アルバムレビュー:Hot Pink by Doja Cat

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2019年11月7日

ジャンル:ポップ・ラップ、R&B、ヒップホップ、ファンク・ポップ、ダンス・ポップ

概要

Doja Catの『Hot Pink』は、2019年に発表されたセカンド・スタジオ・アルバムであり、彼女をインターネット発の個性派アーティストから、ポップ/ヒップホップのメインストリームへ押し上げた重要作である。デビュー作『Amala』では、R&B、ラップ、ローファイなインターネット感覚、ユーモアを混ぜ合わせたスタイルがすでに提示されていたが、『Hot Pink』ではその要素がより整理され、ポップ・アルバムとしての完成度を大きく高めている。特に「Say So」の世界的ヒットによって、Doja Catは2010年代末から2020年代初頭のポップ・シーンを象徴する存在となった。

本作の特徴は、ジャンルの境界を軽やかに横断する柔軟性にある。Doja Catはラッパーであり、シンガーであり、パフォーマーであり、インターネット文化を熟知したキャラクターでもある。彼女の音楽は、Nicki Minaj以降の女性ラップの技巧性、Rihanna以降のポップR&Bのクールさ、Missy Elliott的な遊び心、KelisやPharrell周辺のファンク感覚、そしてTikTok時代の短いフックの強さを同時に含んでいる。『Hot Pink』は、その多面的な才能を、過剰に重くならないポップな形で提示した作品である。

タイトルの『Hot Pink』は、強烈な色彩感、人工的な甘さ、セクシュアリティ、遊び心、そして自己演出の意識を象徴している。ピンクという色は、しばしば女性性やポップさ、可愛らしさと結びつくが、ここでは単なる甘さではなく、派手で挑発的な自己表現として使われている。Doja Catは、女性的なイメージを受け身のものとしてではなく、自ら操作し、誇張し、キャラクター化する。アルバム全体に漂う軽さやユーモアは、無邪気なものではなく、自己プロデュース能力の高さに支えられている。

2019年という時代背景も重要である。この時期のポップ・ミュージックは、ストリーミングとSNS、とりわけTikTokの影響力が急速に拡大していた。楽曲はアルバム単位だけでなく、短い動画、ミーム、ダンス、印象的な一節によって広まるようになっていた。Doja Catは、この環境に非常に適応したアーティストである。だが、『Hot Pink』は単にSNSで拡散しやすい曲を集めた作品ではない。短いフックの強さ、声色の変化、ラップと歌の切り替え、ビートの多様性を使いながら、現代のポップ・アルバムとして十分な統一感を持っている。

音楽的には、ヒップホップを基盤にしながら、ディスコ、ファンク、R&B、トラップ、ポップ、エレクトロ、レゲトン的なリズム感まで取り込んでいる。Doja Catの最大の武器は声の可変性である。彼女は低く乾いたラップ、甘いファルセット、猫のような軽い声、挑発的な語り、滑らかなR&Bヴォーカルを自在に切り替える。そのため、同じアルバムの中でも曲ごとにキャラクターが大きく変わるが、全体としてはDoja Catの強い個性によって統一されている。

歌詞面では、恋愛、欲望、自己肯定、セクシュアリティ、遊び、駆け引き、名声への意識が中心となる。社会的なメッセージを前面に出すタイプのアルバムではないが、女性が欲望を語り、相手を選び、消費される側ではなく消費する側にも回るという態度が明確にある。Doja Catの歌詞は、露骨でありながらコミカルで、挑発的でありながら軽快である。このバランスが、2010年代以降の女性ラップ/ポップの変化をよく示している。

『Hot Pink』は、Doja Catのキャリアにおいて決定的な転換点である。ここで彼女は、インターネット上の奇抜な存在から、メインストリームのポップ・スターへと移行した。しかし、その移行は個性を薄めるものではなかった。むしろ、彼女の奇妙さ、ユーモア、声の演技力、ジャンル横断性が、より大きな舞台で機能することを証明したアルバムである。

