発売日: 2011年1月21日
ジャンル: ハードロック、メロディックロック
概要
『What If…』は、ミスター・ビッグが再結成後に発表した7枚目のスタジオ・アルバムであり、
オリジナルメンバー（エリック・マーティン、ポール・ギルバート、ビリー・シーン、パット・トーピー）による12年ぶりの新作である。
1990年代に世界的な人気を誇りながら、2002年に解散。
その後、2010年の再結成ツアーを経て生まれた本作は、単なる“懐古”ではなく、
バンドの真価を改めて証明する堂々たるロックアルバムとなった。
プロデュースを務めたのは、モダン・ロック界で名を馳せるケヴィン・エルソン（Journey、Europeなど）。
重厚なギター、タイトなリズム、そして4人のケミストリーが蘇ったサウンドは、
まさに「もしミスター・ビッグが2010年代に活動を続けていたら？」というタイトルどおりの仮定を体現している。
全曲レビュー
1. Undertow
アルバムの幕開けを飾る、ヘヴィかつメロディックな代表曲。
冒頭のリフはポール・ギルバートらしい緻密な構築美を持ち、
エリック・マーティンのソウルフルな歌声が堂々と響く。
ビリー・シーンのベースがリード楽器のようにうねり、
再結成後のバンドの勢いと成熟を強烈に印象づける。
2. American Beauty
スピード感のあるハードロックチューン。
タイトルは“アメリカ的虚飾”への風刺で、
派手なギターソロの裏にアイロニーと哀愁が漂う。
90年代の彼らを思わせるポジティブなエネルギーが蘇っている。
3. Stranger in My Life
叙情的なメロディとブルージーなコードワークが美しいミドルテンポ曲。
“誰もが自分の人生の中で見知らぬ他人になる”というテーマを描き、
エリックのヴォーカルが成熟した感情を伝える。
この曲のサビはアルバム中でも屈指のメロディアスさを誇る。
4. Nobody Left to Blame
歪んだギターリフとダークなムードを持つ、
モダンロック的アプローチのハードチューン。
歌詞では「責める相手ももういない」という孤独を描き、
**バンドとしての“再出発の覚悟”**を感じさせる。
5. Still Ain’t Enough for Me
ライブ定番曲。
クラシックなロックンロールの疾走感に、
テクニカルなギター＆ベースの掛け合いが炸裂する。
80年代のミスター・ビッグ節が現代的に蘇ったような快作で、
演奏陣の妙技が光る。
6. Once Upon a Time
重厚なサウンドとエモーショナルな展開が印象的。
“昔話のように愛を信じられた時代”というノスタルジーを歌う。
ギターとヴォーカルが互いに響き合い、
再結成後の落ち着いた情感を象徴する楽曲。
7. As Far as I Can See
穏やかなバラードで、エリックの声が温かく響く。
愛の持続や人生の意味を静かに問いかけるリリックが心に残る。
ミスター・ビッグのもう一つの顔――**“大人のメロディメーカー”**としての側面を堪能できる。
8. All the Way Up
伸びやかなメロディラインと、前向きなメッセージが融合した楽曲。
バンドが再び集まり、“もう一度頂点へ”という決意を歌うようでもある。
ギターソロは叙情的で、アルバム中でも特に完成度の高い一曲。
9. I Won’t Get in My Way
リズムセクションのグルーヴが際立つ、ファンキーなロックナンバー。
ビリーとパットのリズムコンビが息を吹き返し、
バンドの原動力が健在であることを証明している。
どこか70年代のクラシックロックの香りも漂う。
10. Around the World
タイトルどおり、ワールドワイドなスケールを感じさせる楽曲。
疾走感のあるサウンドと、サビでのコーラスワークが爽快。
かつてのポップなミスター・ビッグらしさを残しつつも、
現代的なエッジを持つ。
11. I Get the Feeling
エンディングを飾る温かいバラード。
“過去の痛みも今の自分を作る一部”というメッセージが、
再結成という出来事と重なる。
しっとりとした余韻を残し、
再会の物語を優しく締めくくる一曲である。
総評
『What If…』は、ミスター・ビッグの再結成を単なる懐古ではなく、
現役感と進化を伴った復活として示した傑作である。
ポール・ギルバートのギターは以前よりも深みを増し、
ビリー・シーンとの超絶掛け合いも健在。
パット・トーピーのドラミングは年齢を感じさせないほどタイトで、
バンド全体に“熟練と情熱”が共存している。
サウンドは過去の華やかさを保ちつつ、
2000年代のモダンロックの質感を柔軟に吸収している。
とくに「Undertow」「Still Ain’t Enough for Me」「Stranger in My Life」は、
“新時代のミスター・ビッグ三部作”と呼ぶにふさわしい完成度だ。
本作は、かつてのヒット「To Be With You」や「Green-Tinted Sixties Mind」のような
ポップな魅力だけでなく、再結成という奇跡が生んだ円熟のグルーヴを聴かせる。
“もし彼らがこのまま活動を続けていたら？”という仮定に対する答えは、
このアルバムの中に明確にある。
おすすめアルバム
- Lean Into It / Mr. Big (1991)
不朽の代表作。バンドの原点に立ち返るならここから。 - Bump Ahead / Mr. Big (1993)
バラードとロックのバランスが絶妙な名盤。 - Get Over It / Mr. Big (1999)
リッチー・コッツェン加入後の再構築期。ファンク的センスが光る。 - Defying Gravity / Mr. Big (2017)
本作の精神を継承した、後期ミスター・ビッグの集大成。 - Eat ’Em and Smile / David Lee Roth (1986)
ビリー・シーンのルーツを知る上で必聴のハードロック名盤。
制作の裏側
録音はカリフォルニアと日本で行われ、
長年の友人でもあるプロデューサー、ケヴィン・エルソンのもとで
“原点回帰と現代化”を両立する制作方針が掲げられた。
メンバーはまずツアーで再び演奏の感覚を取り戻し、
その勢いを保ったままスタジオ入り。
多くの曲が一発録りに近いライブ感で収録されたという。
タイトル『What If…』は、“もし再びやれるなら？”というメンバー自身の問いでもあり、
その答えがアルバム全体に刻まれている。
そして聴き終えたとき、リスナーはこう感じるだろう。
――“この4人が再び鳴らす音こそ、本物のMr. Bigだ”と。
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