発売日: 2018年6月15日
ジャンル: パワー・ポップ、オルタナティヴ・ロック、ジャングリー・ポップ
概要
『Mixed Reality』は、Gin Blossomsが2018年にリリースした6作目のスタジオ・アルバムであり、
再結成以降の流れを受け継ぎながらも、彼らの“現役感”と“自己刷新”が明確に表れた一作である。
タイトルの“Mixed Reality(混合現実)”は、物理と仮想が重なるテクノロジー用語から引用されたものだが、
ここではむしろ、懐かしさと現代性、希望と不安、現実と夢の狭間を生きる人々へのメタファーとして機能している。
プロデュースは元Mellencampバンドのドラム奏者であり、The Smithereensとも関係が深いDon Dixonが担当。
その影響もあり、本作はよりライブ感のある仕上がりとなっており、バンドの原点回帰的な魅力と、
円熟したソングライティングの両立が実現している。
「Hey Jealousy」から25年経った今も、Gin Blossomsはまだ胸がきゅっとなるようなギター・ポップを届けられる。
それを静かに、でも確かな手触りで証明したアルバムである。
全曲レビュー
1. Break
タイトル通り、何かが“壊れる”瞬間の感情を描いたロック・チューン。
鋭さと温かさを併せ持つギターリフが、アルバムの幕開けにふさわしい推進力を持っている。
2. Face the Dark
“暗闇と向き合え”という直球なタイトルにして、抑制の効いた美しいバラード。
苦悩の描写が淡々としているぶん、静かな強さが胸を打つ。
3. Angels Fly
希望と再出発をテーマにした軽やかなナンバー。
「天使はまだ飛んでいるよ」と歌うサビが、未来を信じるための優しい装置になっている。
4. Here Again
“またここに戻ってきた”というフレーズが、再結成後のバンドの心境とも重なる。
どこか疲れた口調の中に、誇りと決意が感じられるのが印象的。
5. Still Some Room in Heaven
“天国にはまだ空きがある”という詩的なフレーズを使ったバラード。
喪失や死を連想させつつも、救済と赦しへの憧れが込められている。
6. Miranda Chicago
架空(または実在)の女性と都市を重ねた物語的楽曲。
“場所”と“人”が記憶の中で結びつく、その感覚がノスタルジックに響く。
7. Girl on the Side
浮気や関係のねじれをユーモラスに描いたアップテンポなロック。
皮肉と憐れみが同時に滲む、“大人の恋愛観”がにじむ佳曲。
8. Fortunate Street
リフが心地よい、アルバム中でも特にポップな仕上がりの一曲。
どこか浮遊感のあるサウンドと、一瞬の幸福の記憶が結びついている。
9. Wonder
タイトル通り、“不思議”や“驚き”の感情を正面から扱う優しい曲。
特にサビのメロディは、バンドの代表曲たちを思わせる甘さを持つ。
10. Shadow
過去の影、失ったものの残像に囚われる感覚を歌ったダークなトラック。
ギターのディレイが幽霊のように漂い、心の深部を覗くような構成が印象的。
11. Forever Is This Night
“この夜こそ永遠”という情熱的なフレーズと、穏やかな演奏との対比が美しい。
恋愛の瞬間がすべてを包み込むような、夢と現実の境界線上にあるラブソング。
12. The JFK Shit Show
突如登場する語りとサウンドコラージュ的トラック。
アメリカ社会や政治を皮肉る実験的な挿入曲で、アルバムの中のノイズ的異物として作用する。
13. The Devil’s Daughter
ややブルージーなコード進行に乗せた物語風のロック。
誘惑と罪の物語が古典的な構成で語られ、語りの技術が成熟していることがうかがえる。
14. Mega Pawn King
アルバムのラストにして最長の楽曲。
質屋(Pawn Shop)をメタファーに、交換される価値・売り払われる感情を巡るストーリーが展開。
アウトロではサウンドが開け、バンドの“その先”を示すような余韻が残る。
総評
『Mixed Reality』は、Gin Blossomsが2010年代後半に辿り着いた円熟の到達点である。
過去の栄光にすがることも、無理に変化を追うこともなく、
彼らはただ、“自分たちが最も得意とするメロディ”を現代に響かせることに徹した。
それは決して保守的ではなく、むしろ一周回って清々しい。
“Hey Jealousy”の時代から続く切なさと甘さのバランス、
心を締めつけるようなギターリフ、
ロビン・ウィルソンのハイトーンボーカルは、ここでも健在である。
彼らは言う。「混ざり合った現実のなかで、僕らはまだ歌える」と。
それは、すべての“未完成な大人”への静かなエールなのかもしれない。
おすすめアルバム
- The Smithereens『A Date with The Smithereens』
同系統のギター・ポップサウンドと円熟したロックの魅力が共通する。 - The Posies『Solid States』
再結成後もポップセンスを貫く姿勢において好対照をなす作品。 - Teenage Fanclub『Here』
メロディへの信仰と、変わらない日常の美しさを歌う熟練の作品。 - Matthew Sweet『Tomorrow Forever』
切なさと愛情がにじむポップ・ロックの真髄。 - The Connells『Steadman’s Wake』
長い沈黙を破ってリリースされた、誠実な復活作。落ち着いたエモーションが響き合う。
ファンや評論家の反応
『Mixed Reality』は、コアなファンの間で**“再結成後最高作”**との呼び声も高く、
「90年代からそのまま続く、誠実なパワー・ポップの生存証明」として静かに称賛された。
批評家も「驚きはないが、確かな喜びがある」「メロディの職人としての姿勢が貫かれている」と高評価。
ライブでも多くの新曲がセットリストに加えられ、
“懐メロバンド”にとどまらない**“現役感あるGin Blossoms”の復活**を印象づけた。
2020年代に入ってもなお、彼らは甘さと哀しさの真ん中でギターを鳴らし続けている。
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