
発売日: 2013年10月14日
ジャンル: ポップロック、アート・ポップ、オルタナティヴ・ポップ、モダン・ロック
『New』は、Paul McCartney が2013年に発表したアルバムである。
前作『Memory Almost Full』から6年。
ポールは70代に突入しながらも、創作意欲は衰えるどころかむしろ研ぎ澄まされ、
新しいアプローチを求めて積極的に動いていた。
本作の大きな特徴は、
複数のプロデューサーを同時起用するという大胆な制作手法にある。
Mark Ronson、Paul Epworth、Giles Martin、Ethan Johns といった
世代もバックグラウンドも異なる4人を“競わせる”ように配置し、
ポールはそれぞれと個別にセッションを行った。
その結果、
- Mark Ronson のソウル×ポップの艶
- Paul Epworth のモダンロック的エッジ
- Giles Martin のビートルズ的構築美
- Ethan Johns のアナログ感・温度感
が鮮やかに共存する、一種の“ポール・ギャラリー”的アルバムが誕生した。
だが驚くべきは、これほど多様な音像を持ちながら、
作品としての統一感が極めて強いという点だ。
ポールのメロディと歌声がすべてを束ね、
70代とは思えない瑞々しさと冒険心がアルバム全体を貫いている。
『New』は、“現在(Now)を生きるポール”の姿を映した
極めて鮮度の高い作品である。
全曲レビュー
1曲目:Save Us
Paul Epworth プロデュースのモダン・ロック。
タイトなギター、力強いボーカル。
驚異的な若々しさと推進力でアルバムを切り開く。
2曲目:Alligator
複雑な構造とモダンな質感が光る名曲。
内省的な歌詞に対し、ポップなメロディが美しく絡む。
3曲目:On My Way to Work
ストーリーテリングに優れた一曲。
働きながら夢見る青春期の感覚を丁寧に描く。
4曲目:Queenie Eye
Giles Martin らしいビートルズ直系のアレンジ。
遊び心、反復、コーラスワークが見事に噛み合う。
5曲目:Early Days
アコースティックが美しい、静かな回想曲。
初期ビートルズ時代へのまなざしは、苦味と温かさが共存する。
6曲目:New
本作の代表曲。
明るく弾むピアノとキラキラしたコーラスが心地よい。
“ポールの永遠の青春”とも言える一曲。
7曲目:Appreciate
ミニマルかつ電子的な空気を纏う、実験的楽曲。
機械と人間の間を彷徨うような独特のムードが魅力。
8曲目:Everybody Out There
エネルギッシュなロック。
ライブ映えするコーラスが力強いメッセージを伝える。
9曲目:Hosanna
深い呼吸のような静けさに満ちた曲。
瞑想的で親密な雰囲気がアルバムの緩急を整える。
10曲目:I Can Bet
軽やかなポップロック。
70年代ポールの香りと現代的プロダクションが絶妙に融合する。
11曲目:Looking at Her
ミニマルな始まりから一気に広がるドラマティックな展開。
電子音と感情の振幅が美しい。
12曲目:Road
ダークで荘厳な締め曲。
“道の先にある未知”への静かな覚悟がにじむ。
総評
『New』は、Paul McCartney のキャリア後半において
最も勢いと革新性に満ちた作品である。
特徴を整理すると、
- 4人のプロデューサーがもたらした多彩な音像
- 70代とは思えぬボーカルのエネルギー
- ビートルズ的構築美と現代的ポップ感覚の自然な融合
- 内省・回想・遊び心・挑戦が同居した構成
- “若々しさと成熟の両立”という稀有な魅力
これらすべてが、ポールの圧倒的なメロディセンスによって統合されている。
特筆すべきは、
“新しさを求める意志” が本作の根本にあることだ。
70代で“New”というタイトルを掲げ、
実際にその言葉通りの音を作ってしまう。
これはポールにしかできない領域だと言える。
同時代の作品と比べると、
・David Bowie『The Next Day』
・Bob Dylan『Modern Times』
・Leonard Cohen 晩年のアルバム
など、熟年アーティストによる“現役宣言”の流れとも響き合うが、
『New』は特にポップの純度が高く、
“まだまだ前線に立つ”という気概がストレートに伝わる。
結果として本作は、
“ポールの後期ポップ最高峰” と呼ばれることも多い。
おすすめアルバム(5枚)
- Egypt Station / Paul McCartney
『New』と地続きの“後期ポップ・ポール”をさらに強化した作品。 - Chaos and Creation in the Backyard / Paul McCartney
内省的アートポップとしての流れを比較すると面白い。 - Memory Almost Full / Paul McCartney
人生回想的視点が続く、前作として相性が良い。 - The Next Day / David Bowie
大御所が“現役性”を更新した同時代の好対照。 - Beck / Morning Phase
柔らかい深みとモダンな音像が類似。
制作の裏側(任意セクション)
『New』の制作は、多様性そのものがテーマだったとも言える。
ポールは“ひとつのプロデューサーに頼るのではなく、
今の自分を多面的に映す鏡がほしい”と考え、
4人のプロデューサーを招集した。
特に Mark Ronson の参加は象徴的で、
若い世代のポップカルチャーとの接触は
ポールに新しい刺激を与えた。
Ronson はポールの声の瑞々しさに驚き、
“70代とは思えない現役性”を全面に出したアレンジを施している。
一方、Giles Martin は
“現代におけるビートルズ的構築美”を補強し、
Ethan Johns はアナログ的温かさを加えた。
Paul Epworth は最も実験的で、
モダンロックの空気をダイレクトに持ち込んだ。
結果として、作品は驚くほどバランスが良く、
“多彩なのに統一感がある”という逆説的な成功を収めた。
『New』は、
ポールが“創作の若さ”を失っていないことの証明
として、今も強く輝いている。



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