全曲レビュー

1. Cyber Sex

オープニング曲「Cyber Sex」は、アルバムの現代性を端的に示す楽曲である。タイトルが示す通り、ここで扱われるのはデジタル空間における欲望、親密さ、身体性である。インターネットを通じた恋愛や性的なやり取りは、2010年代以降のポップ・カルチャーにおいて日常的なテーマとなったが、Doja Catはそれを重苦しい孤独ではなく、遊び心とセクシュアルな自信をもって描いている。

サウンドは滑らかなR&Bとトラップ以降のビート感覚を組み合わせたもので、低音は柔らかく、ヴォーカルは艶やかに配置されている。Doja Catはラップと歌の間を自然に行き来し、声の表情を細かく変えることで、デジタルな距離感と身体的な近さを同時に表現する。ここでの「サイバー」は冷たい機械性ではなく、むしろ欲望を拡張する空間として描かれている。

歌詞では、物理的に離れていても、画像、動画、メッセージ、想像力を通じて親密さが作られる様子が語られる。これは、スマートフォン以後の恋愛観をよく反映している。身体は画面越しに断片化されるが、その断片化は必ずしも欠落ではなく、新しい誘惑の形式にもなる。Doja Catはこのテーマを深刻に論じるのではなく、ポップで挑発的な言葉遊びとして提示している。

アルバム冒頭にこの曲を置くことで、『Hot Pink』はデジタル時代の欲望を扱う作品であることを明確にする。Doja Catは、現代的な恋愛やセクシュアリティを、インターネット文化と切り離さずに描く。その意味で「Cyber Sex」は、単なるセクシーなR&Bではなく、2010年代末のポップ感覚を反映した導入曲である。

2. Won’t Bite feat. Smino

「Won’t Bite」は、Sminoを迎えた軽快な楽曲で、Doja Catのラップ面と遊び心がよく表れている。タイトルの「噛まない」という言い回しは、誘惑と警戒、親しみやすさと危うさの両方を含んでいる。相手を誘いながらも、完全には隙を見せない態度が、曲全体の軽妙なトーンを作っている。

音楽的には、リズムの跳ね方が重要である。トラップの影響を受けたビートでありながら、重く沈むのではなく、弾むようなグルーヴを持っている。Doja Catのラップはリズムに対して柔軟で、言葉を詰め込みすぎず、声色や間を使って曲に表情を与える。Sminoの参加も効果的で、彼の独特なメロディック・ラップが曲に南部的な粘りと滑らかさを加えている。

歌詞は、恋愛や性的な駆け引きを軸にしているが、Doja Catらしくコミカルな軽さがある。彼女は相手を挑発しながらも、完全にロマンティックな関係へ沈み込むことはない。むしろ、会話のテンポ、冗談、身体的なニュアンスを使って、関係そのものをゲームのように描く。

この曲では、Doja Catのポップ・スターとしての柔軟性が見える。ラップ曲でありながら硬派なヒップホップの形式に閉じず、R&B的な滑らかさとキャラクター性を前面に出している。Sminoとの相性もよく、二人の声が互いに軽く絡み合うことで、アルバム序盤にリラックスした魅力を与えている。

3. Rules

「Rules」は、『Hot Pink』の中でもDoja Catのラッパーとしての鋭さが強く出た楽曲である。低く重いビートの上で、彼女は自信に満ちたフロウを展開し、自分の価値、相手に求める条件、関係における主導権を明確に語る。タイトルの「Rules」は、恋愛や性的関係において彼女自身が定めるルールを意味している。

サウンドは、アルバムの中でも比較的ダークで、乾いた質感を持つ。派手なポップ感よりも、低音とラップの存在感が前面に出る。Doja Catは声を低めに使い、余裕のある語り口で相手をコントロールする。この声の使い方は、彼女が単なる甘いポップ・シンガーではなく、ラップのキャラクター作りにも長けていることを示している。

