
- 発売日: 1983年4月27日
- ジャンル: ニュー・ウェイヴ、シンセ・ポップ、ダンス・ロック、ポスト・パンク、エレクトロ・ポップ、カレッジ・ロック
概要
The B-52’sの『Whammy!』は、1983年にリリースされた3作目のスタジオ・アルバムであり、バンドが初期のサーフ・ロック/ガレージ・ロック色の強いニュー・ウェイヴから、よりシンセサイザーとドラムマシンを取り入れたエレクトロニックなダンス・ポップへ踏み出した作品である。1979年のデビュー作『The B-52’s』と1980年の『Wild Planet』で、彼らは「Rock Lobster」「Planet Claire」「Private Idaho」などを通じて、1950年代風のSF映画、サーフ・ギター、奇妙なユーモア、男女ヴォーカルの掛け合い、パーティー的なエネルギーを融合させた独自のスタイルを確立した。『Whammy!』は、その個性を保ちながら、1980年代前半のシンセ・ポップ/エレクトロ・ファンク的な音響へ大胆に接近したアルバムである。
The B-52’sは、ジョージア州アセンズ出身のバンドであり、ニューヨークのニュー・ウェイヴやポスト・パンクの流れとも接続しながら、他のどのバンドとも違うキッチュで祝祭的な音楽を作り上げた。Fred Schneiderの朗読に近いコミカルなヴォーカル、Kate PiersonとCindy Wilsonの力強く華やかなハーモニー、Ricky Wilsonの独特なギター・チューニングとリフ、Keith Stricklandのリズム感覚が、初期The B-52’sのサウンドを支えていた。『Whammy!』では、そのバンド・サウンドにシンセサイザーやリズムマシンが大きく導入され、より機械的でカラフルな方向へ変化している。
アルバム・タイトルの「Whammy」は、強い衝撃、魔力、呪い、あるいは派手な一撃のような意味を持つ言葉である。このタイトルは、本作のキャラクターをよく表している。『Whammy!』は、深刻な内省やロック的な重厚さよりも、瞬間的な刺激、明るい音色、奇妙な言葉遊び、コミカルなエネルギーを重視するアルバムである。音は軽く、人工的で、時に漫画のように跳ねる。だが、その軽さは単なる浅さではない。The B-52’sは、ポップ・カルチャーの断片や安っぽいSF感覚、子どもの遊びのような反復を、非常に意識的に音楽へ取り込んでいる。
本作で特に重要なのは、バンドがギター中心のニュー・ウェイヴから、電子的なリズムとシンセの質感へ移行している点である。1983年という時期は、MTV、シンセ・ポップ、ニュー・ロマンティック、エレクトロ・ファンク、初期ヒップホップ、ダンス・ミュージックがポップ・シーンに大きな影響を与えていた時代である。The B-52’sはその時代の空気を取り込みながらも、自分たちの奇妙なパーティー感覚を失わなかった。結果として『Whammy!』は、初期のガレージ感と80年代的な電子ポップの中間にある、独特の作品になっている。
歌詞のテーマは、いつものThe B-52’sらしく、恋愛、ダンス、遊び、子どもじみた掛け声、奇妙なキャラクター、身体の動き、テレビ的・SF的なイメージが中心である。深刻な社会批評を正面から行うわけではないが、「Song for a Future Generation」では未来世代へ向けた自己紹介のようなユーモアがあり、「Legal Tender」ではお金と欲望がコミカルに描かれ、「Whammy Kiss」では身体的な快楽とポップな呪術性が組み合わされる。彼らの歌詞はしばしばナンセンスに見えるが、そのナンセンスさこそが、日常のルールやロックの真面目さから逃れるための方法になっている。
キャリア上、『Whammy!』は過渡期の作品である。デビュー作と『Wild Planet』で完成した初期The B-52’sのガレージ/サーフ/ニュー・ウェイヴ的なスタイルを一度変化させ、より電子的なダンス・ポップへ向かった作品である。しかし、のちの『Cosmic Thing』のような大衆的で洗練されたポップ・ロックとはまだ異なる。『Whammy!』は、より奇妙で、軽く、人工的で、実験的なポップ作品である。初期の熱気と後期のポップ性の間で、バンドが新しい音を試している瞬間が記録されている。
