発売日: 2011年2月14日
ジャンル: アート・ロック / フォークロック / ポリティカル・フォーク
PJ Harveyの8thアルバムLet England Shakeは、イギリスの歴史や戦争、愛国心といった重厚なテーマを取り扱った、彼女のキャリアにおける最も政治的な作品の一つである。このアルバムでは、彼女がギターだけでなくオートハープなどの楽器を使用し、フォークやゴシック的要素を取り入れた独特のサウンドスケープを作り上げている。
Producerには、長年のコラボレーターであるFloodやJohn Parishが参加し、ドキュメンタリー的な視点を持つ歌詞とミニマルながらも洗練されたアレンジが特徴だ。このアルバムは、PJ Harveyがイギリスという国とその歴史を批評的かつ詩的に描き出す試みであり、2011年のマーキュリー賞を受賞したことで、その芸術的意義が高く評価された。以下に、アルバム全12曲を解説する。
1. Let England Shake
アルバムのタイトル曲で、軽快なオートハープとリズミカルなメロディが印象的。一見明るいトーンながら、歌詞ではイギリスの戦争や国家の揺らぎを暗示しており、アルバム全体のテーマを提示している。
2. The Last Living Rose
短くも詩的な楽曲で、イギリスの田園風景とそれに絡む歴史を描写。PJ Harveyのボーカルは叙情的で、シンプルなギターとトランペットのアレンジが郷愁を誘う。
3. The Glorious Land
軍事的なテーマを扱った楽曲で、ミリタリードラムとホーンの音が特徴的。歌詞には「土地が生み出すものは何か?」という問いが投げかけられ、戦争の虚しさを表現している。
4. The Words That Maketh Murder
戦争の暴力やその結果を描写した楽曲。軽快なメロディの中に皮肉が込められており、リフレインの「What if I take my problems to the United Nations?」が耳に残る。オートハープとドラムのリズムが楽曲を際立たせている。
5. All and Everyone
第一次世界大戦のガリポリの戦いを題材にした楽曲。静かで悲しげなトーンが特徴で、死と破壊の景色が描かれる。PJ Harveyのボーカルは控えめながらも感情的で、楽曲全体に深い余韻を残す。
6. On Battleship Hill
高音で歌い上げるボーカルが特徴的な一曲。戦争の悲劇と自然の美しさが対比され、切ないメロディが聴き手の心を掴む。
7. England
異国の音楽的要素を取り入れた楽曲で、歌詞には移民やアイデンティティのテーマが込められている。PJ Harveyのボーカルが時に震えるような感情を伝え、楽曲の雰囲気を高めている。
8. In the Dark Places
戦争の死と犠牲をテーマにした楽曲。ギターとドラムのミニマルなアレンジが静けさと悲しみを強調し、PJ Harveyの叙情的な歌詞が深い印象を与える。
9. Bitter Branches
鋭いギターとリズムが特徴的で、兵士たちの苦悩や帰還を描いた楽曲。短いながらも緊張感に満ちた構成が印象的だ。
10. Hanging in the Wire
戦場での孤独や不安をテーマにした楽曲。控えめなギターとシンプルなアレンジが歌詞を引き立て、PJ Harveyの声が哀愁を帯びている。
11. Written on the Forehead
中東的なサンプルとリズムが特徴の楽曲で、戦争の混沌と犠牲がテーマ。繰り返される「Let it burn」のフレーズが印象的で、楽曲に切迫感を与えている。
12. The Colour of the Earth
アルバムを締めくくるシンプルなフォークソング。ジョン・パリッシュがボーカルで参加し、仲間を失った兵士の視点が描かれる。希望と悲しみが入り混じったトーンがアルバム全体を見事にまとめている。
アルバム総評
Let England Shakeは、PJ Harveyがイギリスの歴史や戦争の影響を詩的かつ鋭く描いた傑作であり、彼女のディスコグラフィーの中でも特に社会的な意義が高い作品だ。ミニマルながらも感情豊かなアレンジと、歴史的テーマを扱った歌詞が融合し、芸術性と物語性を兼ね備えたアルバムとなっている。このアルバムは、単なる音楽作品にとどまらず、リスナーに過去と現在、そして未来について深く考えさせるきっかけを与える。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
White Chalk by PJ Harvey
より内省的でミニマルなサウンドを持つアルバム。ピアノ主体の構成が印象的。
Is This Desire? by PJ Harvey
暗く感情的なテーマとアンビエントなサウンドが、Let England Shakeの雰囲気と共通する。
The Seer by Swans
壮大でドラマチックなアルバム。歴史的、哲学的なテーマを探求している点が似ている。
Stories from the City, Stories from the Sea by PJ Harvey
よりメロディアスで都会的なテーマを持つアルバム。Let England Shakeとは対照的な雰囲気が楽しめる。
The Hazards of Love by The Decemberists
物語性が強く、歴史的なテーマを扱ったフォークロックアルバム。詩的な歌詞が印象的。
コメント