歌詞の中心にあるのは、女性側が条件を提示する態度である。恋愛や欲望を語るポップ・ソングでは、女性が求められる対象として描かれることも多いが、「Rules」ではDoja Cat自身が評価し、選び、決める側に立つ。金銭、態度、忠誠、尊重といった要素が、関係の条件として示される。これは、2010年代後半の女性ラップにおける自己価値の主張と深くつながっている。

「Rules」は、アルバム全体の中でDoja Catの強気な側面を象徴する曲である。甘く遊ぶだけでなく、相手に対して明確な境界線を引く。セクシュアリティを表現しながらも、それが相手に従属する形にならない点が重要である。曲の冷ややかなグルーヴは、その主導権の感覚を効果的に支えている。

4. Bottom Bitch

「Bottom Bitch」は、Blink-182の「What’s My Age Again?」を引用したことで知られる楽曲であり、ポップ・パンクのノスタルジーと現代的なポップ・ラップを結びつけている。Doja Catはこの曲で、友情、忠誠、親密な関係を、恋愛とは少し異なる角度から描く。タイトルは挑発的だが、曲の空気には意外なほど明るく、青春的な開放感がある。

音楽的には、ギターの軽快な響きとヒップホップ的なビートが組み合わされている。2000年前後のポップ・パンクを思わせるメロディが、Doja Catのラップと歌によって再文脈化されることで、ジャンルの世代的な記憶が更新されている。これは、2010年代末のポップにおける引用文化の典型でもある。過去のロック・ヒットは、単に懐かしいものとしてではなく、新しいキャラクター表現の素材として使われる。

歌詞では、信頼できる相手、そばにいる仲間、特別な関係性が語られる。性的なニュアンスも含まれるが、中心にあるのは相棒感覚である。Doja Catは、恋人、友人、共犯者の境界を曖昧にしながら、親密さを軽やかに描く。深刻な感傷に寄らず、明るいエネルギーで関係性を肯定している点が印象的である。

「Bottom Bitch」は、Doja CatがヒップホップやR&Bだけでなく、ポップ・パンク的な質感も自分の世界に取り込めることを示した曲である。ジャンルの混合が自然で、引用元の存在感を残しつつ、最終的にはDoja Cat自身のキャラクターへ吸収している。アルバムの中でも、彼女のポップ感覚の広さを示す重要曲である。

5. Say So

「Say So」は、『Hot Pink』最大のヒット曲であり、Doja Catを世界的ポップ・スターへ押し上げた代表曲である。ディスコ/ファンクの軽やかなグルーヴ、滑らかなギター・カッティング、甘いメロディ、柔らかいヴォーカル、そしてラップ・パートの切り替えが一体となり、2010年代末のポップにおける最も象徴的な楽曲のひとつとなった。

音楽的には、1970年代ディスコやファンクへの参照が明確である。ただし、サウンドはレトロそのものではなく、現代的なミックスによって清潔で軽く仕上げられている。ベースラインとギターは踊れる推進力を作り、Doja Catの声はその上を滑るように進む。過度に声を張り上げず、柔らかく囁くような歌唱が、曲全体に親密な魅力を与えている。

歌詞では、相手に好意をはっきり示すよう促す恋愛の駆け引きが描かれる。「言ってくれればいい」というテーマはシンプルだが、Doja Catはそれを軽快なフレーズと声のニュアンスで魅力的に表現する。相手の曖昧な態度に対して、彼女は受け身に待つのではなく、言葉にすることを求める。ここにも、恋愛関係における主体性が表れている。

この曲が大きく広まった背景には、TikTokでのダンス・チャレンジもある。だが、「Say So」の成功は単なるSNS効果だけでは説明できない。短い動画に適したフックの強さに加え、曲全体の構成が非常に洗練されている。歌、ラップ、グルーヴ、レトロ感、現代的な軽さがバランスよく配置されており、アルバムの中でも完成度が際立つ。

「Say So」は、Doja Catの多面性を最もポップな形で示した曲である。歌えること、ラップできること、踊れること、キャラクターを作れること、過去の音楽を現代の文脈で再利用できること。そのすべてが、この一曲に集約されている。

