
発売日:1981年6月15日 ジャンル:New Wave / Synth-Pop / Dance-Rock
概要
Duran Duranは、イギリスのDuran Duranが1981年に発表したデビュー・アルバムである。同名のアルバムが1993年にも存在するが、こちらは1981年の第1作を扱う。Simon Le Bon、Nick Rhodes、John Taylor、Roger Taylor、Andy Taylorという代表的な5人編成が揃った初のアルバムで、Colin Thurstonがプロデュースを担当した。バーミンガムのクラブ・シーンから登場した彼らは、パンク以後の鋭いギター、ディスコやファンクに根ざしたリズム、シンセサイザーを組み合わせ、ロック・バンドとダンス・ミュージックの境界を行き来するサウンドを作った。
後にDuran Duranは華やかなミュージック・ビデオと世界的なポップ・ヒットで知られるようになるが、この時点ではそのイメージより音が暗く、演奏にも硬さがある。John Taylorのベースは単に低音を支えるのではなく細かく動き、Roger Taylorのドラムと組んで曲を踊れるものにする。その上でAndy Taylorのギターが鋭いアクセントを加え、Nick Rhodesのシンセが人工的で冷たい空間を作るという分担がすでに明確だ。
歌詞にも後年の開放的なポップ・スター像とは少し違う感触があり、都市生活、孤立、不安、欲望、映画的なイメージが交差する。Simon Le Bonの歌は物語を細部まで説明するより、断片的な場面を強いメロディでつなぐタイプである。そのためデビュー作でありながら、単純な若さや青春を前面に出すのではなく、夜の都市を思わせる緊張と享楽性がアルバム全体を覆っている。
全曲レビュー
1. 「Girls on Film」
カメラのシャッターを思わせる導入から、John Taylorのよく動くベースとタイトなドラムが曲を引っ張る。ギターは大きなコードを鳴らし続けるのではなく、短く切った音でリズムを補強し、シンセも隙間を埋めるように入るため、ロックというよりファンクやディスコに近い身体性がある。歌詞は撮影される女性たちを題材に、華やかなイメージを作る産業と、その視線にさらされる人物との関係を危うい距離から描く。キャッチーなサビの裏側に冷たさを残す点が、初期Duran Duranらしい。
2. 「Planet Earth」
規則正しく刻むリズムと未来的なシンセサイザーによって、当時のニュー・ウェイヴらしい人工的な空間を作る。John Taylorのベースはここでも活発で、ドラムと一緒に曲を前へ押しながら、Andy Taylorのギターは硬い輪郭を加える役に回っている。歌詞には夜や地球を眺めるようなSF的イメージが並び、現実の都市生活から少し離れた場所へ聴き手を運ぶ。「New Romantic」という言葉が歌詞に登場することも含め、バンドが登場した時代の空気と密接に結びついた初期の代表曲である。
3. 「Anyone Out There」
誰かとの接触を求めるタイトル通り、孤立感を含んだ歌を、軽快なリズムと明るさのあるメロディで包んでいる。ベースは休まず細かく動き、ギターも短いフレーズで応答するため、演奏には常に前へ転がる感覚がある。それに対してLe Bonの歌には焦りが混ざり、周囲が活発に動くほど一人だけ取り残されているようにも聞こえる。ダンス可能な演奏と不安を含んだ歌詞を自然に共存させることで、初期のバンドが単純なシンセ・ポップではなかったことが分かる。
4. 「To the Shore」
前半3曲の即効性から離れ、暗いシンセと広い空間を使ってアルバムの速度を落とす。リズムは控えめで、Le Bonの声にも強く押し出すというより遠くから響くような処理が施され、海辺を連想させるタイトルと相まって冷たい景色が広がる。曲の魅力は大きなサビより、音の層がゆっくり重なることで作られる雰囲気にある。後の華やかなDuran Duranから遡って聴くと、初期にはポストパンクに近い陰影もかなり残っていたことを示す一曲である。
5. 「Careless Memories」
Andy Taylorの鋭いギターが前面へ出て、アルバムでも特にロック色の濃い演奏を聞かせる。ドラムも強く打ち込まれ、ベースとシンセを中心にした前半のダンス感覚とは違う切迫感が生まれている。歌詞では壊れた関係の記憶が扱われるが、穏やかに過去を振り返るのではなく、残された怒りや混乱を吐き出すような調子が強い。Le Bonの歌唱も終盤へ進むほど熱を帯び、スタイリッシュな外見だけでは説明できないバンドの荒々しさが表れている。
6. 「Night Boat」
低くうなるシンセサイザーと抑えたリズムが、夜の水上を進むような不穏な空間を作る。明確なポップ・フックをすぐに提示せず、反復する音とLe Bonの緊張した歌によって徐々に圧力を高めていく構成である。歌詞も誰かを待つような場面を描きながら状況を完全には説明せず、暗闇の中で何かが近づいてくる感覚を残す。シンセを明るい装飾ではなく恐怖や空間表現のために使っており、本作の中でもゴシックな側面が強く出た曲だ。
7. 「Sound of Thunder」
