発売日: 2002年10月21日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、メロディック・ロック、ポスト・グランジ
概要
『Comfort in Sound』は、Feederが2002年に発表した4作目のスタジオ・アルバムであり、バンドにとって決定的な転機となる作品である。
本作は、バンドのオリジナル・ドラマー、ジョン・リーが2002年1月に自死したという悲劇の直後に制作され、彼の喪失と向き合いながら完成された。
『Echo Park』で商業的成功を収めた彼らが、次に放ったこの作品は、単なる追悼のアルバムではない。
哀しみを内包しながらも、それを乗り越える希望の光を探すような、深い情緒と音楽的成熟をたたえた一枚である。
タイトル『Comfort in Sound(音に慰めを)』は、まさにこのアルバムの核心をついている。
音楽そのものが心の癒しとなり、悲しみを共有し、昇華していく——そんなプロセスをリスナーに示すことで、Feederは「ただのUKロックバンド」から、「心に寄り添う存在」へと進化を遂げたのである。
全曲レビュー
1. Just the Way I’m Feeling
ピアノとアコースティックギターで始まる、静謐かつ美しいナンバー。
哀しみと希望が共存するような歌詞は、ジョン・リーへの想いと共に、自分自身を受け入れる過程を描いている。
2. Come Back Around
アルバム冒頭の情感に続き、力強いギターリフで再び現実へと引き戻す。
「戻ってきてくれ」と繰り返すコーラスは、喪失した仲間への直接的なメッセージとも受け取れる。
3. Helium
柔らかな質感のミディアム・チューン。
“ヘリウム”という浮遊性のある物質をタイトルに据えることで、現実からの離脱や、精神的な軽さへの希求を感じさせる。
4. Child in You
内面の傷やトラウマに触れるような、繊細な楽曲。
「君の中の子ども」は、壊れやすさや純粋さの象徴として機能し、リスナーに深く刺さるテーマを内包している。
5. Comfort in Sound
タイトル曲にして、アルバムの精神的中心。
失われたものに対して、言葉ではなく“音”で語るという姿勢が貫かれており、静かな語り口がかえって雄弁である。
6. Forget About Tomorrow
希望を象徴するようなメロディが印象的なナンバー。
「明日のことなんて忘れよう」という言葉には、過去の痛みと未来への不安の両方を包み込む、今この瞬間への集中がある。
7. Summer’s Gone
短い夏の終わりをモチーフに、人生の一瞬の煌めきと儚さを表現。
ギターのリフレインが、終わらぬ余韻のように心に残る。
8. Godzilla
異色のタイトルだが、内包する怒りや混乱を比喩的に表現した一曲。
混沌とした感情をそのまま音にしたようなサウンドが新鮮である。
9. Quick Fade
記憶や感情が“すっと消えていく”ような感覚を、そのままサウンドに転写したかのような曲。
短くとも深い印象を残す。
10. Love Pollution
愛にまつわる毒や矛盾を描いた楽曲。
シンプルなコード進行の中に、緊張感と歪みが内包されている。
11. Moonshine
夜の静けさと、感情の渦巻きを同時に表現する美しいバラード。
“月の光”という象徴が、慰めと孤独の両方を暗示する。
12. Become Like You
過去の自分や他者との同一化について問いかけるリリック。
「君のようになっていく」という言葉が、喪失や憧れ、後悔といった複雑な感情を呼び起こす。
13. Oxygen(ボーナストラック)
前作からの再収録。
アルバムのコンセプトともリンクし、“生きるための空気=音楽”というメタファーが強く響く。
総評
『Comfort in Sound』は、喪失と再生、苦悩と癒しのあいだで揺れ動く感情の記録であり、Feederというバンドの人間的な核心を映し出した作品である。
グラント・ニコラスのソングライティングは、これまで以上に詩的かつ誠実で、音の一つひとつに祈りや想いが込められている。
前作『Echo Park』のポップな側面を部分的に引き継ぎつつも、本作ではその明るさが内面の闇を照らす光として機能している点が決定的に異なる。
また、ドラマー不在という状況の中、サポートとしてマーク・リチャードソン(元Skunk Anansie)が加わったことも音に新たな厚みをもたらしている。
制作背景が悲劇的であるがゆえに、アルバム全体には“癒しのための音楽”としての誠実さが流れており、商業的成功以上に、リスナーの心に深く刻まれる作品となった。
この作品を聴くという行為そのものが、ひとつの“追悼”であり、同時に“前へ進むこと”の選択なのだ。
おすすめアルバム
- Coldplay『A Rush of Blood to the Head』
感情の陰影を音にした傑作。Feeder同様、喪失や希望がテーマに。 - Snow Patrol『Final Straw』
繊細なメロディと静かな激情が共通する。 - Travis『12 Memories』
内省的でヒューマンなUKロック作品。テーマ性が本作と近い。 - Keane『Hopes and Fears』
ピアノ主体で描かれるエモーショナルな風景。『Just the Way I’m Feeling』と響き合う。 - Athlete『Vehicles & Animals』
日常の詩情を巧みに描いた同時代UKバンドの秀作。
ファンや評論家の反応
リリース当時、『Comfort in Sound』はファンから圧倒的な支持を受けた。
特に「Just the Way I’m Feeling」はシングルとしても大きな成功を収め、アルバムはUKチャートでトップ10入り。悲しみを包み隠さず表現したことが、多くのリスナーに“本当に必要な言葉”として届いたのである。
批評家の間でも、“Feederの成熟”を評価する声が多数上がり、「哀しみの中の希望」「ロックバンドの再定義」といったキーワードが多く使われた。
このアルバムは、その誠実な感情表現と、聴く者への深い共感をもって、時代を超えて語り継がれていくべき作品である。
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