日本のリスナーにとって『Whammy!』は、1980年代ニュー・ウェイヴの明るく奇妙な側面を味わううえで非常に面白い作品である。YMO以降のテクノポップや、80年代の洋楽ニュー・ウェイヴに親しんでいる耳には、シンセやリズムマシンの使い方が親しみやすく響く一方で、The B-52’s特有のアメリカ南部的なユーモア、ガレージ感、キッチュなヴォーカルの掛け合いは非常に個性的に聴こえるはずである。『Whammy!』は、The B-52’sが電子化した時代の音へ飛び込み、自分たちの奇妙な祝祭をシンセ・ポップとして再構築した作品である。
全曲レビュー
1. Legal Tender
オープニング曲「Legal Tender」は、『Whammy!』の方向性を一気に示す楽曲である。タイトルは「法定通貨」を意味し、お金、取引、消費、欲望を連想させる。The B-52’sはここで、貨幣をめぐるテーマを深刻な経済批評としてではなく、ポップでコミカルなダンス・ナンバーとして描いている。だが、その軽さの中には、1980年代的な消費文化への皮肉も感じられる。
音楽的には、シンセサイザーとリズムマシンの存在感が強く、初期のサーフ・ギター主体のサウンドから明確に変化している。ビートは弾むように配置され、シンセのフレーズは明るく人工的である。Ricky Wilsonのギターは従来ほど前面に出るわけではないが、楽曲の隙間に鋭いアクセントを加えている。バンドはここで、機械的なリズムと人間的な掛け合いを組み合わせ、The B-52’s流のエレクトロ・ダンスを作っている。
歌詞では、お金を作る、使う、増やすといったイメージがユーモラスに扱われる。The B-52’sの世界では、犯罪や欲望すらも漫画的な明るさを帯びる。お金という現実的で重いテーマが、ここではパーティーの小道具のように扱われる。その転倒感が曲の面白さである。
Fred Schneiderの語り口は、まるで奇妙なテレビ司会者のように響き、Kate PiersonとCindy Wilsonのコーラスが曲に華やかさを与える。彼らの掛け合いによって、歌詞のナンセンスさが強調されるだけでなく、曲全体が演劇的なポップ・ショーのようになる。
「Legal Tender」は、『Whammy!』の冒頭として非常に効果的である。シンセ・ポップ化したThe B-52’sの新しい音、消費社会への軽い皮肉、明るいダンス感覚が凝縮されている。アルバム全体の人工的でカラフルな空気を最初に提示する代表曲である。
2. Whammy Kiss
「Whammy Kiss」は、アルバム・タイトルと結びつく重要曲であり、本作の奇妙な快楽性を象徴する楽曲である。「Whammy」は衝撃や魔力、「Kiss」は親密さや欲望を示す。つまりこのタイトルは、ただのキスではなく、何か呪術的で、身体を揺さぶるような一撃としてのキスを意味している。
音楽的には、シンセサイザーの反復とダンス・ビートが中心で、曲は非常に機械的でありながら、ヴォーカルの掛け合いによって人間的な熱を持つ。The B-52’sの初期作品にあったサーフ・ロック的なギターの跳ね方は後退し、代わりに電子的なリズムが曲を引っ張る。だが、バンドの持つ奇妙な肉体性は失われていない。むしろ、機械的なビートの上で、声が過剰に遊ぶことで、独特のダンス感が生まれている。
歌詞は、恋愛や誘惑を扱っているようでありながら、通常のラブソングとは大きく異なる。The B-52’sにおける欲望は、真剣なロマンティシズムよりも、身体の動き、掛け声、奇妙なイメージ、コメディに近い。キスはここで、感情の告白ではなく、相手を揺さぶるポップな呪文のように機能している。
Fred Schneiderの声は、曲にコミカルな強さを与える。彼のヴォーカルは歌唱というより、言葉を投げつけるパフォーマンスに近い。一方、KateとCindyのコーラスは、曲に明るい妖しさを加える。この男女ヴォーカルの対比が、The B-52’sの最大の魅力のひとつである。
「Whammy Kiss」は、本作のタイトルが示す衝撃、魔力、遊び心を音楽化した楽曲である。電子的なビートとナンセンスな快楽が融合し、The B-52’sの80年代的な変化を象徴している。
3. Song for a Future Generation
「Song for a Future Generation」は、『Whammy!』の中でも特にThe B-52’sらしいユーモアと未来志向が表れた楽曲である。タイトルは「未来世代のための歌」を意味するが、実際には壮大な予言や真面目なメッセージではなく、バンドのメンバーたちが未来へ向けて自己紹介をするような、非常に軽妙で楽しい曲になっている。
音楽的には、明るいシンセ・ポップの構成で、リズムは軽快、メロディは親しみやすい。『Whammy!』の中でもポップな完成度が高い曲であり、The B-52’sの電子化されたサウンドが最も自然に機能している。シンセの音色はカラフルで、曲全体に未来的な玩具のような感触がある。
