
発売日: 2006年4月4日
ジャンル: ポップロック、オルタナティヴ・ポップ、ポップパンク、R&B
概要
『I’m Not Dead』は、P!nk が2006年に発表した4作目のアルバムであり、
キャリアの“復活”と“再覚醒”を象徴する重要作である。
前作『Try This』(2003)はロック色が強い挑戦作だったが、
商業面ではやや伸び悩んだ。
その後、レーベルとの関係性や方向性に葛藤しながら制作されたのが本作であり、
タイトルの “I’m Not Dead(私は死んでない)” は
アーティストとしての再宣言でもあった。
サウンドは
ポップロック × ポップパンク × アダルトコンテンポラリー × R&B
が複雑に融合した多面的な作り。
P!nk の力強いボーカル、毒気のあるユーモア、
社会問題への鋭い視線、そして深い情緒表現が一本に貫かれている。
特にシングル曲「Stupid Girls」での社会風刺、
「Dear Mr. President」での政治批判など、
“誰に遠慮もしないP!nk” が完全復活。
同時に「Who Knew」「Nobody Knows」などのバラードでは、
脆さと不器用な優しさが滲み、
感情表現の幅広さも大きく評価された。
本作は、P!nk が “単なるポップスター” を超え、
メッセージ性と個性を持つアーティストとしての核心へ到達した作品である。
全曲レビュー
1. Stupid Girls
女性に押し付けられるステレオタイプを痛烈に批判した代表曲。
辛辣なユーモアと鋭い視点が光り、
MVと合わせて強烈なインパクトを残した。
2. Who Knew
本作の名バラード。
“もう一度会えると思っていたのに”という喪失の痛みを歌い、
P!nk の感情的な歌唱が胸を刺す。
3. Long Way to Happy
激しい感情を抱えながら前進する姿を描いた力強いロックチューン。
サビの爆発力は圧巻。
4. Nobody Knows
孤独と無力感をテーマにした深いバラード。
弱音をさらけ出すP!nkの姿がリアルで、アルバムの精神的支柱の一曲。
5. Dear Mr. President
アメリカ大統領(当時のジョージ・W・ブッシュ)への公開書簡という異色作。
Indigo Girls をゲストに迎え、
フォークロック調のアレンジが真摯さを強調する。
6. I’m Not Dead
タイトル曲。
“私はまだここにいる”という強い意志を示すアップテンポのロックナンバー。
芯のある歌声が響く。
7. ‘Cuz I Can
パーティー調のアッパーな楽曲。
奔放なエネルギー全開で、“自由に生きる”宣言が痛快。
8. Leave Me Alone (I’m Lonely)
孤独と向き合いながらも、誰かを求める矛盾を軽やかに描く曲。
明るいメロディに深いテーマが隠れている。
9. U + Ur Hand
強気で痛快なフェミニストアンセム。
クラブでも人気を博した攻撃的でダンサブルなトラック。
10. Runaway
居場所を求める葛藤を歌うミッドテンポ。
メロディの切なさが光る。
11. The One That Got Away
後悔と諦めをテーマにしたバラード。
静かな語り口がアルバム後半に深みを与える。
12. I Got Money Now
自己肯定と虚無感の間を揺れる歌詞が印象深い。
P!nkの歌声の力強さが際立つ。
13. Conversations with My 13 Year Old Self
“13歳の自分に語りかける”というコンセプチュアルな曲。
自身の痛みや心の傷に真正面から向き合う、胸を打つ一曲。
14. Fingers
官能性と遊び心が融合した軽快なナンバー。
R&B寄りのリズムが心地良い。
総評
『I’m Not Dead』は、P!nk のキャリアを決定づけた
再生・覚醒・成熟のアルバムである。
社会批評・フェミニズム・政治的メッセージ・自己の傷・喪失・孤独・ユーモア。
これら多様なテーマを一枚にまとめながら、
作品全体は驚くほど一貫して“P!nkそのもの”として成立している。
ロックとポップを行き来する音楽性は、
この後の『Funhouse』『The Truth About Love』での大成功につながる重要な基盤となった。
“強さ”だけでなく“弱さ”も前面に出すことで、
P!nkはこのアルバムで
“誰にも似ていない唯一の存在”としての魅力を確立したと言える。
おすすめアルバム(5枚)
- Funhouse / P!nk
感情の奔流とポップロックの完成度が高い代表作。 - The Truth About Love / P!nk
愛・怒り・葛藤の濃密なエネルギーが炸裂する名作。 - Try This / P!nk
ロック色の強さと反骨精神の原点を確認できる。 - Kelly Clarkson / Breakaway
“強い女性ポップロック”の文脈で比較が楽しい。 - Avril Lavigne / Under My Skin
感情をむき出しにしたロック寄りポップという点で相性が良い。
制作の裏側
本作の制作は、P!nkが精神的・アーティスト的に
“大きな転換期”を迎えていた時期に進められた。
レーベルとの軋轢や商業的プレッシャーの中、
自分の言葉で世界を語りたいという欲求が強まり、
政治や社会を歌うことに躊躇しない姿勢が確立した。
また、プロデューサーには Max Martin や Billy Mann が参加し、
“現代的なポップ”と“ロックの衝動”を両立するサウンドが構築された。
このバランス感覚が、P!nkの後期作品の方向性を決める大きな契機となった。
『I’m Not Dead』は、
P!nkというアーティストが“真の自分”を取り戻し、
ポップミュージックに新たな軸を打ち立てた瞬間を捉えた一枚である。



コメント