の両方がある。
「Fuck Me Pumps」は、Amy Winehouseの歌詞の毒を最も分かりやすく示す楽曲である。ジャズの洗練と、街角の辛口な観察が融合した、デビュー作ならではの鋭い一曲である。
5. I Heard Love Is Blind
「I Heard Love Is Blind」は、浮気や裏切りを扱った楽曲だが、通常の懺悔の歌とは異なり、Winehouseらしい皮肉と自己弁護が強く出ている。タイトルは「愛は盲目だと聞いた」という意味で、語り手は自分の不誠実な行動を、どこか冗談めかして説明しようとする。
音楽的には、短く、ジャズ・スタンダード風の親密な曲である。アレンジはシンプルで、Winehouseの声とコードの温度が中心になる。彼女の歌唱は非常に会話的で、まるで恋人に言い訳をしているように響く。この演劇的な語り口が、この曲の大きな魅力である。
歌詞では、語り手が別の相手と関係を持った理由を説明する。そこには罪悪感もあるが、同時に相手を説得しようとするずるさもある。Winehouseは自分を完全な被害者や清らかな恋人として描かない。むしろ、自分の身勝手さや矛盾も歌にする。この正直さが『Frank』全体の魅力である。
「I Heard Love Is Blind」は、Winehouseのユーモア、ジャズ的な小品感覚、そして道徳的にきれいではない感情を歌にする力を示す。短いながら、彼女のソングライティングの個性が強く刻まれた楽曲である。
6. Moody’s Mood for Love / Teo Licks
「Moody’s Mood for Love」は、James Moodyの有名なジャズ楽曲をもとにしたカバーであり、Amy Winehouseのジャズ・ヴォーカルへの深い理解を示す重要なトラックである。もともとは高度なメロディとスキャット的な歌唱を要する楽曲であり、若いシンガーにとっては技術的な挑戦でもある。
Winehouseはこの曲で、単なるR&Bシンガーではなく、ジャズの言語を自然に扱える歌手であることを示している。メロディの動きは複雑で、フレージングも細かいが、彼女はそれを技巧の誇示としてではなく、自然な感情表現として歌う。音の跳躍や細かなリズムの処理に、彼女の音楽的な基礎の強さが表れている。
歌詞は、愛に酔うような幸福と陶酔を描く。アルバムの中で辛辣な楽曲が多い中、この曲はよりクラシックなロマンティック・ジャズの世界に近い。しかしWinehouseの声には、甘さだけでなく、どこか現代的な乾きもある。そのため、古典的な曲でありながら、懐古的になりすぎない。
「Teo Licks」と呼ばれる短いパートも含め、このトラックはWinehouseがジャズの伝統を自分の中に取り込んでいることを示す。『Frank』の音楽的な根がどこにあるのかを明確にする、重要なカバーである。
7. (There Is) No Greater Love
「(There Is) No Greater Love」は、ジャズ・スタンダードのカバーであり、『Frank』におけるもう一つの重要なジャズ的瞬間である。原曲は多くのジャズ歌手や奏者によって演奏されてきた名曲であり、Winehouseはここでクラシックなラヴ・ソングを自身の声で再解釈している。
音楽的には、落ち着いたジャズ・バラードとして構成されており、彼女の声の豊かな低音と、しなやかなフレージングが際立つ。若い歌手でありながら、Winehouseの歌唱には古いジャズ・クラブのような成熟した空気がある。これは単なる模倣ではなく、彼女がその音楽を身体化していることを示す。
歌詞は、比類なき愛を賛美する非常にストレートな内容である。『Frank』の多くの自作曲では、愛は皮肉、失望、欲望、裏切りと結びついているが、この曲ではより純粋な愛の表現が中心になる。そのため、アルバムの中で一種の対照を作っている。
「(There Is) No Greater Love」は、Winehouseのルーツとしてのジャズを明確に示す楽曲である。彼女の後のソウル・シンガーとしての評価の背後には、このようなジャズ・ヴォーカリストとしての確かな素養があったことが分かる。
8. In My Bed
「In My Bed」は、Nasの「Made You Look」と同じサンプル源を用いたことで知られる楽曲であり、『Frank』の中でもヒップホップ的な感覚が強く表れた一曲である。タイトルは「私のベッドで」という直接的な言葉で、身体的な関係と感情的な距離のズレがテーマになっている。