歌詞では、メンバーそれぞれが自分の名前や趣味、特徴を語るような構成が用いられる。この自己紹介的な形式は、ロック・バンドの神秘性やカリスマ性を意図的に崩している。The B-52’sは、自分たちを深刻なロック・スターとしてではなく、変わり者の集団、未来に向けて奇妙なメッセージを送るポップなキャラクターとして提示している。
この曲の面白さは、未来という大きなテーマを、非常に日常的でナンセンスな自己紹介に落とし込んでいる点にある。通常、未来世代へ向けた歌ならば、希望や警告、政治的なメッセージが語られることが多い。しかしThe B-52’sは、そこに自分たちの好きなものや奇妙な個性を並べる。これが彼ららしい反権威的なポップ感覚である。
「Song for a Future Generation」は、The B-52’sの共同体的な魅力がよく表れた楽曲である。バンドのメンバーがそれぞれキャラクターとして立ち上がり、未来へ向けて陽気な電波を飛ばす。ニュー・ウェイヴのユーモアとシンセ・ポップの明るさが結びついた、本作のハイライトのひとつである。
4. Butterbean
「Butterbean」は、タイトルからしてThe B-52’sらしい奇妙な生活感とユーモアを持つ楽曲である。Butterbeanは豆の一種を指し、料理や家庭、南部的な食文化を連想させる。ロックやポップの題材としては非常に珍しいが、The B-52’sはこうした日常的で少し滑稽なモチーフを、ダンス・ナンバーへ変えることに長けている。
音楽的には、シンセとリズムマシンを基調としながらも、曲には素朴でコミカルな雰囲気がある。電子的な音色にもかかわらず、テーマは家庭料理のように地に足がついている。このアンバランスさが曲の魅力である。未来的なサウンドで豆について歌うという構図自体が、The B-52’sのキッチュな美学をよく示している。
歌詞では、食べ物や家庭的なイメージが遊び心をもって扱われる。The B-52’sの歌詞は、しばしば意味を深読みするよりも、言葉の音、反復、イメージの奇妙さを楽しむべきものとして機能する。「Butterbean」もまさにそのタイプであり、豆という小さなモチーフが、楽しいコール&レスポンスの素材になる。
Kate PiersonとCindy Wilsonのコーラスは、曲に明るく親しみやすい雰囲気を与え、Fred Schneiderの語りはコミカルな味わいを加える。彼らの声の組み合わせによって、普通なら地味な題材が、奇妙な祝祭へ変わっていく。
「Butterbean」は、『Whammy!』の中でも特にナンセンスで愛嬌のある楽曲である。The B-52’sが持つ南部的な生活感、キッチュなユーモア、電子ポップの人工性が、軽やかに組み合わされている。
5. Trism
「Trism」は、タイトル自体が謎めいた響きを持つ楽曲である。明確な意味がすぐには分からない言葉であり、The B-52’sらしい造語的・記号的なセンスが感じられる。彼らの音楽では、言葉は意味を伝えるだけでなく、音としての面白さや奇妙なイメージを作るために使われる。この曲もその例である。
音楽的には、リズムは軽快で、シンセの反復が曲を前へ進める。アルバム全体に共通する電子的な質感がありながら、ヴォーカルの掛け合いによって冷たくなりすぎない。The B-52’sの音楽は、機械的な音を使っても、常に声のパフォーマンスによって人間的な奇妙さを保っている。
歌詞の内容は抽象的で、明確な物語というより、言葉の響きと反復によって世界観を作っている。これはThe B-52’sの強みでもある。彼らは必ずしも論理的な歌詞を必要としない。むしろ、意味が少しずれた言葉や、説明不能なフレーズによって、聴き手を日常の言語感覚から解放する。
「Trism」は、アルバムの中ではやや目立ちにくい曲かもしれないが、『Whammy!』の電子的でナンセンスな世界観を支える重要な楽曲である。The B-52’sがロックの言語を、遊び、音、身体の反応へ分解していることがよく分かる。
6. Queen of Las Vegas
「Queen of Las Vegas」は、タイトルからして派手で人工的な世界を想起させる楽曲である。ラスベガスは、カジノ、ショー、ネオン、消費、虚飾、パフォーマンスの街であり、The B-52’sのキッチュな美学と非常に相性が良い場所である。そこに「Queen」という言葉が加わることで、曲はショーガール的な華やかさと、奇妙な誇張を帯びる。
