発売日: 1991年12月17日
ジャンル: ポップパンク、パンクロック、メロディックハードコア
概要
『Kerplunk』は、Green DayがLookout! Recordsからリリースした2作目のスタジオ・アルバムであり、メジャーデビュー前夜の“最後のインディー・グリーン・デイ”を記録した、原点的かつ過渡的な作品である。
前作『39/Smooth』から1年半でリリースされた本作は、ドラムにトレ・クールが正式加入した最初のアルバムでもあり、
バンドとしての三位一体感が明確に形成されはじめた“実質的な第一章完結”のアルバムといえる。
内容は、引き続き若者の恋愛、退屈、怒り、居場所探しが中心だが、
メロディや構成は格段に洗練され、のちの『Dookie』に直結するポップセンスとパンキッシュなテンションが結晶化しつつある。
と同時に、社会や家族への漠然とした怒り、不適応への違和感も垣間見え、“ただ明るいだけではない青春”が描かれはじめるのも本作の特徴。
インディー作品としては異例の10万枚以上を売り上げ、
この成功が後のReprise Recordsとの契約、そして世界的なブレイクへとつながっていく。
**“インディーパンクの奇跡的な到達点”**とも呼ばれる、Green Day初期の名盤である。
全曲レビュー
1. 2000 Light Years Away
ビリー・ジョーが当時の恋人に宛てたラブソング。
遠距離恋愛の切なさを、疾走感のあるギターとともに綴った、ポップパンクの王道的幕開け。
初期Green Dayらしい、等身大の愛と距離感。
2. One for the Razorbacks
“ピンクのヒールを履いた彼女”を巡るポップな語り口。
The Beatles的なコード進行とカリフォルニアパンクの融合が心地よい。
3. Welcome to Paradise
のちに『Dookie』で再録される重要曲。
家庭を離れて初めて直面する都市の現実を、「楽園へようこそ」という皮肉な言葉で描写。
“グリーン・デイの視点”が社会へと広がった最初の瞬間。
4. Christie Road
地元の鉄道沿線“クリスティ・ロード”で一人過ごす日々を描いた曲。
メロディとコード進行がメランコリックで、退屈と自由が同居する郊外の空気がしっかり刻まれている。
5. Private Ale
恋愛への期待と軽やかな幻滅を、ファジーなギターと共に描く。
“プライベート・エール”という比喩が、飲み込めない感情の象徴として機能する。
6. Dominated Love Slave
トレ・クールがリードボーカルを担当する異色のカントリーパロディ。
マゾヒズム的恋愛をユーモアたっぷりに描いた曲で、アルバムの息抜きであり、メンバーの多面性を示す。
7. One of My Lies
信じていたものが嘘に変わるという主題を、シンプルなコード進行と毒のあるリリックで描く。
思春期的な不信感が、怒りではなく戸惑いとして響く。
8. 80
“80”という名前の女性(ビリー・ジョーの妻アドリーヌの愛称)へのラブソング。
ユーモアと不器用な誠実さに満ちた1分台のパンクナンバー。
9. Android
“未来のロボットのような自分”を描いた内省的楽曲。
生き方への諦念と皮肉が入り混じり、“どこにもなじめない主人公像”が完成しつつある。
10. No One Knows
シンプルで飾らない、“理解されないまま生きること”の肯定。
曲調は明るく、歌詞は切ないという、Green Day的二面性がよく表れた楽曲。
11. Who Wrote Holden Caulfield?
サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を題材にした、思春期のアイデンティティ喪失と反抗の応答歌。
「なんでこんなにすぐ飽きるんだ?」という問いが突き刺さる。
12. Words I Might Have Ate
後悔と不器用な謝罪をつぶやくように歌ったバラード。
短い曲だが、Green Dayの“感情のままに語る”という核が表出している。
総評
『Kerplunk』は、インディーシーンの枠を超えて“世界で通用するパンクの言葉”を初めて話したGreen Dayの記録である。
ギターはジャキジャキ、歌詞は青くて拙い。
だがそのすべてが、“これが今の俺たちの全部だ”という開き直りと真っ直ぐさに裏打ちされている。
このアルバムでGreen Dayは、“パンク”という文化が持っていた怒りや反骨を、より日常的な感情、恋や不安、無力さといったものと結びつけることに成功した。
それは時代が変わっても色褪せない、“青さの保存装置”としてのパンクの新しい形だった。
『Kerplunk』なくして『Dookie』は生まれなかった。
この作品こそが、Green Dayの爆発を可能にした“心の小爆発”の集積なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Jawbreaker / 24 Hour Revenge Therapy
内省と感情をぶつけるメロディック・パンクの名盤。『Kerplunk』と感情の位相が似ている。 - The Queers / Love Songs for the Retarded
ユーモアと甘さが共存するポップパンクの定番。 - Nirvana / Bleach
同時期の若者たちが、別の方法で“怒りと虚無”を表現していたグランジの原点。 - Screeching Weasel / My Brain Hurts
初期Green Dayと同じく、ローカルなパンクとポップセンスの掛け算が魅力。 - Weezer / Blue Album
ラウドなギターと童貞的センチメント。Green Dayの“陰”に対する“陽”の好対照。
制作の裏側
『Kerplunk』の録音は、カリフォルニアのArt of Ears Studioにて行われた。
この時点でドラマーのトレ・クールが正式加入し、ビートの安定感と表現力が格段に向上。
その結果、メロディックかつ疾走感ある“Green Dayサウンド”が完成した。
アルバムの最後には、初期EP『Sweet Children』からの4曲もボーナストラックとして収録され、
バンドの“地下時代の総まとめ”という意味合いも強い。
この作品がLookout! Recordsの最終的な商業的ピークとなり、
Green DayはこのあとReprise Recordsと契約、1994年の『Dookie』でメジャーの扉をこじ開けることになる。
『Kerplunk』は、その決定的な前夜祭だった。
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