
発売日:2009年3月23日
ジャンル:Pop Rock / Soft Rock / Adult Contemporary
概要
Then, Now, Alwaysは、The Holliesが2009年に発表したスタジオアルバムである。1960年代から活動してきた彼らにとって、これは黄金期の再現というより、長い時間を経たバンドが自分たちの持ち味を現在の形で鳴らすための作品だった。Tony HicksとBobby Elliottという長年の中心メンバーを軸に、Peter Howarthのリードボーカルを据えた後期体制のThe Holliesは、若い頃のビートポップの鋭さではなく、メロディ、コーラス、丁寧な演奏を前面に出した大人向けのポップロックへ向かっている。
タイトルのThen, Now, Alwaysは、過去、現在、そしてこれからを結ぶ言葉であり、このアルバムの性格をよく表している。The Holliesは「Bus Stop」「Carrie Anne」「He Ain’t Heavy, He’s My Brother」などで知られるバンドだが、本作はそれらの名曲をなぞるだけの作品ではない。むしろ、長く続いてきたバンドが、今も新しい曲を歌い、ハーモニーを重ねることに意味を見出しているアルバムである。サウンドは派手な流行音を追わず、ギター、ピアノ、控えめなリズム、明るいコーラスを中心にしている。
歌詞には、愛、時間、記憶、別れ、希望、人生を続けることへの視線が多く見られる。若さの衝動をそのままぶつけるのではなく、過去を持った人がそれでも前へ進もうとする感覚がある。後期The Holliesの作品としては、Staying Powerと近い穏やかな手触りを持ちながら、タイトル通り、バンドの歴史そのものを静かに意識させる一枚である。
全曲レビュー
1. 「Then, Now, Always」
タイトル曲「Then, Now, Always」は、アルバムの姿勢を最も分かりやすく示す曲である。過去、現在、未来を一つにつなげる言葉は、恋愛の約束としても読めるし、長く活動してきたバンド自身の宣言としても響く。演奏は穏やかなポップロックで、ドラムとベースが安定した土台を作り、その上にギターとコーラスがやわらかく重なる。Peter Howarthの声は明るく伸びるが、若いバンドのように勢いだけで押すのではなく、時間を受け止めた落ち着きがある。冒頭に置かれることで、本作が懐古だけでなく、今も続いている関係を歌うアルバムだと伝えている。
2. 「Shine on Me」
「Shine on Me」は、光が差し込むような明るいメロディが中心になる曲だ。ギターの音は角が立たず、リズムも軽く前へ進むため、全体に晴れた空気がある。歌詞は、自分を照らしてくれる誰かの存在や、暗い時期に支えとなるものを求める内容として聴ける。サビではコーラスが自然に広がり、The Holliesらしい清潔な声の重なりが前に出る。大きなドラマを作る曲ではないが、後期のバンドが持つ温かさと、聴き手を安心させるメロディの力がよく表れている。
3. 「Hope」
「Hope」は、タイトル通り希望を扱った曲だが、若者向けの単純な応援歌というより、長い時間を過ごしてきた人がそれでも前を向こうとする歌として響く。演奏は派手に盛り上げるより、歌の言葉を支えることを優先しており、ドラムもギターも穏やかに配置されている。メロディにはThe Holliesらしい親しみやすさがあり、サビで声が重なると、個人の願いが少し広い励ましへ変わる。アルバムの前半で、作品全体にある前向きな視線を素直に見せる一曲である。
4. 「So Damn Beautiful」
「So Damn Beautiful」は、相手への感嘆をまっすぐ歌うバラード寄りの曲である。タイトルの言葉はかなり直接的だが、曲そのものは過度に甘くならず、ゆっくりと相手を見つめるように進む。伴奏は控えめで、リードボーカルの表情が前に出るため、歌詞の「美しさ」は外見だけでなく、その人の存在全体への思いとして伝わる。コーラスはサビで曲にふくらみを与え、個人的なラブソングをThe Holliesらしいポップスへ広げている。大人の恋愛を、派手な装飾ではなく誠実なメロディで聴かせる曲だ。
5. 「Break Me」
「Break Me」は、アルバムの中で少し影のある感情を担っている。タイトルには、自分が壊されてしまうかもしれない弱さや、相手に心を握られている不安がある。演奏は極端に暗くはならないが、メロディの中に切迫感があり、明るい曲の間に置かれることで感情の深さが増す。Peter Howarthの声はきれいに伸びる一方で、サビでは少し強く感情を押し出し、弱さを隠さずに歌う。The Holliesの後期作品にある穏やかさの中にも、関係の痛みや不安がきちんと残されていることを示している。