6. Like That feat. Gucci Mane

「Like That」は、Gucci Maneを迎えた楽曲で、滑らかなR&Bポップとアトランタ・ラップの余裕ある質感が結びついている。ビートは軽快で、メロディは親しみやすく、Doja Catの甘いヴォーカルとラップが自然に行き来する。『Hot Pink』の中でも、シングル向きの明快さを持つ曲である。

サウンドは、トラップ以降のヒップホップを土台にしながら、重すぎず、ポップに開かれている。Doja Catの声は柔らかく、フックは非常に覚えやすい。ラップ・パートでも攻撃的になりすぎず、軽く跳ねるようなフロウで曲の明るさを保っている。Gucci Maneのヴァースは、彼特有の余裕と低い重心を加え、曲にヒップホップとしての厚みを与えている。

歌詞は、相手への魅力、関係の楽しさ、身体的な惹かれ合いを中心にしている。Doja Catはここでも、恋愛を重いドラマとしてではなく、軽やかな誘惑として描く。相手に惹かれながらも、自分の余裕は失わない。そのバランスが、彼女のポップR&Bにおける大きな魅力である。

「Like That」は、アルバムの中で非常にスムーズな聴き心地を持つ曲であり、Doja Catのメインストリーム適性をよく示している。奇抜な実験性よりも、フックとグルーヴの完成度で聴かせるタイプの楽曲である。Gucci Maneとの組み合わせによって、ポップ・ラップとしての親しみやすさとヒップホップの文脈が自然に接続されている。

7. Talk Dirty

「Talk Dirty」は、タイトル通り、性的な言葉のやり取りや挑発をテーマにした楽曲である。Doja Catはこの曲で、言葉そのものを欲望の装置として扱う。身体的な接触だけでなく、会話、声、フレーズ、冗談が誘惑の一部になるという感覚が、曲全体に表れている。

サウンドは、リズムの鋭さとヴォーカルの遊びが中心である。Doja Catは声色を細かく変化させ、可愛らしさ、挑発、余裕、コミカルなニュアンスを行き来する。彼女の強みは、セクシーなテーマを扱っても一本調子にならない点である。声そのものが演技的であり、曲の中に複数のキャラクターがいるように感じられる。

歌詞は露骨な言葉を含むが、Doja Catの場合、それは単に刺激を狙うものではなく、ユーモアとリズムの一部として機能している。彼女は性的な主題を、深刻な告白や過剰な官能ではなく、言葉遊びと態度で処理する。そのため、曲は重くならず、軽快なポップ・ラップとして成立している。

「Talk Dirty」は、『Hot Pink』の中でDoja Catの奔放なキャラクターを補強する曲である。彼女は欲望を隠さず語るが、それを完全に生々しくするのではなく、ポップな演技へと変換する。この変換能力こそが、Doja Catの音楽を単なるセクシュアルなポップから、キャラクター性の強い表現へ押し上げている。

8. Addiction

「Addiction」は、タイトルが示す通り、依存や執着をテーマにした楽曲である。ただし、ここでの依存は単純に暗いものとして描かれるのではなく、恋愛、快楽、欲望、刺激に引き寄せられる感覚として表現されている。Doja Catは、相手や関係性に夢中になる状態を、ポップで少し危ういムードの中に置いている。

音楽的には、R&B的な滑らかさと、ややダークなビートが組み合わされている。メロディは甘いが、低音には重さがあり、曲全体に夜の空気が漂う。Doja Catのヴォーカルは柔らかく、依存のテーマを過度に悲劇的にせず、魅惑的な状態として描いている。

歌詞では、やめたいのに離れられない、相手に引き寄せられる、刺激を求めてしまうという感覚が語られる。これは恋愛ソングの定番テーマでもあるが、Doja Catはそれを現代的なR&Bの質感で表現する。彼女の声には、弱さよりも快楽への自覚があり、自分が何に惹かれているのかを理解したうえで、その危うさを楽しんでいるように響く。

