
1. 歌詞の概要
Led ZeppelinのRock and Rollは、タイトルの通り、ロックンロールそのものへ立ち返る曲である。
この曲には、難解な物語はない。
神話的なイメージも、幻想的な叙事詩も、複雑な比喩もほとんどない。
あるのは、ただひとつの衝動だ。
長いあいだロックしていなかった。
長いあいだ踊っていなかった。
だから、もう一度戻りたい。
あの音へ。
あの身体の動きへ。
あの熱へ。
歌詞の冒頭では、しばらくロックンロールをしていなかった、しばらくストロールを踊っていなかった、という感覚が歌われる。Spotifyの楽曲ページにも、長いあいだロックンロールしていない、ストロールしていないという冒頭歌詞が掲載されている。Spotify
この曲でのロックンロールは、単なる音楽ジャンルではない。
若さの感覚。
夜の高揚。
身体が勝手に動く瞬間。
何かを取り戻したいという衝動。
それらすべてを含んでいる。
Led Zeppelinは、しばしば壮大なバンドとして語られる。
ブルース、ハードロック、フォーク、サイケデリア、神秘主義、重厚なリフ、長大なライブ演奏。
そうした巨大なイメージがある。
しかしRock and Rollは、その巨大さをいったん脱ぎ捨てる。
曲は3分40秒ほど。
構成はシンプル。
リフは直線的。
歌詞も明快。
そして、始まった瞬間から終わりまで、ずっとエンジンがかかりっぱなしである。
この曲のすごさは、原始的なロックンロールへの回帰を、Led Zeppelinの怪物的な演奏力で鳴らしているところにある。
1950年代ロックンロールへのオマージュでありながら、音の重さは完全に1970年代のハードロックだ。
Little RichardやChuck Berryの火花を受け継ぎつつ、John BonhamのドラムとJimmy Pageのギターが、それを巨大なエンジンに変えている。
懐古ではない。
復活である。
Rock and Rollは、昔のロックンロールを懐かしむ曲ではなく、今この瞬間にもう一度ロックンロールを爆発させる曲なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
Rock and Rollは、Led Zeppelinの4作目のスタジオ・アルバムLed Zeppelin IVに収録された楽曲である。アルバムではBlack Dogに続く2曲目に置かれ、1972年2月21日にはアメリカでシングルとしてもリリースされた。録音は1971年1月から2月にかけて、ハンプシャーのHeadley Grangeに設置されたRolling Stones Mobile Studioなどで行われている。ウィキペディア
作詞作曲クレジットは、John Bonham、John Paul Jones、Jimmy Page、Robert Plantの4人全員に与えられている。プロデュースはJimmy Page。さらに、The Rolling Stonesの初期メンバーでピアニストのIan Stewartがゲスト参加している。ウィキペディア
この曲の誕生には、とても有名なエピソードがある。
Led ZeppelinはHeadley GrangeでFour Sticksの録音に苦戦していた。
空気が煮詰まり、セッションが思うように進まない。
その休憩中、John BonhamがLittle RichardのKeep A-Knockin’を思わせるドラム・イントロを叩き始めた。
そこへJimmy PageがChuck Berry風のギター・リフを加える。
他のメンバーも次々に乗ってくる。
Ian Stewartもピアノで参加する。
その場で曲の骨格ができあがった。
資料によれば、Rock and Rollはそうした即興的なジャムから生まれ、最初のセクションを演奏したあと、曲の基礎はおよそ15分で完成したとされる。ウィキペディア
この背景は、曲の性格をよく表している。
Rock and Rollは、机の上でじっくり構築された曲というより、煮詰まったセッションの中で突然吹き出したエネルギーの曲である。
行き詰まりから生まれた解放。
難しい曲に苦戦したあと、もっと根源的なリズムへ戻る瞬間。
それが、この曲の中心にある。
つまりRock and Rollは、Led Zeppelinがロックンロールの基本へ戻った曲でありながら、同時に彼ら自身の停滞を突破した曲でもある。
Led Zeppelin IVというアルバム全体で見ると、この曲の役割は非常に大きい。
1曲目のBlack Dogは、変拍子的なリフとコール・アンド・レスポンスによって、Led Zeppelinらしい重さと知性を示す。