6. 「Let Love Pass」
「Let Love Pass」は、愛を無理につかみ続けるのではなく、流れていくものとして受け止めるような曲である。テンポは落ち着いていて、ギターとリズムも歌に寄り添う程度に抑えられている。歌詞は、別れや変化をただ失敗として描くのではなく、通り過ぎていくものを受け入れることで心が少し整っていく、という方向に読める。サビのコーラスも大きく泣かせるのではなく、感情をやわらかく包む。若い恋の熱ではなく、時間を経た後に生まれる静かな理解がある一曲だ。
7. 「Touch Me」
「Touch Me」は、身体的な近さと感情的なつながりを、明快なポップロックとしてまとめている。リズムにはほどよい弾みがあり、重いバラードにせずに親密さを表しているところがよい。歌詞は相手に触れてほしいという願いを中心にしているが、それは単なる誘惑ではなく、孤独や距離を埋めるための言葉として響く。リードボーカルはやわらかく、サビで加わるコーラスが曲に温かい広がりを与える。The Holliesらしい清潔なポップ感があるため、題材が濃くなりすぎず、自然なラブソングとして聴ける。
8. 「Emotions」
「Emotions」は、心の揺れを正面から扱う曲である。演奏は大きく崩れず、ドラムとベースが一定の土台を作るため、歌詞の中にある不安や迷いがかえって分かりやすくなる。感情に振り回されること、言葉にできない思いを抱えることが歌われているように聞こえるが、曲そのものは暗く沈みきらない。The Holliesのハーモニーは、個人の不安を少し距離を置いて包み込むように働いている。大人のポップスとして、心の乱れをなだめながら歌にしているところに魅力がある。
9. 「Weakness」
「Weakness」は、自分の弱さを認めることをテーマにした曲として聴ける。The Holliesの音楽は明るいメロディで知られるが、この曲ではその明るさの中に、完全には隠せない傷がある。歌詞は、誰かへの思いが自分の弱点になってしまう感覚を描いているように読める。演奏は抑制され、ギターもリズムも歌を邪魔しないため、声の中にある迷いが前に出る。サビではメロディが開き、弱さを恥じるというより、それも人間の一部として受け入れていくように聞こえる。
10. 「Live It Up」
「Live It Up」は、アルバム後半で気分を少し引き上げる曲である。タイトルには、人生を楽しむ、気分を上げるという軽やかな意味があり、曲もその方向へ作られている。ドラムは明るく前へ進み、ギターもリズムを弾ませるため、内省的な曲が続いた後に空気が開ける。歌詞は、過去や不安に縛られすぎず、今を生きようとする内容として読める。若々しく騒ぐ曲ではなく、長く生きてきた人がそれでも楽しむことを選ぶ曲として響くのが、このアルバムらしい。
11. 「The Woman I Love」
「The Woman I Love」は、ひねりの少ない素直なラブソングである。タイトルは非常に直接的で、歌詞も相手への愛情を分かりやすく伝えるものとして聴ける。伴奏は穏やかで、メロディも覚えやすく、リードボーカルの誠実な響きが前に出る。The Holliesのコーラスは、個人的な告白にふくらみを与え、曲を単なる私的なラブレターではなく、広く届くポップソングへ変えている。情熱を叫ぶより、長く続く愛への感謝を落ち着いて歌っているところに、後期The Holliesの魅力がある。
12. 「Yesterday’s Gone」
「Yesterday’s Gone」は、過去を振り返りながらも、そこに留まり続けない曲である。タイトルは失われた昨日を示しているが、曲調はただ悲しみに沈むものではなく、過去を受け止めた上で前を向く空気を持っている。ギターとコーラスは柔らかく、メロディには少し懐かしい響きがあるため、The Holliesの長い歴史そのものを思わせる。歌詞は、戻れない時間への寂しさと、戻れないからこそ今を生きるという感覚を含んでいるように聞こえる。アルバム終盤で、タイトルの「Then, Now, Always」という時間感覚を静かに深めている。
13. 「If You See Her」
