1. 歌詞の概要
「Mountains」は、1986年にリリースされたアルバム『Parade』に収録され、同年シングルとして発表された楽曲である。映画『Under the Cherry Moon』のサウンドトラックの一部としても知られており、アルバムからの代表的なシングル曲のひとつとなった。
歌詞のテーマはシンプルで力強い。「どんな障害も、愛があれば乗り越えられる」というメッセージが込められている。山（Mountains）は象徴的なモチーフとして登場し、それは人生における試練や困難を意味する。プリンスは「愛があれば山さえも小さなものに見える」と歌い、恋愛の力や人間関係の結びつきが、すべての障害を超える原動力になることを強調している。
全体的に「Mountains」は、『Parade』という作品全体に通じるロマンティックかつ洗練された空気をまとっており、同時にプリンスの楽曲の中でも特にポジティブで明快な愛の賛歌として位置づけられる。
2. 歌詞のバックグラウンド
アルバム『Parade』は、プリンス&ザ・レヴォリューション名義で制作され、『Purple Rain』に続く大成功を受けた後に発表された。『Around the World in a Day』でサイケデリックな実験を行ったプリンスは、この『Parade』でよりモダンかつアート志向の音楽性を打ち出し、ファンク、ポップ、クラシカルな要素を融合させている。その中で「Mountains」は、アルバムの中でもひときわダンサブルでキャッチーな楽曲として存在感を放っている。
制作においては、ザ・レヴォリューションのメンバーが大きく関与しており、特にギタリストのウェンディ・メルヴォワンとリサ・コールマンの貢献が大きい。彼女たちは共同作曲者としてクレジットされており、バンドとしての一体感が強く反映された楽曲になっている。これは、プリンスの作品の中でも珍しいケースであり、バンドの力が楽曲に大きく反映されている点が「Mountains」の魅力のひとつである。
音楽的には、ファンクのグルーヴをベースにしつつ、ホーンセクションの華やかなアレンジと軽快なリズムが特徴的である。重厚なメッセージをポップで明るいサウンドに包み込むことで、聴き手にポジティブなエネルギーを届けることに成功している。
シングルとしては全米チャートで最高23位を記録し、『Parade』の中では「Kiss」に次ぐ成功を収めた。映画『Under the Cherry Moon』では、プリンスが演じる主人公と愛の物語を象徴する楽曲としても用いられ、作品のロマンティックな側面を補完している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Mountains」の印象的な一節を示す。
引用元：Prince and the Revolution – Mountains Lyrics | Genius Lyrics
Love will conquer if you just believe
ただ信じるなら、愛は必ず勝つ
It’s only mountains and the sea
それはただの山や海にすぎない
There’s nothing greater, you and me
君と僕、これ以上大きなものはない
Hold my hand and let’s go up high
僕の手を取って、一緒に高く登ろう
Love will make it all so right
愛がすべてを正しいものにしてくれる
歌詞は非常にストレートで、人生の困難を比喩的に「山」や「海」として描きながら、「それらも愛の力で小さくなる」と歌う。重苦しさはなく、むしろ軽やかで祝祭的な雰囲気が漂う。
4. 歌詞の考察
「Mountains」は、プリンスの作品の中でも最も普遍的でポジティブなメッセージを持つ楽曲のひとつである。彼はしばしばセクシュアリティや宗教的テーマ、社会批評を楽曲に込めるが、この曲ではそれらを脇に置き、「愛の力の絶対性」というシンプルな真理に集中している。
特に「It’s only mountains and the sea」というフレーズは象徴的だ。人間が直面する問題や障害は確かに大きく感じられるが、愛の力があればそれらは「ただの山や海」にすぎない、と軽やかに歌い飛ばしてしまう。これは単なる恋愛にとどまらず、友情や人間的な絆にも通じる普遍的な真理として響く。
また、この楽曲がバンドであるザ・レヴォリューションと共に制作された点も重要である。ウェンディ&リサを含むバンドのメンバーが共に曲を作り上げたことで、プリンスのソロワークスにはない「共同体的なエネルギー」が楽曲に宿っている。そのエネルギーは歌詞のテーマとも共鳴し、愛と協力によって困難を乗り越えるというメッセージを一層強調している。
音楽的には、シンプルながらも高揚感のあるファンク・ポップであり、ライブでは観客を巻き込むアンセムとして機能した。シリアスなテーマを扱いながらも、サウンドの明るさと楽しさによって聴き手に「希望」を与える点に、プリンスの表現者としての力量が表れている。
コピーライト：Lyrics © Universal Music Publishing Group
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Kiss by Prince and the Revolution
同じ『Parade』収録。ミニマルでファンキーなサウンドが特徴的。 - Anotherloverholenyohead by Prince and the Revolution
同アルバム収録曲で、愛と執着をテーマにしたダンサブルなナンバー。 - Baby I Love You by Aretha Franklin
愛の力を力強く歌い上げるソウル・クラシック。 - Higher Love by Steve Winwood
愛と信仰が困難を超える力になるというテーマで共鳴する。 - Lovely Day by Bill Withers
愛や存在そのものが日常を明るく変えることをシンプルに歌い上げた名曲。
6. 「愛による勝利」を象徴するアンセム
「Mountains」は、プリンスが『Parade』というアルバムで追求したアート志向の中でも、最も普遍的で人々に寄り添うメッセージを放つ楽曲である。セクシュアルな挑発や社会的批評を超え、愛の力をストレートに賛美するこの曲は、彼の多面的な表現の中でも特に「人間味」と「希望」に満ちた作品だといえる。
「山や海」を人生の試練に見立て、それすらも愛があれば越えられるというメッセージは、1980年代だけでなく現在においても色褪せない普遍性を持っている。華やかなサウンドと共に響くその言葉は、聴く者に前向きな力を与えるアンセムであり、プリンスの作品群における重要な一角を担っているのである。
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