「Addiction」は、アルバムの中で比較的メロウな側面を担う曲である。派手なフックやコミカルなラップよりも、雰囲気とグルーヴで聴かせる。Doja Catがパーティー的な明るさだけでなく、夜のR&B的なムードも扱えることを示す楽曲である。

9. Streets

「Streets」は、『Hot Pink』の中でも特にR&B色が濃く、Doja Catの歌唱力とムード作りが際立つ楽曲である。B2Kの「Streets Is Callin’」をサンプリングした深くメランコリックなサウンドが特徴で、アルバムの中では比較的シリアスで官能的な空気を持っている。後にSNSを通じて再評価され、大きく広まった曲でもある。

音楽的には、重く沈むビートと、暗いコード感が印象的である。Doja Catのヴォーカルは、ここでは軽いユーモアよりも、しっとりとした情感を重視している。声は柔らかく、少し陰りを帯び、相手への強い執着や魅力を表現する。ラップ・パートも曲のムードを壊さず、歌と自然につながっている。

歌詞では、相手が特別であり、他の誰にも代えられないという感情が描かれる。『Hot Pink』の多くの曲では、Doja Catは余裕を持って相手を翻弄する側に立つが、「Streets」ではより深く引き込まれている。欲望や恋愛の関係において、常に主導権を握るわけではなく、相手に強く惹かれてしまう状態が表れている。

この曲の魅力は、Doja Catのキャラクターの幅を示す点にある。彼女はコミカルで派手な存在として知られるが、「Streets」ではより伝統的なR&Bシンガーとしての表現力を見せている。ムードの作り方、声の置き方、メロディの処理が非常に的確で、アルバムの中でも長く残る余韻を持つ。

10. Shine

「Shine」は、自己肯定と輝きのイメージを持つ楽曲である。タイトルの通り、ここでは自分自身の魅力、成功、存在感を光として表現している。Doja Catの音楽では、自己演出が非常に重要であり、「Shine」はその意識を明るくポップに示す曲といえる。

サウンドは軽快で、アルバムの中でも比較的明るいトーンを持つ。ビートは弾み、メロディは親しみやすく、Doja Catの声は柔らかく輝いている。派手なラップで押し切るのではなく、歌とラップをバランスよく使いながら、楽曲全体にポジティヴな空気を作っている。

歌詞では、自分が輝く存在であること、他者の視線を引きつけること、その魅力を自覚していることが語られる。これは単なる自己賛美ではなく、ポップ・スターとしての自己構築でもある。Doja Catは、自分が見られる存在であることを理解し、その視線を受け身で浴びるのではなく、自ら演出する。

「Shine」は、『Hot Pink』の中で明るい息抜きのように機能する曲である。重い感情や複雑なテーマを扱うのではなく、ポップな自己肯定を軽やかに提示する。アルバム全体の色彩感を支える、シンプルながら重要な楽曲である。

11. Better Than Me

「Better Than Me」は、恋愛における比較や自己価値をテーマにした楽曲である。タイトルは「私より良い相手」という意味を持つが、曲全体の態度は単純な劣等感ではなく、相手に対する冷静な評価や、自分の価値を理解したうえでの強気な視点が含まれている。

音楽的には、メロウなR&Bとヒップホップの中間に位置している。Doja Catのヴォーカルは滑らかで、感情を大きく爆発させるのではなく、落ち着いたトーンで進む。ビートも控えめで、歌詞のニュアンスを支える役割を果たしている。

歌詞では、元恋人や競争相手の存在、相手が選んだ人物への視線が描かれる。だが、Doja Catはそこで単に傷つく存在にはならない。自分の魅力や価値を理解しており、相手の選択に対してもどこか余裕を保っている。この余裕が、彼女の音楽における女性像の重要な特徴である。

「Better Than Me」は、派手なシングル曲ではないが、アルバムの中で感情の陰影を加える楽曲である。Doja Catのポップな明るさの背後には、恋愛における不安や比較の感情も存在する。しかし、それを過度に悲劇化せず、自尊心を保ったまま表現する点に、彼女らしさがある。