その直後にRock and Rollが来る。
ここでアルバムは一気に開ける。
難しいことは抜きだ。
ロックンロールを鳴らすぞ。
そんな勢いで、リスナーを前へ押し出す。
Led Zeppelin IVにはStairway to Heavenのような叙事詩的な曲もあり、The Battle of Evermoreのようなフォーク色の強い曲もある。
その中でRock and Rollは、最も直接的で、最も身体的な曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は、権利を侵害しない範囲での短い抜粋である。歌詞全文はSpotifyなどの公式配信サービス上で確認できる。Spotify
It’s been a long time since I rock and rolled
It’s been a long time since I did the stroll
和訳すると、次のような意味になる。
ずいぶん長いあいだ、ロックンロールしていなかった
ずいぶん長いあいだ、ストロールを踊っていなかった
この冒頭は、とてもシンプルだ。
だが、このシンプルさが曲の魅力を決めている。
語り手は何かを失っていた。
ロックンロールすること。
踊ること。
身体を音に任せること。
それを長いあいだ忘れていた。
そして今、それを取り戻そうとしている。
ストロールは1950年代後半に流行したダンスを連想させる言葉でもある。
つまり、この曲の冒頭には、初期ロックンロールへの明確なまなざしがある。
しかしLed Zeppelinは、それをそのまま復元するのではない。
昔のダンス・ホールの記憶を、1970年代の巨大なアンプとドラムで叩き起こしている。
歌詞引用元: Spotify掲載歌詞情報
権利表記: 歌詞はLed Zeppelinおよび各権利者に帰属する。引用は短い抜粋にとどめている。Spotify
4. 歌詞の考察
Rock and Rollの歌詞は、Led Zeppelinの楽曲の中ではかなり簡潔である。
たとえばStairway to Heavenのような象徴的で神秘的な言葉はない。
Kashmirのような壮大な旅のイメージもない。
Whole Lotta Loveのような濃厚な性的ブルース感とも少し違う。
Rock and Rollは、もっと直接的だ。
長いあいだロックしていなかった。
長いあいだ踊っていなかった。
戻らせてくれ。
もう一度、あの場所へ。
この曲の歌詞は、音楽への帰還の歌として読める。
人は、日常の中で自分の衝動を忘れることがある。
仕事、疲労、停滞、倦怠、考えすぎ。
そうしたものが重なり、身体が音楽から離れてしまう。
しかし、ある瞬間にドラムが鳴る。
ギターが入る。
声が叫ぶ。
すると、忘れていたものが戻ってくる。
Rock and Rollは、その瞬間を歌っている。
この曲で面白いのは、タイトルがあまりにも大きいことだ。
Rock and Roll。
普通なら、こんな直球のタイトルをつけるのは勇気がいる。
あまりにも一般的で、あまりにも大げさだ。
しかしLed Zeppelinは、それを堂々と使う。
そして、そのタイトルに負けない演奏をする。
この曲は、ロックンロールについての曲であると同時に、ロックンロールそのものとして機能している。
説明ではない。
実演である。
歌詞がロックンロールへの回帰を歌い、演奏がその回帰を証明する。
この一致が素晴らしい。
サウンドの中心にあるのは、John Bonhamのドラムである。
冒頭のドラム・フィルが鳴った瞬間、曲はすでに勝っている。
Bonhamのドラミングは、単に速いだけでも、重いだけでもない。
音の粒が太く、間の取り方に巨大な余裕がある。
Little RichardのKeep A-Knockin’を連想させるリズムから始まったという制作背景を知ると、このドラムは初期ロックンロールへの敬意としても聴こえる。
しかし、Bonhamの音は50年代の軽快なロックンロールとは桁が違うほど重い。
まるで古いエンジンを、ジェット機の推進力で回しているようだ。
Jimmy Pageのギター・リフも、非常に単純である。
しかし、この単純さがいい。
複雑にひねらない。
鋭く刻む。
曲の前方へ向かう力だけを残す。
資料では、Pageのメイン・リフはシンプルだが非常に効果的であり、BonhamのドラムとJohn Paul Jonesの演奏が曲を前へ駆動すると説明されている。ギターは複数トラックで重ねられ、Ian Stewartのピアノも曲のロックンロール感を支えている。ウィキペディア