音楽的には、硬めのビートとジャズ・ソウル的なコードが組み合わされ、非常に都市的な空気を持つ。Winehouseのヴォーカルは、ビートに対して強く乗るというより、少し後ろへ引きながら、言葉を鋭く置いていく。ヒップホップ的なプロダクションとジャズ的なフレージングが融合している点が重要である。
歌詞では、身体的には関係を持っていても、感情的にはかつてのような親密さがない状態が描かれる。相手はベッドにいる。しかし、心はそこにない。Winehouseはこのズレを非常に冷静に歌う。肉体と感情が一致しない関係は、彼女の歌詞における重要なテーマのひとつである。
「In My Bed」は、『Frank』が単なるジャズ・ソウル作品ではなく、2000年代初頭のヒップホップ以降のR&B作品でもあることを示す。ビートの強さと歌詞の冷静さが結びついた、アルバム中盤の重要曲である。
9. Take the Box
「Take the Box」は、別れの後に相手の持ち物を返す情景を通じて、関係の終わりを描いたバラードである。タイトルは「箱を持っていって」という意味で、部屋に残された物、記憶、過去の断片が象徴的に扱われる。
音楽的には、ピアノを中心にしたソウル・バラードで、Winehouseの声の感情的な深さがよく表れている。曲は派手に盛り上がるのではなく、淡々とした語りの中で痛みを積み上げていく。彼女の声には、怒り、悲しみ、諦めが微妙に混ざっている。
歌詞では、相手が残した物を箱に詰めて返す場面が描かれる。これは非常に具体的で、日常的な別れの描写である。恋愛の終わりは大きなドラマだけではなく、部屋の中の荷物、鍵、服、手紙をどうするかという現実的な行為として現れる。Winehouseはその具体性によって、失恋の痛みを生々しくする。
「Take the Box」は、『Frank』の中でも特に優れたソングライティングを持つ曲である。抽象的な悲しみではなく、物を返すという行為を通じて関係の終わりを描く点に、Winehouseの観察力がよく表れている。
10. October Song
「October Song」は、Amy Winehouseが飼っていたカナリアへの追悼として書かれた楽曲とされ、アルバムの中でも特に個人的で温かい響きを持つ。恋愛の曲が多い『Frank』の中で、この曲は愛と喪失をより広い意味で扱う。
音楽的には、穏やかなジャズ・ソウルの質感があり、曲全体に優しい空気が流れる。Winehouseの声は柔らかく、ここでは毒や皮肉よりも、親密な記憶への愛情が前面に出ている。メロディも温かく、アルバム中盤に穏やかな光をもたらす。
歌詞では、小さな存在への愛、別れ、思い出が描かれる。人間の恋愛とは違うが、失ったものを悼む感情は共通している。Winehouseはこの曲で、彼女の音楽が辛辣さだけではなく、深い情愛も持っていることを示す。
「October Song」は、Amy Winehouseの人間的な柔らかさを感じさせる楽曲である。後年の彼女のイメージからは見落とされがちな、優しく個人的なソングライターとしての側面がよく表れている。
11. What Is It About Men
「What Is It About Men」は、男性に惹かれ、傷つき、繰り返し同じような関係に巻き込まれてしまう心理を描いた楽曲である。タイトルは「男たちの何がそうさせるのか」という意味で、欲望と自己認識が交差する。
音楽的には、ダークで滑らかなR&B/ジャズ・ソウルのグルーヴがあり、アルバム後半の中でも特に内省的な雰囲気を持つ。Winehouseの声は落ち着いているが、歌詞には苦い自己分析がある。彼女は男性を責めているだけでなく、自分自身がなぜそうした関係に引き寄せられるのかを見つめている。
歌詞では、家庭環境や過去の経験が、恋愛の選択に影響していることが示唆される。これは後の『Back to Black』へ続く重要なテーマである。Winehouseは恋愛の破綻を単なる相手の問題としてではなく、自分の内面のパターンとして捉え始めている。
「What Is It About Men」は、『Frank』の中でも特に成熟した内省を持つ曲である。恋愛の毒を描きながら、自分がその毒を求めてしまう理由にも目を向ける。Amy Winehouseのソングライティングが深くなる方向を予感させる楽曲である。