12. Juicy feat. Tyga

「Juicy」は、『Hot Pink』の代表的な楽曲のひとつであり、Doja Catの身体性、ユーモア、自己肯定を強く打ち出した曲である。もともとは『Amala』のデラックス版にも収録された楽曲だが、本作ではTygaを迎えたヴァージョンが収められている。フルーツのイメージを使ったカラフルで官能的な表現が、Doja Catのポップなキャラクターを象徴している。

サウンドは、明るく弾むようなビートと、キャッチーなフックが中心である。低音はしっかりしているが、全体の印象は重くなく、楽しく踊れる。Doja Catのラップは軽快で、言葉の響きとリズムを巧みに使って、身体の魅力をコミカルかつ自信たっぷりに表現する。

歌詞では、自分の身体への肯定、特に曲線的な魅力を誇る態度が前面に出る。ここでのセクシュアリティは、他人に評価されるためのものではなく、自分自身が楽しみ、誇るものとして提示される。これは、2010年代後半の女性ラップにおけるボディ・ポジティヴな流れともつながっている。

Tygaの参加は、曲をよりヒップホップ寄りにしつつ、メインストリーム・シングルとしての輪郭を強めている。ただし、曲の主役は明らかにDoja Catであり、彼女の声、ユーモア、ヴィジュアル的な言葉選びが楽曲全体を支配している。「Juicy」は、『Hot Pink』の色彩感と自己肯定の精神を象徴する楽曲である。

総評

『Hot Pink』は、Doja Catがポップ・スターとしての存在感を確立した決定的なアルバムである。デビュー作『Amala』で見せた実験性やインターネット的な奇抜さを残しながら、本作ではより明確なフック、洗練されたプロダクション、ジャンル横断的な構成によって、メインストリームに届く作品へと仕上げている。特に「Say So」の成功は大きいが、アルバム全体を聴くと、Doja Catの強みは一曲のヒットにとどまらないことが分かる。

本作の中心にあるのは、声とキャラクターの多様性である。Doja Catは、曲ごとに声の使い方を変える。甘く歌うこともできれば、低くラップすることもでき、コミカルに振る舞うことも、官能的なムードを作ることもできる。この可変性は、2010年代末以降のポップ・アーティストに求められる能力を象徴している。単に歌唱力がある、ラップができるというだけではなく、SNS、映像、ファッション、ミーム、ダンスと連動するキャラクター全体を設計できることが重要になる。Doja Catはその条件を非常に高い水準で満たしている。

音楽的にも、『Hot Pink』は一貫して柔軟である。ディスコ・ファンク風の「Say So」、R&Bの陰影を持つ「Streets」、トラップ以降のポップ・ラップである「Rules」や「Like That」、ポップ・パンクを引用した「Bottom Bitch」、セクシュアルなデジタルR&Bとしての「Cyber Sex」など、アルバムは多様な方向へ広がる。それにもかかわらず散漫にならないのは、Doja Catの声とユーモア、そして鮮やかな色彩感が全体を統一しているからである。

歌詞面では、恋愛やセクシュアリティが中心となるが、その扱いは受動的ではない。Doja Catは欲望を語る側であり、相手を選ぶ側であり、関係のルールを決める側でもある。もちろん、すべての曲が強気一辺倒ではなく、「Streets」や「Addiction」には相手に引き込まれる感情も表れている。しかし、全体としては自己演出と自己肯定の感覚が強い。彼女は消費されるポップ・アイコンであると同時に、自分自身を演出し、消費の構造を逆手に取るアーティストでもある。

本作は、女性ラップの流れの中でも重要な位置を占める。Nicki Minaj以降、女性ラッパーは技巧、セクシュアリティ、キャラクター演技、ポップ性を高い密度で要求されるようになった。Doja Catはその流れを受け継ぎながら、よりインターネット世代らしい軽さと変身能力を加えた。Missy Elliottのような奇抜な遊び心、Kelis的なファッション性、Rihanna以降のクールなポップR&B感覚、そしてTikTok時代の短いフックの強度が、本作には共存している。