タイトルの大きさとは対照的に、曲の中心には細かく動くリズムと緊張感のある反復がある。ベースとドラムが一定の運動を続ける上でシンセとギターが交互に現れ、一つの音を巨大にするより複数のパーツを組み合わせて密度を上げていく。Le Bonの歌も安定したポップ・メロディだけに収まらず、ところどころで切迫した響きを見せる。クラブ向けのリズムとロック・バンドの演奏力を同じ場所へ置くという、この時期のDuran Duranの基本設計がよく分かる。
8. 「Friends of Mine」
反復するリズムの上に、シンセの冷たい音色とギターの鋭いアクセントが重なる。タイトルだけなら友情を祝う曲にも見えるが、歌詞には人物名や断片的な場面が現れ、親密さよりも疑念や危うさを感じさせる。サビでは「friends」という身近な言葉が強いフックになる一方、周囲の演奏には落ち着かない緊張が残るため、単純な合唱曲にはならない。ポップな言葉を少し不穏な文脈へ置くLe Bonの初期の作詞感覚と、リズム隊の強さが噛み合っている。
9. 「Tel Aviv」
標準盤の最後を飾るインストゥルメンタルで、ここまで前面にあったLe Bonのボーカルを外し、シンセサイザーとバンドの音色そのものを聞かせる。明確なヴァースとサビを持つヒット曲型ではなく、旋律の断片と空間的な響きを重ねながら進むため、エンディングというより映画の最後に流れる短い劇伴のように聞こえる。華やかな「Girls on Film」で始まったアルバムを静かで曖昧な風景へ着地させることで、本作がダンス・ポップだけではないことを最後にもう一度示している。
総評
デビュー時点のDuran Duranを特徴づけているのは、シンセサイザーを使ったポップ・バンドでありながら、演奏の中心に非常に強いリズム隊があることだ。John Taylorのベースはギターと同じくらい旋律的に動き、Roger Taylorのドラムはその動きを踊れるビートへ固定する。この土台があるからこそ、Nick Rhodesはシンセで広い空間を作ることができ、Andy Taylorも常にコードを鳴らさず必要な場所だけをギターで切り込める。5人の役割がかなり早い段階で整理されていたことが、本作を単なる時代物のニュー・ウェイヴにしない理由である。
同時に、後の大ヒット期と比べればアルバムにはかなり暗い部分が残っている。「Planet Earth」や「Girls on Film」にはすでに強力なポップ感覚がある一方、「To the Shore」や「Night Boat」では空白や反復を使い、ポストパンク的な不安を前へ出す。「Careless Memories」ではギター・ロックとしての攻撃性も見せるため、アルバム全体を一つの音色で統一するより、当時のバンドが持っていた複数の方向性を並べたデビュー作と考える方が分かりやすい。
歌詞とボーカルにも同じ二面性がある。Le Bonは印象的な単語や映像的な場面を使い、細かな物語を説明しなくても曲の世界を成立させる。その方法は後のDuran Duranにも続くが、本作では孤独や不安を感じさせる場面が多く、華やかなファッションや映像で知られるバンド像との落差が大きい。明るいメロディの背後に冷たいシンセを置くアレンジも、その曖昧さを強めている。
翌年のRioでは、このデビュー作にあった要素がさらに整理され、サビは大きく、演奏は滑らかになり、Duran Duran独自のポップ・サウンドが完成度を増していく。その意味で本作の魅力は、完成形を先取りしている部分と、まだ荒く暗い初期ニュー・ウェイヴの感触が同時に残っていることにある。ロック、ディスコ、ファンク、電子音楽を別々の要素として並べるのではなく、5人のバンド演奏として一体化できている点が、その後の成功を理解するうえでも重要なデビュー・アルバムである。
おすすめアルバム
Rio by Duran Duran
翌1982年の第2作。デビュー作のファンク的なベース、鋭いギター、シンセの組み合わせを保ちながら、メロディとアレンジをさらに洗練している。初期Duran Duranのスタイルが完成へ向かう過程を最も直接的に比較できる。
Roxy Music by Roxy Music
ロック・バンドの演奏へ電子音、ファッション、人工的な美意識を持ち込んだ1972年作。音楽的にはよりグラム・ロック寄りだが、ロックと未来的なスタイルを一体として提示する発想にはDuran Duranへ通じる部分がある。
Systems of Romance by Ultravox
ギター主体のポストパンクとシンセサイザーを結びつけた1978年作。冷たい電子音を使いながら生演奏の力を失わない点が、Duran Duranの暗い楽曲とよくつながり、ニュー・ウェイヴ初期の変化も確認できる。
Vienna by Ultravox
1980年のニュー・ロマンティックを代表する一枚で、シンセによる人工的な空間とロック・バンドの力強さを両立している。Duran Duranより重く劇的だが、電子音をポップ・ミュージックの中心へ置いた同時代の感覚を比較しやすい。
Penthouse and Pavement by Heaven 17
同じ1981年に登場し、シンセ・ポップへファンクのリズムを積極的に取り込んだ作品である。ギター・バンドとしての性格が強いDuran Duranとは方法が異なるが、電子音楽を身体的なダンス・ミュージックへ変えるという共通の課題への別解として楽しめる。

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