アルバムレビュー：Swampy by Dry Cleaning

アルバムレビュー

2025.04.30

発売日: 2023年3月1日（EP）
ジャンル: ポストパンク、アートロック、エクスペリメンタル、リミックス

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概要

『Swampy』は、Dry Cleaningが2023年に発表したリミックス／アウトテイクEPであり、2022年のフルアルバム『Stumpwork』のセッションから生まれた未発表曲と、再構築的なリミックスを収録した“余白と変奏”のアーカイヴ的作品である。

『Swampy』というタイトルが示す通り、本作は濁った水底、澱んだ感情、曖昧な形のまま漂うものをテーマにしており、Dry Cleaningの持つ“意味を定着させない音と言葉”のアプローチが、より曖昧で流動的な形で提示される。

リリースは、スタジオ録音の緻密さよりも感覚的コラージュと実験的ムードに重きを置いた小作品集として機能し、ファンにとっては“もう一つのStumpwork”とも言える位置づけの作品である。

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オープナーにしてアンビエント的インストゥルメンタル。サウンドは粘性が高く、湿地を歩くような不定形のビートと、ぼんやりと漂うノイズ。言葉が存在しないDry Cleaningの風景が新鮮。

パート1と対になる、やや重心のあるビートを持った続編。断片的なギターノイズとフィルターのかかったサンプルがコラージュ的に構成され、構造そのものが崩れていく美学を提示する。

『Stumpwork』のアウトテイク。静謐で詩的なコードワークに、語りと歌の中間のようなショウのボーカルが乗る。構成はシンプルだが、感情の水面を漂うような浮遊感に満ちる。

オリジナルを多重変調・分解したエレクトロリミックス。遊び心と毒気が混ざり合い、Dry Cleaningのリリックが異質なリズム言語に変貌。原曲からの距離感が大胆で面白い。

「亀が逃げた」というテーマの原曲を、よりリズミカルでチルなテクスチャに転化。軽やかでありつつ、ショウの語りは変わらず感情を抑制しており、感覚のアンバランスさがクセになる仕上がり。

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『Swampy』は、Dry Cleaningが“語らないことの美学”をさらに引き延ばし、音だけで語る、あるいは語らずに感じさせることに挑戦したEPである。

ここでは明確な意味や物語は語られない。
むしろ、意味が崩れた後に残る“質感”や“手触り”を音にすることで、Dry Cleaningが本来持っている「不明瞭であることの詩情」が際立っている。

本作は、“主張しないこと”を徹底した表現でありながら、それでも何かを強く感じさせてしまう不思議な力を持っている。

彼らはますます“語らないことで語る”領域へと向かっているのだ。

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“Swampy”という言葉は、構造の不明瞭さ、感情の湿り気、意味の浸食性といった要素を象徴している。

Dry CleaningはこのEPを通して、「曲」としての完結を拒む構成に取り組み、音が言葉を持たないときでも、感情は流れ得るという逆説を示している。

この作品は、ポストパンクが“反語”や“間”でしか語り得なくなった現代において、語りすぎないことでしか表現できない何かを、そっと浮かび上がらせているのだ。