1. 歌詞の概要
「Isn’t It a Pity」は、Galaxie 500が1990年のサード・アルバム『This Is Our Music』に収録したカバー曲である。原曲はGeorge Harrisonが1970年に発表したソロ・アルバム『All Things Must Pass』に収められた名曲であり、人間の無理解や愛の欠如を嘆きながら、それでも普遍的な哀しみを静かに受け止める壮大な楽曲であった。
Galaxie 500はこの曲を、原曲の荘厳さや大規模なアレンジを削ぎ落とし、シンプルでドリーミーな解釈へと変換した。彼らのバージョンでは「なぜ私たちは互いに愛し合えないのか」という普遍的な問いが、静けさの中で淡々と響く。豪華なオーケストレーションは存在せず、代わりに反復するギターと気だるい歌声が曲を支配している。その結果、曲はより内省的で瞑想的な響きを持ち、オリジナルとは異なる独自の感情世界を開いている。
2. 歌詞のバックグラウンド
George Harrisonの「Isn’t It a Pity」は、ビートルズ解散後の混乱の中で生まれた名曲であり、人間同士の関係の冷たさや愛の欠如を嘆く、普遍的なテーマを持っていた。そのメッセージは時代を超えて聴き手の胸に響き続けている。
Galaxie 500はこの曲を『This Is Our Music』で取り上げることによって、自らの美学を重ね合わせた。1990年という時代は、グランジやブリットポップの胎動期にあり、エネルギーと攻撃性に満ちた音楽が勢いを増していた。しかしGalaxie 500はその流れに逆らうように、静謐で抑制的な表現を選び取った。彼らの「Isn’t It a Pity」は、オリジナルの壮大さを放棄することで、むしろ「哀しみの普遍性」を強調したのだ。
また、Dean Warehamの声は決して強く訴えかけるものではなく、むしろ淡々と響く。その抑制が逆に切実さを引き立て、聴き手を深い思索へと導く。Naomi YangのベースとDamon Krukowskiのドラムがその声を支え、雪のように降り積もるギターの残響が全体を包み込む。ここでは嘆きは叫びにはならず、静かな共感の余韻として残されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Isn’t It a Pity」の印象的な部分を抜粋し、英語歌詞と和訳を併記する。
（歌詞引用：Genius）
Isn’t it a pity
なんて哀しいことだろう
Isn’t it a shame
なんて残念なことだろう
How we break each other’s hearts
僕たちが互いの心を傷つけ合うなんて
And cause each other pain
そして互いに痛みを与えるなんて
How we take each other’s love
僕たちが互いの愛を受け取りながら
Without thinking anymore
もはや深く考えることもなく
歌詞は人間同士の無理解と冷淡さを嘆きながらも、その事実を静かに受け止める視線を持つ。Galaxie 500の演奏はこの言葉をより冷静に、しかしより鋭く響かせている。
4. 歌詞の考察
「Isn’t It a Pity」は、人間関係における不完全さを普遍的なレベルで描いた楽曲である。人は互いに愛を与え合える存在であるにもかかわらず、同時に無理解や冷淡さによってその愛を損なってしまう。この矛盾を、George Harrisonは壮大でスピリチュアルなスケールで歌った。
しかしGalaxie 500は、その矛盾をより個人的で親密なものとして響かせている。彼らのカバーでは、社会全体の嘆きというよりも、身近な人間関係の中で起こるすれ違いや痛みが浮かび上がる。Warehamの声の「弱さ」は、むしろその切実さを高めているのだ。
さらに、音楽的にも彼らは徹底して「余白」を重視している。豪華なアレンジを削ぎ落としたことで、言葉のひとつひとつが空間の中に深く響き、リスナー自身の体験や感情と結びついていく。雪のように舞い降りるギターの残響は、痛みを和らげると同時に、その痛みが消えることはないことを示唆しているようでもある。
このカバーは「カバーソング」の在り方を再定義したと言ってよい。原曲をなぞるのではなく、まったく新しい解釈として提示することで、Galaxie 500は「Isn’t It a Pity」を自らの作品としても成立させた。その内省的で静謐な響きは、1990年代以降のインディ・シーンに大きな影響を与えたのである。
（歌詞引用：Genius）
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Listen, the Snow Is Falling by Galaxie 500
同じアルバムに収録されたYoko Onoのカバーで、静謐な美学をさらに深めている。 - Don’t Let Our Youth Go to Waste by Galaxie 500
Jonathan Richmanの楽曲を幻想的に再構築した代表的カバー。 - Atmosphere by Joy Division
人間の孤独や痛みを静かに描いたポストパンクの名曲。 - Lorelei by Cocteau Twins
抽象的な言葉と浮遊感ある音像が「Isn’t It a Pity」の雰囲気と共鳴する。 - Into the Fire by Low
スロウコア的な静謐さと人間的な痛みを描く楽曲。
6. 『This Is Our Music』における「Isn’t It a Pity」の意味
『This Is Our Music』はGalaxie 500にとって最後のスタジオ・アルバムとなり、その中で「Isn’t It a Pity」は特別な意味を持つ。バンドはこのアルバムをもって解散に向かっていったが、その過程で選ばれたこのカバーには、自らの終焉をどこかで意識した響きがある。
「人はなぜ互いに愛を損ない合うのか」という問いは、バンド内部の関係性にも通じるものだったのかもしれない。解散を目前に控えながら、この曲を穏やかに演奏することは、ある種の自己言及的な行為でもあっただろう。
結果として、Galaxie 500の「Isn’t It a Pity」は、バンドのキャリア全体を象徴する楽曲となった。原曲の普遍性と、自らの内省的な美学とを融合させたこのカバーは、彼らの短い活動の中でも最も深い余韻を残す一曲であり、今なお聴く者に静かな問いを投げかけ続けている。
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