音楽的には、きらびやかなシンセと軽快なビートが中心で、まるで安価なショービジネスの舞台装置のような人工的な魅力がある。The B-52’sは、豪華さを本当に豪華に描くのではなく、少しチープで過剰な装飾として扱う。この感覚が彼らのキッチュ性であり、「Queen of Las Vegas」はその美学をよく示している。
歌詞では、ラスベガスの女王というキャラクターが示されるが、それはリアルな人物描写というより、ポップ・カルチャーの記号として機能する。The B-52’sの楽曲には、しばしば映画やテレビ、古い広告、SF、観光地のイメージがコラージュのように現れる。この曲も、ラスベガスというイメージを通じて、人工的な欲望の世界を楽しく描いている。
Fred Schneiderの語り口は、このような題材に非常によく合う。彼の声には、観光案内人、ショーの司会者、奇妙な預言者のような性格があり、曲のキャラクター性を強める。KateとCindyの声は、ラスベガス的な華やかさをポップに増幅している。
「Queen of Las Vegas」は、『Whammy!』の中で都市的でショービズ的なキッチュさを担う楽曲である。The B-52’sがアメリカの人工的な娯楽文化を、批判と愛情の中間のようなトーンで楽しんでいることが伝わる。
7. Moon 83
「Moon 83」は、タイトルに月と年号を組み合わせた楽曲であり、The B-52’sのSF的・レトロ未来的なセンスがよく表れている。「83」はリリース年の1983年を思わせ、月という古典的な宇宙イメージと、当時のシンセ・ポップ的な近未来感が重なる。The B-52’sは初期から「Planet Claire」などで宇宙的なイメージを扱ってきたが、この曲ではそれがより電子的な音で再構成されている。
音楽的には、シンセの質感が強く、曲全体に月面のような人工的な広がりがある。リズムは軽く、ギターは控えめで、音像は初期のサーフ・ロック的宇宙感から、80年代的な電子宇宙へ移行している。The B-52’sの宇宙は、科学的なリアリズムではなく、古いSF映画やテレビ番組のセットのような、わざとらしく楽しい宇宙である。
歌詞では、月や宇宙へのイメージがポップに扱われる。The B-52’sにおける宇宙は、逃避の場所であり、踊る場所であり、日常の常識から離れるための舞台でもある。「Moon 83」は、1983年という時代のシンセサウンドをまとった、彼ら流のスペース・ポップである。
この曲は、初期ファンにとっては「Planet Claire」とのつながりを感じさせる楽曲でもある。ただし、音はより軽く、電子的で、80年代的である。The B-52’sが自分たちの宇宙趣味を時代に合わせて更新していたことが分かる。
「Moon 83」は、『Whammy!』のSF的側面を支える楽曲である。月、シンセ、ナンセンス、ダンスが結びつき、The B-52’sならではのレトロ未来的なポップ空間を作っている。
8. Big Bird
「Big Bird」は、タイトルから大きな鳥、あるいは子ども向けテレビ的なイメージを連想させる楽曲である。The B-52’sは、子どもっぽさや玩具的な感覚を恥ずかしがらずに音楽へ取り込むバンドであり、この曲にもその性格が表れている。大きな鳥というモチーフは、奇妙で、少し滑稽で、ポップ・アート的でもある。
音楽的には、跳ねるようなリズムと明るいシンセが特徴で、アルバム終盤に軽快なエネルギーを与える。曲は深刻な方向へ向かわず、The B-52’sらしい遊びの感覚を保っている。ビートはダンサブルで、声の掛け合いも非常に楽しい。
歌詞の意味は明確な物語というより、イメージの反復と音の楽しさが中心である。The B-52’sの楽曲では、動物や奇妙な生き物がしばしば登場するが、それらは寓話的な意味を持つというより、音楽の身体性を引き出すためのキャラクターとして機能する。「Big Bird」も、踊るための奇妙な合図のような曲である。
「Big Bird」は、『Whammy!』の中でも特に軽く、子どもっぽく、奇妙な楽しさを持つ楽曲である。ロックの深刻さや成熟を拒み、ナンセンスとダンスの方向へ突き進むThe B-52’sの姿勢がよく表れている。
9. Work That Skirt
アルバムの最後を飾る「Work That Skirt」は、タイトルからしてダンス、ファッション、身体表現、パフォーマンスを強く感じさせる楽曲である。「スカートをうまく使え」「そのスカートを見せつけろ」といったニュアンスを持ち、The B-52’sらしいジェンダーの遊び、身体の動き、舞台的な明るさが前面に出ている。