また、『Hot Pink』は2010年代末から2020年代初頭へのポップの移行を象徴する作品でもある。ストリーミング時代の楽曲は、短いイントロ、強いフック、即座に印象に残る声のキャラクターを求められる。本作はその条件に非常によく適応している。しかし、単にアルゴリズムに合わせた無機質な作品ではない。Doja Catの奇妙な言葉選び、ユーモア、声の演技、ジャンルの混ぜ方によって、楽曲には人間的な癖が残っている。その癖が、彼女を他のポップ・アクトから際立たせている。

日本のリスナーにとって『Hot Pink』は、現代アメリカのポップ・ラップを理解するうえで聴きやすく、かつ重要な作品である。ヒップホップの重さだけでなく、R&Bのメロウさ、ディスコの踊りやすさ、SNS時代のキャッチーさが同居しているため、洋楽ポップ入門としても機能する。一方で、細かく聴くと、サンプリング、引用、声色の変化、女性ラップの系譜など、多くの文脈が含まれている。表面的には軽く楽しいアルバムだが、その軽さは非常に計算されたものである。

『Hot Pink』は、Doja Catが「何者にもなれる」アーティストであることを示した作品である。ラッパー、R&Bシンガー、ディスコ・ポップの歌い手、SNS時代のミーム的存在、セクシュアルなアイコン、コメディエンヌ的なパフォーマー。そのすべてが、ひとつのアルバムの中で矛盾なく共存している。これは現代ポップにおける大きな強みであり、ジャンルやイメージを固定しない柔軟性こそが、Doja Catの核心である。

総じて、『Hot Pink』は、2010年代末のポップ・ミュージックの変化を鋭く捉えたアルバムである。ヒップホップとR&Bを基盤にしながら、ディスコ、ファンク、ポップ・パンク、トラップ、インターネット文化を取り込み、Doja Cat独自のカラフルで挑発的な世界を作り上げている。軽快で、官能的で、コミカルで、非常に現代的な作品であり、彼女のブレイクを決定づけただけでなく、2020年代ポップの方向性を先取りした重要作と評価できる。

おすすめアルバム

1. Doja Cat – Planet Her

『Hot Pink』で確立したポップ・ラップのスタイルを、より大規模で洗練された形へ発展させたアルバム。R&B、ポップ、ヒップホップ、アフロビート風のリズムを取り込み、Doja Catのスター性をさらに強化している。『Hot Pink』の成功後、彼女がどのようにメインストリームの中心へ進んだかを理解するうえで重要な作品である。

2. Nicki Minaj – Pink Friday

女性ラップとポップの融合を2010年代に大きく押し広げた重要作。ラップの技巧、キャラクターの使い分け、ポップ・フックの強さが共存しており、Doja Catの多面的なスタイルの前史として聴くことができる。女性ラッパーがポップ・スターとして機能する道筋を作った作品である。

3. Kelis – Tasty

ファンク、R&B、ヒップホップ、ファッション性を大胆に結びつけた2000年代R&Bの重要作。Pharrell WilliamsとThe Neptunesのプロダクションによる未来的で遊び心あるサウンドは、『Hot Pink』のカラフルで少し奇妙なポップ感覚と親和性が高い。女性アーティストの自己演出という点でも関連性が深い。

4. Ariana Grande – thank u, next

トラップ以降のR&Bポップをメインストリームの中心へ押し上げた作品。Doja Catとはキャラクター性が異なるが、短い曲構成、洗練されたビート、親密な歌詞、ストリーミング時代のポップ感覚という点で共通する。2010年代末のポップの空気を理解するうえで重要なアルバムである。

5. Megan Thee Stallion – Good News

Doja Catよりもラップの強度とストレートな自己主張に重心を置いた作品。女性の欲望、身体性、自己肯定、主導権の表現という点で『Hot Pink』と共通するが、よりハードなヒップホップとして展開されている。2010年代後半から2020年代初頭の女性ラップの広がりを理解するために関連性が高い。

PR
アルバムレビュー
シェアする

コメント

タイトルとURLをコピーしました