1. 歌詞の概要
「100% Endurance」は、Yard Actのデビュー・アルバム『The Overload』（2022年）のラストトラックであり、バンドの語り口的ポストパンク・スタイルの中でも特に内省的で、スピリチュアルな余韻を残す異色の楽曲である。皮肉や風刺を武器にしてきたYard Actが、ここでは静かに宇宙的視点から人間存在の“儚さ”と“それでも生きていくこと”の意味を見つめ直す。
タイトルの「100% Endurance（100％の持久力）」という言葉は、ただの“我慢”や“耐久”ではなく、“この意味のない世界を、それでも生き抜く力”を象徴している。世界の不条理を知っても、それを笑い飛ばしてきた語り手が、今ここで初めて「意味がないことの意味」を受け入れ、奇妙な安らぎにたどり着く——そんな穏やかで哲学的な転調が本曲では描かれる。
2. 歌詞のバックグラウンド
「100% Endurance」は、Yard Actが語りの中に仕込んできた社会批評の文脈を超え、存在論的な問いかけへと踏み込んだ作品である。James Smith（Vo）は、インタビューにおいてこの曲が「人生の無意味さを前向きに受け止める曲」だと語っており、従来の冷笑的スタンスから一歩踏み込んで、あえて“意味を求めないことで救われる”という視点を提示している。
楽曲は、ミッドテンポのリズムと反復的なメロディを基調とし、ギターも鍵盤も柔らかく、彼らの楽曲としては珍しい“温かさ”が全体を包み込んでいる。皮肉を脱ぎ捨てたその瞬間、Yard Actはまるで別人のように、聴き手の心の奥へと語りかける。とりわけアルバムの最終曲として、この楽曲が置かれたことは、作品全体に“希望”という輪郭を与えている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
It was the humans that made us
And it was the humans that will break us
俺たちを作ったのは人間だった
そして俺たちを壊すのもまた人間だ
Everything happens for no reason
But you’ve got to keep going
すべての出来事には意味なんてない
でも、それでも前へ進まなくちゃならない
Some get to ride the carousel
Some fall off and get left behind
メリーゴーラウンドに乗れる者もいれば
振り落とされて置いていかれる者もいる
But we’re all just dust on a shelf
In a room that nobody goes in
でも結局、俺たちは誰も入らない部屋の
棚の上の“塵”にすぎないんだ
歌詞引用元：Genius – Yard Act “100% Endurance”
4. 歌詞の考察
「100% Endurance」で語られるのは、どこまでも広がる無意味さ——だがそれを知ったうえで「じゃあ、どう生きる？」という根本的な問いである。この曲において語り手はもう怒っていない。世界に幻滅したからこそ、皮肉を超えて、まるで語りかけるように静かに言葉を紡ぐ。
「Everything happens for no reason（すべての出来事には意味がない）」というフレーズは、虚無の肯定であると同時に、自由の再獲得でもある。理由がなければ、そこに縛られることもない。生きる理由がなければ、死なない理由もない。でもそれでも——「You’ve got to keep going（それでも生きるしかない）」という言葉が、切実で、温かく、力強い。
とりわけ印象的なのは、「棚の上の塵」という比喩である。人間存在の矮小さ、記憶にも残らない儚さを詩的に表現しながら、それを悲しむのではなく、「それでいいじゃないか」とでも言うような淡々とした語りが続く。この曲は、意味を与えることに疲れ果てた私たちに、「意味がなくても愛せるものはある」と語りかけてくる。
そして、曲の後半で繰り返されるタイトル「100% Endurance」という言葉には、努力や根性という体育会系的な響きではなく、“意味を求めすぎずに、それでも今日を生きる力”への静かな賛美が込められているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Someone Great by LCD Soundsystem
喪失と意味の空白を反復とサウンドの隙間で描いた、感情の“間”を聴かせる名曲。 - Nothing Arrived by Villagers
“願っていた何か”が訪れなかった後の静けさと、それでも続く日常を歌う。 - Wake Up by Arcade Fire
若さの終焉と、自己の再発見を壮大なスケールで描いたアンセム的楽曲。 -
Jesus, etc. by Wilco
世界の不安定さと、それでもなお愛を信じる姿勢を繊細に描いたロックバラード。 -
Sprawl II (Mountains Beyond Mountains) by Arcade Fire
現代の無意味な都市生活を軽快に描きながら、どこか希望を滲ませる。
6. 終わりに見つかる「優しさ」という抵抗
「100% Endurance」は、怒りでも批評でもなく、“受容”という行為そのものを通して世界を肯定する楽曲である。Yard Actのデビュー・アルバムを締めくくるこの曲は、まるで喧騒のあとの静けさのように、あらゆるノイズが去った後に残された“人間の声”のように響く。
彼らがそれまで放ってきた皮肉や怒りが、ここで一周して“静けさ”へとたどり着く構成には、実に深い叙情性と構成美がある。政治も格差もメディアも、すべてがノイズとして消えていったあとに、ようやく見えてくる“何もない世界”——そしてその中でも「生きていくこと」の小さな尊さが、ここにはある。
「100% Endurance」は、人生や世界に意味がなくても、それを生きることには意味があると、そっと語りかけてくれる。静かな覚悟と、絶望を超えた場所にある穏やかな肯定。それは風刺と笑いを超えたYard Actの“人間讃歌”であり、このアルバムの終着点として完璧な余韻を残す、静かなるアンセムである。
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