音楽的には、リズムが軽快で、シンセとビートがダンス・トラックとしての機能を強く持っている。アルバムの終曲として、大きな感動的フィナーレを作るのではなく、最後まで身体を動かす方向へ向かうのがThe B-52’sらしい。彼らにとってアルバムの終わりも、静かな結論ではなく、パーティーの継続である。
歌詞では、服、身体、動き、見せることが遊び心をもって扱われる。これは単なるファッションの歌ではなく、自己表現としての身体の使い方を示している。The B-52’sの世界では、服装や踊りは、自分を変えるための道具であり、日常から離れるための変身でもある。
KateとCindyのヴォーカルは、曲に華やかで挑発的なエネルギーを与える。Fred Schneiderの語りも、ショーの司会者のように曲を盛り上げる。The B-52’sの男女混成ヴォーカルは、こうしたパフォーマンス的な楽曲で特に強い効果を発揮する。
「Work That Skirt」は、『Whammy!』の締めくくりとして、アルバム全体のダンス性と遊び心を最後まで貫く楽曲である。深刻なメッセージや情緒的な余韻ではなく、身体を動かし、着飾り、楽しむこと。その肯定が、The B-52’sの美学である。
総評
『Whammy!』は、The B-52’sのディスコグラフィの中で、初期ニュー・ウェイヴのガレージ感と、1980年代的なシンセ・ポップ/ダンス・ミュージックの接点に位置する作品である。デビュー作『The B-52’s』や『Wild Planet』にあったサーフ・ギター、ガレージ・ロック、荒削りなバンド感は後退し、代わりにシンセサイザー、リズムマシン、電子的な反復が前面に出ている。この変化は賛否を生みやすいが、The B-52’sが時代の音を取り込みながら、自分たちの奇妙な個性を保とうとした結果でもある。
本作の最大の魅力は、電子化してもなお失われないThe B-52’sらしさにある。シンセやドラムマシンが導入されても、Fred Schneiderの語りに近いヴォーカル、Kate PiersonとCindy Wilsonの力強いコーラス、ナンセンスな言葉遊び、キッチュなSF感覚、身体を動かすための明るいリズムは健在である。音の表面は80年代的に変わっているが、根本にあるのは、変わり者たちのためのパーティー・ミュージックである。
『Whammy!』は、The B-52’sの作品の中でも特に軽く、人工的で、玩具のような質感を持つ。重厚なロック・アルバムではなく、ポップ・カルチャーの断片が電子音で跳ねるような作品である。「Legal Tender」ではお金がコミカルな題材になり、「Song for a Future Generation」では未来世代への自己紹介が明るく歌われ、「Butterbean」では豆という生活感のあるモチーフがダンス・ナンバーへ変わる。「Moon 83」では宇宙的なイメージがシンセ・ポップとして更新され、「Work That Skirt」では身体とファッションがパフォーマンス化される。どの曲も、The B-52’sらしい奇妙な視点で世界を見ている。
一方で、本作には初期2作ほどの鋭さやバンド・サウンドの一体感を求めると、やや薄く感じられる部分もある。Ricky Wilsonのギターは依然として重要だが、シンセとリズムマシンの比重が増したことで、初期の乾いたギター・リフの強烈さはやや抑えられている。また、アルバム全体の音色が非常に明るく軽いため、曲によってはナンセンスさが過剰に前に出て、深みよりも表面的な楽しさが勝る瞬間もある。
しかし、その軽さこそ『Whammy!』の個性でもある。The B-52’sは、ロックの重さや真面目さから意図的に距離を取るバンドである。彼らの音楽は、深刻なメッセージを重々しく語るのではなく、奇妙な言葉、踊れるリズム、派手な声、キッチュなイメージによって、別の自由を作る。『Whammy!』は、その自由が最も電子的で、最も80年代的な形を取ったアルバムである。
1983年という時代背景を考えると、本作の音は非常に自然である。シンセ・ポップやニュー・ロマンティック、エレクトロ・ファンクがメインストリームにも浸透し、バンド音楽も電子的なリズムを取り入れ始めていた。The B-52’sはその流れに乗りながらも、イギリスのシンセ・ポップ勢とは異なるアメリカ南部的なユーモアとガレージ感を保っている。そのため『Whammy!』は、ヨーロッパ的な冷たいシンセ・ポップではなく、カラフルでコミカルなアメリカン・ニュー・ウェイヴとして響く。