Ian Stewartのピアノも重要である。
Led Zeppelinの重厚なギターとドラムの中に、ピアノが入ることで、曲は初期ロックンロールのブギー感を取り戻す。
これは単なるハードロックではない。
ルーツを持ったハードロックである。
Robert Plantのヴォーカルは、曲全体に若さの熱を与えている。
Plantの声は高く、鋭く、まるで過去のロックンロールを呼び戻すシャウトのように響く。
ただ懐かしむのではなく、もう一度それを今の身体で生き直そうとしている。
歌詞の中で何度も示されるlong timeという感覚も重要だ。
長いあいだ離れていた。
長いあいだ忘れていた。
長いあいだ戻れなかった。
この時間の空白があるから、曲の爆発が強くなる。
ただ楽しいから踊るのではない。
戻ってきたから踊る。
失われていたものが戻ったから、音が強くなる。
Rock and Rollは、単純なパーティー・ソングのように見えて、実は再起動の曲なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Black Dog by Led Zeppelin
Led Zeppelin IVの1曲目であり、Rock and Rollの直前に置かれた曲である。Black Dogの複雑なリフとコール・アンド・レスポンスを聴いたあとにRock and Rollへ入る流れは、アルバム冒頭の大きな魅力である。Led Zeppelin IVの公式プレイリストでも、この2曲は冒頭に並んでいる。YouTube
Black DogがLed Zeppelinのリフ構築の巧みさを示す曲なら、Rock and Rollはより直線的な爆発を示す曲である。
この2曲を続けて聴くことで、Led Zeppelinの知性と本能の両方が見える。
- Whole Lotta Love by Led Zeppelin
Led Zeppelinのハードロック的な肉体性を味わうなら、Whole Lotta Loveは欠かせない。
Rock and Rollが初期ロックンロールへの回帰なら、Whole Lotta Loveはブルースとハードロックとサイケデリックな音響を結びつけた曲である。
どちらにも、リフの強さとPlantの声の性的な熱がある。
ただし、Rock and Rollのほうがより短く、より直線的だ。
Whole Lotta Loveはもっと粘り、空間を歪ませる。
- Keep A-Knockin’ by Little Richard
Rock and Rollの誕生に関わる重要なルーツ曲である。John Bonhamがこの曲を思わせるドラム・イントロを叩いたことが、Rock and Rollのきっかけになったと伝えられている。ウィキペディア
Little Richardの演奏には、ロックンロールがまだ新しい爆発だった時代の熱がある。
Rock and Rollを聴いたあとにKeep A-Knockin’を聴くと、Led Zeppelinが何を巨大化したのかがよくわかる。
- Johnny B. Goode by Chuck Berry
Jimmy PageがChuck Berry風のリフを加えたことからRock and Rollが発展したという背景を考えると、Chuck BerryのJohnny B. Goodeも外せない。ウィキペディア
Chuck Berryのギター・リフ、言葉のリズム、ロックンロールのスピード感は、後のあらゆるロックの原型である。
Led Zeppelinはその原型を、ハードロックの音量と重量で再構築した。
- Good Times Bad Times by Led Zeppelin
Led Zeppelinのデビュー・アルバムの1曲目であり、バンドの登場を告げた曲である。
Rock and Rollと同じく、短い時間の中でLed Zeppelinの演奏力を一気に見せつける曲だ。
Bonhamのドラム、Pageのリフ、Jonesのベース、Plantの声。
すべてが若く、鋭い。
Rock and Rollがルーツへの回帰なら、Good Times Bad Timesはバンドの出発点の爆発である。
6. ロックンロールを巨大化した3分40秒
Rock and Rollは、Led Zeppelinの曲の中でも非常にわかりやすい。
しかし、わかりやすいから浅いわけではない。
むしろ、この曲はロックンロールというものの本質を、非常に強く示している。
ロックンロールは、複雑な説明の前に身体を動かす音楽である。