12. Help Yourself
「Help Yourself」は、相手を救いたいが、最終的には本人が自分で変わるしかないという認識を歌った楽曲である。タイトルは「自分で自分を助けて」という意味で、恋愛や人間関係における限界がテーマになっている。
音楽的には、明るめのジャズ・ソウル調で、リズムには軽いスウィング感がある。Winehouseの歌唱も比較的軽やかだが、歌詞には現実的な厳しさがある。彼女は相手に対して優しさを持ちながらも、依存や自己破壊を引き受けることはできないと知っている。
歌詞では、誰かを愛していても、その人の問題を代わりに解決することはできないという視点が示される。これは非常に重要なテーマである。Winehouseの歌にはしばしば破滅的な愛が登場するが、この曲ではまだ距離を取り、相手に責任を返す冷静さがある。
「Help Yourself」は、『Frank』の中で最も健康的な自己防衛の感覚を持つ曲のひとつである。相手を思うことと、自分まで巻き込まれることは違う。その線引きが、軽やかな音楽の中で歌われている。
13. Amy Amy Amy / Outro
「Amy Amy Amy」は、アルバム本編の最後に置かれる楽曲であり、自己戯画化、欲望、ユーモアが入り混じった曲である。タイトルに自分の名前を繰り返すことで、Winehouseは自分自身をキャラクター化し、恋愛や性的な衝動に振り回される“Amy”を演じる。
音楽的には、ジャズ・ファンク的な軽さがあり、曲は遊び心を持って進む。彼女のヴォーカルは自由で、語り、歌い、笑うように動く。深刻なバラードで締めくくるのではなく、このような自己風刺的な曲を置くことで、『Frank』はWinehouseのユーモラスで生意気な側面を最後まで保っている。
歌詞では、欲望に弱い自分、男性に惹かれてしまう自分、理性では制御しきれない自分が描かれる。だが、ここには単なる自己嫌悪ではなく、自分の滑稽さを笑える強さがある。Winehouseは自分を美化しない。だらしなさ、欲望、未熟さを含めて、自分を歌の中に置く。
アウトロはアルバム全体をゆるやかに閉じる役割を果たす。『Frank』は、完璧な結論へ向かう作品ではなく、Amy Winehouseという若いアーティストの頭の中、恋愛遍歴、音楽的ルーツ、毒舌、脆さを広げた作品である。その意味で「Amy Amy Amy」は非常にふさわしい終曲である。
総評
『Frank』は、Amy Winehouseのデビュー作でありながら、彼女の音楽的才能と歌詞の個性を極めて明確に示したアルバムである。後の『Back to Black』の巨大な成功と悲劇的なイメージによって、本作はしばしば前段階として語られがちだが、独立した作品として非常に高い完成度を持っている。ここには、ジャズ・ヴォーカリストとしての基礎、R&Bシンガーとしての感情表現、ソングライターとしての観察力、そして若い女性としての率直で辛辣な言葉がある。
本作の最大の魅力は、Amy Winehouseの声と言葉がほとんど分離できない点にある。彼女は美しいメロディを歌うだけではなく、言葉の内容に合わせて声の表情を変える。「Stronger Than Me」では呆れと皮肉を、「Take the Box」では別れの後の現実的な痛みを、「I Heard Love Is Blind」ではずるい言い訳のユーモアを、「What Is It About Men」では自己分析の苦さを表現する。彼女の歌唱は、単なるヴォーカル・パフォーマンスではなく、人物描写である。
音楽的には、『Frank』はジャズとネオ・ソウルの融合として非常に興味深い。2000年代初頭の英国音楽シーンにおいて、R&Bやソウルはアメリカの影響を受けつつも、独自の都市的な冷たさやアイロニーを持っていた。Winehouseはそこに、ジャズ・スタンダードへの深い愛情と、ヒップホップ以降のビート感覚を持ち込んだ。結果として、本作はクラシックなジャズ・ヴォーカル作品でも、単純なR&Bアルバムでもなく、両者を自由に行き来する作品になっている。