最後の「If You See Her」は、直接届けられない思いを、誰かへの呼びかけの形で歌う曲として聴ける。相手に会ったら伝えてほしい、あるいは自分ではもう言えない言葉があるという状況が浮かび、アルバムの終わりに切ない余韻を残す。演奏は大きく盛り上げすぎず、声とメロディを中心に置いているため、未練や感謝が静かに伝わる。サビでコーラスが加わると、個人の小さな願いが少し広い祈りのように聞こえる。最後に勝利宣言ではなく、届かなかった言葉を抱えたまま終わることで、本作は大人のポップアルバムらしい落ち着いた余韻を残している。
総評
Then, Now, Alwaysは、The Holliesが長いキャリアの中で培ってきたメロディとハーモニーを、後期の穏やかなポップロックとしてまとめた作品である。1960年代のThe Holliesにあった若いビート感や、1970年代の大きなバラードの劇的な力を期待すると、本作はかなり控えめに聞こえるかもしれない。しかし、このアルバムが目指しているのは過去の名曲をもう一度作ることではなく、時間を経たバンドが今も自然に歌える場所を見つけることだ。
その意味で、タイトルは非常によく効いている。過去を否定せず、現在を無理に若作りせず、これからも続いていくものを穏やかに見つめる姿勢が、アルバム全体に流れている。「Hope」や「Shine on Me」には前向きな光があり、「Break Me」や「Weakness」には弱さを認める視線がある。「Yesterday’s Gone」や「If You See Her」では、戻れない時間や届かない言葉が静かに扱われる。つまり本作の明るさは、何も失っていない人の明るさではなく、失ったものを知ったうえで残る明るさである。
サウンド面では、The Holliesの最大の武器であるコーラスが作品を支えている。リードボーカルだけなら平凡な大人向けポップに近づきそうな場面でも、声が重なることで曲に奥行きとバンドらしさが出る。ギターやドラムは前に出すぎず、メロディを支える役割に徹しているため、派手な演奏の見せ場は少ない。ただ、その控えめな作りによって、歌の言葉とハーモニーがよく聞こえる。
弱点を挙げるなら、アルバム全体のテンションが安定しているぶん、曲ごとの差がやや小さく感じられるところはある。強い実験性や鋭いフックは少なく、The Holliesの歴史的な代表作と並べると、時代を動かすような力はない。それでも、この作品には老舗バンドが自分たちの名前に頼りきらず、丁寧に新しい曲を並べようとする誠実さがある。華やかな復活劇ではなく、静かに続くためのアルバムだ。
The Holliesのキャリアの中で、Then, Now, Alwaysは大きな転換点というより、長く活動してきたバンドの後期像を示す一枚である。若い頃のThe Holliesを知るための入口には向かないが、彼らがなぜ長く続いたのかを考えるうえでは意味がある。メロディを大切にし、声を重ね、過去を抱えながら現在の歌として届ける。その基本を大きく崩さずに鳴らしているところに、本作の価値がある。
おすすめアルバム
Staying Power by The Hollies
Peter Howarthを迎えた後期The Holliesの流れを知るうえで重要な作品。Then, Now, Alwaysと同じく、穏やかなポップロックと清潔なハーモニーを中心に、長く続くバンドの現在形を聴かせている。
For Certain Because by The Hollies
1960年代中期のThe Holliesが、ビートポップからより成熟したソングライティングへ進んだ作品。後期作品とは音の若さが違うが、メロディと声の重なりを大切にする姿勢ははっきり共通している。
Hollies Sing Hollies by The Hollies
オリジナル曲中心のアルバムで、バンド自身の作曲力とハーモニーの魅力がよく分かる。Then, Now, Alwaysの穏やかな歌作りを、初期から中期のThe Holliesの流れの中で捉え直せる。
Distant Light by The Hollies
「Long Cool Woman in a Black Dress」を含む1970年代初期の作品で、よりロック色の強いThe Holliesが聴ける。後期の落ち着いたサウンドとは違い、ギターとリズムの押し出しが前に出ている。
Butterfly by The Hollies
サイケデリックな響きや幻想的なコーラスが強く、The Holliesの実験的な側面を知るのに向いている。Then, Now, Alwaysの自然体なポップとは対照的だが、ハーモニーの美しさは同じ根を持っている。

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