
1. 歌詞の概要
「Truffles(トリュフズ)」は、Wheatus(ウィータス)のセルフタイトル・デビューアルバム『Wheatus』(2000年)に収録された楽曲で、10代特有の怒りと嫉妬、そして理不尽な現実に対する静かな復讐心をコミカルに描いたパンク・ポップナンバーである。
歌詞のテーマは明快で、語り手が“自分の好きなもの(=チョコレートトリュフ)を勝手に盗み食いした兄弟”への怒りを爆発させるというストーリーだ。しかし、その怒りの矛先は単なるお菓子の問題ではなく、長年積み重ねられてきた家族間の力関係、優遇と不満、愛され格差にまで及んでいく。
この曲は、冗談のようなシチュエーションから始まりながら、やがて“ティーンの心の闇”を鋭く照らす歌へと変貌していくという構成を持っており、Wheatusの得意とする“くだらなさと痛みの同居”が存分に発揮された一曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
Wheatusのブレンダン・ブラウンは、日常的なテーマを誇張しながら、10代の孤独や劣等感、怒りといった感情をリアルに描き出すことに長けたソングライターである。
この「Truffles」も、実際に兄弟げんかをしたことからインスピレーションを得ているとされ、その小さな火種がどれほど大きな炎に感じられるかという10代の心理構造がとてもよく表現されている。
曲はコミカルな語り口と明るいテンポで進行するが、歌詞の中に滲むのは“理不尽に抑えられてきた自分”への怒り。
その怒りを正面から爆発させるのではなく、**冗談や歌に変えて“昇華”するという、Wheatus特有の“やりすごし方”**がこの曲にも貫かれている。

3. 歌詞の抜粋と和訳
“My brother made me mad today / He stole my truffles and it made me cry”
「今日は兄貴にムカついたんだ / 僕のトリュフを盗んで、泣きたくなったよ」
“I told my mom but she don’t care / She says ‘You’re lucky just to have a brother there’”
「ママに言ったけど、気にしてなかった / “兄弟がいるだけありがたいでしょ”だってさ」
“He gets the bigger piece of pie / Always gets the pretty girl”
「あいつはいつもパイの大きいほうをもらう / かわいい子も全部あいつのもの」
“So I got a plan to get him back / Gonna shave off all his hair”
「だから俺には復讐の計画があるんだ / あいつの髪を全部剃ってやるよ」
このように、一見すると“子どもっぽいケンカ”のようでいて、そこには深い格差や感情の蓄積があることがわかる。
歌詞全文はこちら:
Wheatus – Truffles Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Truffles」は、“お菓子を盗まれた”という小さな事件をきっかけに、家庭内での不平等や“俺だって愛されたかった”という感情が噴き出していく曲である。
重要なのは、語り手の怒りが単に“物を取られた”ことにあるのではなく、自分がいつも“後回しにされてきた存在”だという認識から来ている点である。
「いつも兄がいい方をもらう」「母親は兄をかばう」――これらの小さな不満が蓄積し、トリュフという象徴を通じてついに限界を迎える。
また、語り手の“仕返しの方法”も注目に値する。暴力的にならず、あくまでコミカルで少し子どもっぽい、しかし確実に相手のプライドを傷つける方法(髪を剃る)を選ぶことで、彼自身がどれだけ屈折したやり方で感情を処理しているかが見えてくる。
このように、「Truffles」は、ティーンの“正面から怒れない”不器用さと、“やられっぱなしでは終わらない”静かな反抗心を描いた、極めて共感力の高い楽曲なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- My Name Is Jonas by Weezer
家族や兄弟との関係性、若き日の違和感をロックで描いた初期Weezerの代表曲。 - Geek Stink Breath by Green Day
怒りと自己破壊的衝動を同時に抱える10代のリアルを描いたパンキッシュな一曲。 - Basket Case by Green Day
“頭がおかしいのかも”と思ってしまう若者の不安を、疾走感のあるビートで笑い飛ばす。 - Buddy Holly by Weezer
オタク的キャラクターへの劣等感と、それを誇りに変えていく視点が秀逸なロックナンバー。 - Stacy’s Mom by Fountains of Wayne
思春期特有の妄想と現実のギャップを、キャッチーなポップロックで描いた青春讃歌。
6. “甘いものを奪われた怒りの中に、僕のすべてが詰まってた”
「Truffles」は、10代の怒りや不満、愛されなかったという思いを、笑いと皮肉でくるんで届ける小さな叙事詩である。
お菓子を盗まれたくらいで怒ってるなんて――と思うかもしれない。でも、そのトリュフは**「平等」「愛情」「正当な扱い」の象徴だったのだ。
そしてそれを横から奪われ、しかも大人たちに理解されなかったとき、人はどうするか?
歌うのだ。ふざけた歌を作りながら、その中に本当の怒りと、悲しみと、復讐心を込めて**。
Wheatusはそうやって、世界のすみっこで叫びきれなかった僕らの気持ちに、ポップでロックな形を与えてくれた。
「Truffles」は、誰にも言えなかった怒りの形見。
それは今も、甘くてちょっと苦い記憶とともに、僕たちの心の中で転がっている。
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