発売日: 2005年
ジャンル: アダルト・コンテンポラリー、フォーク・ロック、ポップ
概要
『Revolution of the Heart』は、名シンガーソングライターAlbert Hammondが2005年にリリースしたソロ・アルバムであり、長い沈黙を破って放たれた“心の革命”の記録である。
1970年代のヒット曲「It Never Rains in Southern California」や、ソングライターとしての輝かしいキャリアを持つHammondにとって、本作は“時代に迎合する”のではなく、“変わらぬ自分自身を問い直す”ような静かな再出発のアルバムと位置づけられている。
全編を通して、彼は愛、自由、信仰、社会への疑問といったテーマを飾らず、正面から歌い上げる。
サウンド面ではアコースティック・ギターを中心に据えたシンプルで温もりのあるアレンジが多く、円熟したソングライターとしての魅力が丁寧に表現された作品となっている。
全曲レビュー
1. Revolution of the Heart
タイトル曲にして、アルバムの核となる重要な一曲。
「世界を変えるのは、まず心の中の革命からだ」というメッセージが、明快なメロディに乗せて歌われる。
平和と共感を促すこの楽曲は、Hammondの“人生の哲学”を凝縮したような存在。
2. One Moment in Time
日常の中のかけがえのない一瞬を慈しむミディアム・バラード。
穏やかなピアノとギターのアンサンブルが印象的で、リスナーに深い呼吸を促すような構成となっている。
3. This Side of Midnight
都市の孤独と夜の静寂を描いた大人のためのポップ・ナンバー。
まるで映画のワンシーンのように、Hammondの語る声が都会の闇に溶けていく。
4. These Are the Roots
人生の基盤や家族、信念をテーマにしたフォーク調の楽曲。
素朴なメロディとシンプルなコード進行が、あたたかな郷愁を誘う。
5. All That You Need Is Love
一見ビートルズの名曲を思わせるタイトルだが、内容はもっと祈りに近い。
「この混乱した世界に本当に必要なのは、名声や力ではなく愛だ」と繰り返すその声には、重ねた年齢からくる説得力がある。
6. The Snows of New York
しんしんと降る雪とともに蘇る記憶を描いたバラード。
冬景色のなかで語られる過去と現在の交差が美しい、詩的な構成の一曲。
7. 99 Miles from L.A.(再録音)
1975年のヒット曲を再び録音。
当時よりもテンポを落とし、熟成された歌声でしみじみと語られる再解釈が、まるで人生の答え合わせのように響く。
8. Everything I Want to Do
夢や欲望、衝動をすべて詩に変えるような、内省的なミディアム・ポップ。
自分自身の“してこなかったこと”への再確認とも取れる。
9. Dime Queen of Nevada
軽快なテンポと語り口調のヴォーカルが楽しい、ちょっとした小品。
人生の転がり方と運命の気まぐれさを、ウィットを交えて描いている。
10. Your Love is Forever
愛の永続性とその奇跡を歌うストレートなバラード。
“声で語ること”に徹したシンプルな構成が、かえって心に刺さる。
11. World of Love
ラストを飾るのは、まるで祈りのような静かなアンセム。
Hammondが願う「愛のある世界」は、具体的な政治や宗教ではなく、もっと根源的な優しさと結びついている。
総評
『Revolution of the Heart』は、華々しいヒットからは遠ざかった場所で、Albert Hammondという“音楽の語り手”が静かに語り始めたもうひとつの物語である。
派手なプロダクションもなく、流行に迎合することもなく、ただ「伝えるべきことを伝える」という誠実さが全編を貫いている。
彼はこの作品で、人生の終盤に差しかかっても、なおも「心の革命」を起こし得ると信じている。
それは、怒りや衝動ではなく、愛、共感、記憶、祈り――といった“静かな力”による変革である。
このアルバムは、疲れた夜にそっと寄り添ってくれるような作品だ。
それは時に父のように、友のように、あるいは過去の自分自身のように、そっと背中を押してくれる音楽なのである。
おすすめアルバム(5枚)
- 『Silver Moon』 / Michael Nesmith(1971)
フォークと叙情性が同居する作品。Hammondのソロ回帰と重なる。 - 『Late for the Sky』 / Jackson Browne(1974)
人生の喪失と再生を静かに描いた傑作。アルバム全体の精神性が共鳴。 - 『I’m Your Man』 / Leonard Cohen(1988)
熟練のソングライターが静かに世界を見つめる構造が酷似。 - 『Inside Job』 / Don Henley(2000)
ソロとしての成熟を描いた作品。Hammondと同世代の再出発。 - 『Time』 / Richard Carpenter(1987)
繊細なバラードと人生の物語性を重んじた、大人のポップス。
ビジュアルとアートワーク
アルバムのジャケットには、穏やかな微笑みとともにギターを抱えるAlbert Hammondの姿が写っている。
派手な装飾も演出もなく、まるで“今の彼そのもの”を映し出したような自然体のビジュアル。
タイトルの「Revolution of the Heart」とは裏腹に、その“革命”は静かで、柔らかく、しかし確実に心を揺さぶる。
音楽で人はどこまで変われるのか。
Albert Hammondは、その問いに**“変えるのではなく、気づかせる”**という答えをくれた。
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