発売日: 2002年3月5日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ハードロック、グランジ、ポスト・グランジ
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Hands on the Bible
- 2. Hit the Skids or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Rock(再収録)
- 3. Son of “Cha!”
- 4. (Baby Wants to) Tame Me
- 5. Rock & Roll Professionals
- 6. Keep Your Girlfriend
- 7. Creature Comforted
- 8. Bryn-Mawr Stomp
- 9. What Would You Have Me Do?
- 10. 5th Ave. Crazy
- Hidden Track: Rock & Roll Professionals (Reprise)
- 総評
- おすすめアルバム
- ファンや評論家の反応
概要
『Here Comes the Zoo』は、Local Hが2002年にリリースした4枚目のスタジオ・アルバムであり、
新たなドラマー、ブライアン・ストルト(元Triple Fast Action)を迎えて再スタートを切った“第二期Local H”の幕開けを告げる作品である。
前作『Pack Up the Cats』ではコンセプトアルバムとしての構成美を追求したのに対し、
本作では荒々しさと原始的な怒りに立ち返りつつ、より攻撃的でダークなトーンが前面に出ている。
レーベルもIsland Recordsを離れ、Palm Picturesへ移籍。
これはプロモーション的にはやや不利に働いたが、そのぶんインディペンデントな自由度とロックの剥き出しの衝動がこのアルバムには刻み込まれている。
タイトル『Here Comes the Zoo』=「動物園がやってくる」は、
世の中の狂騒、人間の滑稽さ、社会の崩壊を寓話的に表現しており、
“誰もが檻の中にいる”という現代性への痛烈な皮肉としても機能している。
全曲レビュー
1. Hands on the Bible
ゆったりとしたテンポで始まり、爆発的な展開を見せるオープニング曲。
「聖書に手を置いても、心までは誓えない」——という歌詞に象徴されるように、
信仰、倫理、自己矛盾を鋭く突く。この一曲でアルバムの空気が決まる。
2. Hit the Skids or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Rock(再収録)
前作『Pack Up the Cats』からの流用ながら、
本作では新録のように馴染み、Local H流の“音楽と妄想の交錯”を表現する大曲として機能している。
タイトルのキューブリック的ユーモアも健在。
3. Son of “Cha!”
「“Cha!” Said the Kitty」の続編ともいうべきアグレッシブなギターロック。
高速リフと絶叫に満ちたサウンドは、原点回帰と進化を両立させるLocal Hの真骨頂。
4. (Baby Wants to) Tame Me
フェティッシュと欲望をテーマにしたセクシャルな歌詞と、
官能的なリズムセクションが印象的。
「赤ちゃんは僕を飼いならしたがってる」という表現に、支配と快楽の曖昧な境界が表現されている。
5. Rock & Roll Professionals
メジャー音楽業界への皮肉を込めた中毒性の高いトラック。
「俺たちはロックンロールの“プロ”だよ」と皮肉りながら、商業主義と夢の矛盾を撃ち抜く。
6. Keep Your Girlfriend
嫉妬と執着、そして過去への未練を激しい演奏にぶつけたような一曲。
攻撃的な歌詞とパンキッシュなスピード感が、10代のような感情の奔流を思わせる。
7. Creature Comforted
本作の中でも最もスローで重苦しいトラック。
「慰められた動物たち」というタイトルの通り、現代人の無力さと無気力な依存を描く。
不穏なベースラインと鈍重なリズムが心を締めつける。
8. Bryn-Mawr Stomp
イリノイ州ブリンマーを舞台にしたような、ローカルでストンプ感あるファンク・ハードロック。
重く乾いたギターが、地方都市の鬱屈とリズムの解放感を併せ持つ。
9. What Would You Have Me Do?
終盤に位置する本作の中で、最も自己省察的で内向的なバラード調ナンバー。
「僕にどうしてほしかった?」という問いかけが、自責と哀しみを同時に響かせる。
10. 5th Ave. Crazy
アルバムのクライマックスにふさわしい、混沌と激情の爆発。
5番街という都市的風景を舞台に、ローカルH流のアナーキーが炸裂。
都市生活の狂気を音で描くような一曲。
Hidden Track: Rock & Roll Professionals (Reprise)
本編終了後に再び現れる同曲のリプライズ。
リフのくり返しと壊れたボーカル処理が、音楽業界の滑稽さと麻薬的な依存性を再提示する。
アルバムを“ループする迷路”として完結させる。
総評
『Here Comes the Zoo』は、Local Hが“商業ロックに組み込まれないこと”を選んだ結果、
より荒々しく、正直で、破壊的な作品として結実した名盤である。
これは単なる2人組ハードロックではなく、
人間社会という「動物園」におけるあらゆる欺瞞、暴力性、そして奇妙な親密さを捉えた現代劇だ。
グランジの後継ではなく、グランジ以降のロックの地平を独自に掘り進んだ成果として、
このアルバムは2000年代初頭のオルタナティヴ・ロックの中でも特異な位置を占めている。
おすすめアルバム
- Queens of the Stone Age『Songs for the Deaf』
攻撃性と構成美、ポップさとサイケデリアを兼ね備えた現代ハードロックの金字塔。 - Helmet『Aftertaste』
ストイックでミニマルなヘヴィロック。Local Hの硬質さと相性が良い。 - And You Will Know Us by the Trail of Dead『Source Tags & Codes』
破壊と再構築、アートと暴力のせめぎ合い。Local Hと同様の緊張感。 -
Cave In『Jupiter』
ヘヴィネスと空間性を融合させた音像。『Zoo』の内省的側面と共鳴する。 -
Melvins『The Maggot』
ゆがみと反復が生む暴力的陶酔感。Local Hのドローン的要素との親和性高。
ファンや評論家の反応
本作は大きなプロモーションに恵まれなかったが、
ファンの間では“最も生々しく、リアルなLocal H”として非常に高く評価されている。
特に「Hands on the Bible」「Rock & Roll Professionals」などはライブの定番曲として定着し、
アルバム全体のトーンも“ロックにおける道徳と破滅のリアリズム”を体現しているとして後年再評価が進んだ。
『Here Comes the Zoo』は、Local Hが生きることと鳴らすことを区別しなかった証拠であり、
その叫びは、今も檻の向こうで反響している。
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