ドラムが鳴る。
ギターが入る。
声が叫ぶ。
それだけで、部屋の空気が変わる。
Rock and Rollは、その原始的な力をLed Zeppelinのスケールで鳴らした曲だ。
この曲において、バンドは難しいことをしていないように聞こえる。
だが、本当に難しいのは、シンプルなことを巨大な説得力でやることだ。
誰でもロックンロール風のリフは弾けるかもしれない。
誰でも古いロックを引用することはできるかもしれない。
でも、それをLed ZeppelinのRock and Rollほど生命力のある曲にするのは簡単ではない。
なぜなら、この曲には演奏者の身体がそのまま入っているからだ。
Bonhamのドラムは、曲を地面から跳ね上げる。
Pageのギターは、リフを刃のように走らせる。
Jonesのベースは、全体を太く支える。
Plantの声は、曲を熱狂の天井へ押し上げる。
Ian Stewartのピアノは、そこに古いロックンロールの魂を流し込む。
この全員の力が合わさったとき、曲は単なるオマージュを超える。
それは、ロックンロールの再発明になる。
Led Zeppelin IVというアルバムの中で、この曲は非常に重要だ。
同作には、Led Zeppelinのあらゆる側面が入っている。
ヘヴィなリフ。
フォークの影。
神秘的な叙事詩。
ブルースの重み。
そして、ロックンロールの原点。
Rock and Rollは、その原点の役割を担っている。
アルバムがどれほど壮大になっても、Led Zeppelinの足元にはロックンロールがある。
そのことを、この曲が証明している。
また、この曲はライブでも重要な位置を占めた。
1971年以降、Led Zeppelinのライブで頻繁に演奏され、1972年にはコンサートのオープニング曲として使われるようになった時期もある。後年にはアンコールとしても演奏された。ウィキペディア
それも納得できる。
Rock and Rollは、ライブの始まりにも終わりにも合う。
始まりに鳴れば、観客を一気に起こす。
終わりに鳴れば、ロックンロールの原点へ戻って祭りを締める。
曲そのものが、スイッチのような役割を持っている。
この曲を聴くと、ロックンロールという言葉が持つ単純な強さを思い出す。
ロック。
ロール。
揺れる。
転がる。
身体が動く。
声が出る。
夜が始まる。
それは文化史でもあり、ジャンル名でもあり、態度でもある。
Led Zeppelinはこの曲で、その言葉を自分たちのものにした。
もちろん、彼らはロックンロールを発明したわけではない。
Little RichardもChuck BerryもElvis Presleyも、すでに道を作っていた。
Led Zeppelinはその道を知っていた。
しかし、彼らはその道を1971年の巨大な音で走り抜けた。
Rock and Rollは、過去への敬礼である。
同時に、過去をそのまま博物館に飾らないための曲でもある。
古いロックンロールを、今この瞬間にもう一度爆発させる。
それがこの曲の使命だ。
だから、歌詞はシンプルでいい。
長いあいだロックンロールしていなかった。
長いあいだ踊っていなかった。
戻らせてくれ。
この言葉は、音楽から離れていた人にも響く。
自分の衝動を忘れていた人にも響く。
身体を動かすことを忘れていた人にも響く。
Rock and Rollは、そうした人を一気に引き戻す。
曲が始まれば、考える時間はほとんどない。
Bonhamのドラムが扉を蹴破り、Pageのリフが走り、Plantが叫ぶ。
その時点で、もう戻っている。
ロックンロールの中に。
この曲の魅力は、今もまったく色あせない。
音は古い。
録音時代も古い。
1971年のハードロックである。
それでも、再生した瞬間のエネルギーは古びない。
なぜなら、この曲が扱っているのは流行ではなく、身体の反応だからだ。
リズムが鳴れば動く。
リフが鳴れば顔が上がる。
声が叫べば、心の奥のどこかが反応する。
Rock and Rollは、その反応を信じ切った曲である。
Led Zeppelinは、複雑で巨大なバンドだった。
だが、この曲ではとても単純だ。
ロックンロールをやる。
ただそれだけ。
そして、そのただそれだけを、これほど圧倒的に鳴らせるバンドはそう多くない。
Rock and Rollは、Led Zeppelinがロックの原点を巨大な火の玉にして投げ返した曲である。
その火は、1971年から今まで、ずっと燃え続けている。

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