歌詞面では、タイトル通りの率直さが際立つ。Winehouseは、恋愛を美しい理想として描くことに興味がない。相手が頼りないこと、性的な関係と感情が一致しないこと、浮気をしてしまうこと、男性に惹かれる自分の癖、別れた後に荷物を返す現実、クラブで男性の視線を浴びる女性たちの空虚さ。彼女はこうした題材を、遠慮なく、時に下品に、時に非常に知的に歌う。この率直さが、彼女を同時代の多くのシンガーと分けている。
『Frank』のAmy Winehouseは、まだ後年のような破滅的な神話の中にはいない。むしろ彼女は、相手を見抜き、自分を笑い、傷つきながらも言葉で切り返す力を持つ。もちろん「What Is It About Men」などには、後の作品へつながる自己破壊的な恋愛パターンの兆しもある。しかし本作の中心にあるのは、破滅よりも才気である。彼女は鋭く、早熟で、ジャズに深く通じ、会話のように歌詞を書ける稀有なシンガーソングライターだった。
一方で、アルバムとしては『Back to Black』ほどの凝縮度や統一されたレトロ・ソウルの美学はない。曲によってジャズ、ネオ・ソウル、ヒップホップ・ソウル、スタンダード・カバーが混在し、やや長く感じられる部分もある。しかし、その散らばりこそが『Frank』の魅力でもある。ここには、デビュー時のWinehouseが持っていた多方向への可能性が記録されている。彼女はジャズ歌手にも、R&Bシンガーにも、毒舌のソングライターにも、ポップ・スターにもなり得た。その可能性の広さが本作から伝わる。
日本のリスナーにとって『Frank』は、『Back to Black』の前にあるAmy Winehouseのルーツを知る上で欠かせないアルバムである。派手なソウル・ポップを期待するとやや地味に感じられるかもしれないが、ジャズの響き、言葉の鋭さ、ビートの柔らかさ、歌の間合いに耳を向けると、非常に豊かな作品であることが分かる。Norah Jonesのジャズ・ポップ的な落ち着き、Erykah Baduのネオ・ソウル的知性、Lauryn Hillの率直な女性の語り、そしてBillie Holiday的な痛みの表現が、Winehouse独自の英国的ユーモアと結びついている。
『Frank』は、完成された悲劇のアイコンではなく、才能ある若い音楽家としてのAmy Winehouseを捉えた作品である。彼女はここで、率直に、皮肉に、時に優しく、時に残酷に、自分と周囲の人間を歌っている。ジャズとR&Bの境界で鳴るこのデビュー作は、後の成功作とは異なる角度から、Amy Winehouseの本質を伝える重要なアルバムである。
おすすめアルバム
1. Amy Winehouse – Back to Black
Amy Winehouseの代表作であり、1960年代ソウル、ガール・グループ、モータウン、ドゥーワップの影響を濃厚に反映した作品。『Frank』よりも音楽性は凝縮され、歌詞は失恋、依存、自己破壊の方向へ深まっている。Winehouseのキャリアを理解する上で必聴の一枚である。
2. Erykah Badu – Baduizm
ネオ・ソウルを代表するデビュー作。ジャズ、R&B、ヒップホップ、スピリチュアルな歌詞が融合しており、『Frank』におけるジャズ・ソウル的な感覚を理解する上で関連性が高い。Winehouseとは文化的背景が異なるが、声の個性と知的な歌詞という点で響き合う。
3. Lauryn Hill – The Miseducation of Lauryn Hill
歌、ラップ、ソウル、レゲエ、ヒップホップを融合し、恋愛、自己認識、女性としての主体性を描いた歴史的名盤。Winehouseの率直な歌詞や、個人的な経験をソウル/R&Bへ変換する手法と比較して聴く価値が高い。
4. Billie Holiday – Lady in Satin
Amy Winehouseが深く影響を受けたジャズ・ヴォーカルの伝統を理解する上で重要な作品。声の傷、フレージングの遅れ、言葉に宿る痛みという点で、Winehouseの歌唱の背景を知る手がかりになる。
5. D’Angelo – Voodoo
ネオ・ソウルの金字塔であり、ジャズ、ファンク、R&B、ヒップホップの揺れたグルーヴを極限まで深めた作品。『Frank』よりも濃密でファンク色が強いが、2000年代初頭のソウル/R&Bが持っていた有機的なグルーヴを理解する上で重要である。

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