歌詞の面でも、本作は深刻な物語より、キャラクター性と反復を重視している。The B-52’sの言葉は、詩的な深さを競うものではなく、音として口に出したときの楽しさ、掛け合いのリズム、イメージの奇妙さによって機能する。「Whammy Kiss」「Butterbean」「Big Bird」などは、その典型である。これらの曲では、意味を解釈すること以上に、言葉が身体を動かす合図になっている。
Kate PiersonとCindy Wilsonの存在も、本作の重要な核である。彼女たちの声は、シンセの人工的な音色の中でも非常に人間的で、明るく、強い。Fred Schneiderのコミカルな語りと対比されることで、曲は単なる電子ポップではなく、The B-52’sならではの集団的パフォーマンスになる。特に「Song for a Future Generation」では、メンバーそれぞれの声がキャラクターとして立ち上がり、バンドの共同体性が強く表れている。
『Whammy!』は、のちの『Cosmic Thing』のような大衆的な完成度や感動的な復活感とは異なる。むしろ、より小さく、奇妙で、時代のシンセ・ポップに影響された実験作として聴くべきアルバムである。『Cosmic Thing』がThe B-52’sを広いポップ市場へ開いた作品だとすれば、『Whammy!』はその前に、彼らが電子音とダンス・ビートを使って自分たちのキッチュな世界を再構築した作品である。
日本のリスナーにとっては、80年代テクノポップやニュー・ウェイヴの文脈で聴くと、本作の魅力が伝わりやすい。シンセの軽さ、ドラムマシンの反復、ナンセンスな歌詞、カラフルな音色は、YMO以降の電子ポップ文化や、80年代洋楽の明るい人工感と接点がある。ただし、The B-52’sの場合、その人工感にはアメリカ南部の奇妙なユーモアと、ガレージ・バンド的な身体性が混ざっている。そこが大きな違いであり、魅力である。
総じて『Whammy!』は、The B-52’sが初期のガレージ・ニュー・ウェイヴからシンセ・ポップ時代へ移行する過程を記録した、明るく奇妙なアルバムである。完成度や歴史的評価ではデビュー作や『Cosmic Thing』の陰に隠れがちだが、電子的なビートとキッチュな遊び心が融合した独自の魅力を持っている。軽く、派手で、ナンセンスで、踊れる。『Whammy!』は、The B-52’sのポップな魔力が、80年代の電子音に乗って炸裂した作品である。
おすすめアルバム
1. The B-52’s – The B-52’s(1979)
The B-52’sのデビュー作であり、「Rock Lobster」「Planet Claire」などを収録したニュー・ウェイヴの重要作。『Whammy!』よりもギター主体で荒く、サーフ・ロックやガレージ・ロックの影響が強い。バンドの原点を知るうえで欠かせない一枚である。
2. The B-52’s – Wild Planet(1980)
初期The B-52’sの勢いを保ったセカンド・アルバム。「Private Idaho」などを収録し、男女ヴォーカルの掛け合い、奇妙な歌詞、鋭いギター・リフが強く表れている。『Whammy!』で電子化する前のバンド・サウンドを理解するために重要である。
3. The B-52’s – Cosmic Thing(1989)
The B-52’s最大の商業的成功作。「Love Shack」「Roam」を収録し、ニュー・ウェイヴの奇抜さをより洗練されたポップ・ロック/ダンス・サウンドへ開いた作品。『Whammy!』の電子的な試みが、より大衆的な形で結実した後期代表作である。
4. Devo – Freedom of Choice(1980)
ニュー・ウェイヴとシンセ・ポップ、奇妙なユーモア、機械的なリズムを融合した重要作。The B-52’sとは異なる皮肉とコンセプトを持つが、『Whammy!』の電子的でナンセンスな楽しさと強く響き合う。
5. Talking Heads – Speaking in Tongues(1983)
ニュー・ウェイヴ、ファンク、アート・ロック、ダンス・ミュージックを融合した作品。The B-52’sよりも知的で都市的なアプローチだが、1980年代前半にロック・バンドがダンス・ミュージックと電子的な質感を取り込んだ例として、『Whammy!』と同時代的な関連性が高い。

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