発売日: 2015年3月17日
ジャンル: インディーロック、オルタナティブロック
Modest Mouseの6作目「Strangers to Ourselves」は、前作「We Were Dead Before the Ship Even Sank」から実に8年ぶりのリリースとなる作品で、長いインターバルがありながらも、バンドのエッジの効いたサウンドと皮肉に満ちたリリックが健在であることを証明したアルバムだ。アイザック・ブロックのボーカルは以前にも増して成熟味を帯び、環境問題、自己の内面、社会的な無力感といったテーマが、彼独特の比喩や風刺的な視点を通じて描かれている。
このアルバムは、多様なジャンルやスタイルの楽曲が並び、バンドの幅広い音楽性を感じさせる。ブラスやシンセサイザーといった豊かなアレンジが施され、Modest Mouseの実験的な側面が色濃く表れている一方で、彼ららしいメランコリックでシニカルな世界観が一貫して流れている。現代社会への疑問や人間の脆さが見事に表現され、繊細さとエネルギーが共存する作品だ。
各曲解説
1. Strangers to Ourselves
アルバムの幕開けとなるタイトル曲「Strangers to Ourselves」は、静かでメランコリックなメロディが漂うバラードで、自己を見失う感覚と孤独がテーマ。ブロックの繊細なボーカルが心に響く、美しい一曲だ。
2. Lampshades on Fire
軽快でダンサブルな「Lampshades on Fire」は、アルバムのリードシングルで、環境問題への皮肉が込められている。キャッチーなビートと繰り返されるフレーズが印象的で、自然破壊と自己破壊的な行動を警告するメッセージが感じられる。
3. Shit in Your Cut
ダークで不穏な「Shit in Your Cut」は、重厚なリズムとメランコリックなメロディが特徴的。現代社会の病巣や自己嫌悪がテーマで、冷たくもエモーショナルなサウンドが印象的だ。
4. Pistol (A. Cunanan, Miami, FL. 1996)
「Pistol (A. Cunanan, Miami, FL. 1996)」は、荒々しいサウンドとブロックのシャウトが特徴的な一曲。犯罪や狂気をテーマにした楽曲で、サイケデリックでエキセントリックなムードが漂う。
5. Ansel
穏やかなギターメロディが印象的な「Ansel」は、旅と喪失について描かれた詩的な楽曲。愛する人を失った痛みや悲しみが、静かに語りかけるように伝わる。
6. The Ground Walks, with Time in a Box
活気に満ちた「The Ground Walks, with Time in a Box」は、ファンキーなリズムとキャッチーなギターリフが融合した楽曲。生と死、そして時間の無情がテーマで、エネルギッシュでダンサブルな雰囲気が魅力。
7. Coyotes
「Coyotes」は、アコースティックなサウンドと優しいボーカルが際立つバラード。都会と自然の対比を描き、都会生活の孤独感や疎外感が繊細に表現されている。
8. Pups to Dust
メランコリックなリズムとリフが印象的な「Pups to Dust」は、人生の儚さと人間の脆さがテーマ。シンプルなメロディにブロックのボーカルが重なり、切なさが感じられる一曲だ。
9. Sugar Boats
「Sugar Boats」は、ブラスセクションとジャズの要素が加わり、スリリングで活気に満ちたトラック。戦争や富、権力といった社会問題に皮肉を込めた歌詞が印象的で、バンドの実験的な一面が強く出ている。
10. Wicked Campaign
シンセサイザーと軽やかなリズムが印象的な「Wicked Campaign」は、ポップなサウンドの中に皮肉の効いた歌詞が詰まっている。モダンなアレンジが新鮮で、リスナーを引き込む楽曲。
11. Be Brave
「Be Brave」は、重くエッジの効いたギターと迫力あるドラムが特徴。勇気と恐怖がテーマで、自己を奮い立たせるような力強いメッセージが感じられる。
12. God Is an Indian and You’re an Asshole
インタールード的な短いトラックで、シンプルながらも強烈なタイトルが目を引く。宗教や信仰に対するアイロニーが込められている。
13. The Tortoise and the Tourist
「The Tortoise and the Tourist」は、寓話的なタイトルが示す通り、社会に対する風刺的な視点が表現されている。ゆったりとしたリズムが心地よく、どこか物悲しいメロディが特徴だ。
14. The Best Room
「The Best Room」は、ノスタルジックでメランコリックなサウンドが漂うトラック。歌詞には、過去と向き合うことで見えてくる真実や後悔が込められている。
15. Of Course We Know
アルバムの最後を締めくくる「Of Course We Know」は、壮大なスケールを持つ美しいバラード。エコーのかかったボーカルと広がりのあるサウンドが、アルバム全体を総括するかのように響き渡る。
アルバム総評
「Strangers to Ourselves」は、長いブランクを経てリリースされたにもかかわらず、Modest Mouseの独特な感性と音楽的実験性が健在であることを証明した一枚だ。環境問題や都市生活、自己認識といったテーマが、アイザック・ブロックの皮肉と風刺を通して詩的に表現され、多彩なサウンドと重なり合っている。ブラスやシンセサイザーといった要素が新たな色を加え、幅広い音楽性が堪能できる作品となっている。商業的な成功と芸術的な挑戦が絶妙に融合したアルバムであり、彼らの音楽的な進化を感じさせる作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Yankee Hotel Foxtrot by Wilco
メランコリックで皮肉を含んだ歌詞と、豊かなサウンドアレンジが共通する名盤。社会的なテーマと個人の葛藤が描かれている。
High Violet by The National
深い内省とシネマティックなサウンドが特徴で、都市生活の孤独感や人間の脆さをテーマにしたModest Mouseファンにも響く一枚。
Neon Bible by Arcade Fire
皮肉と風刺に満ちた歌詞と、壮大なアレンジが「Strangers to Ourselves」と響き合う。現代社会への問いかけが感じられる。
Elephant by The White Stripes
荒々しいギターと大胆なサウンドが特徴で、Modest Mouseのエッジの効いたエネルギーが好きなリスナーにおすすめ。
The Suburbs by Arcade Fire
現代の都市生活や人間関係をテーマにしたアルバムで、ノスタルジックな雰囲気とメランコリックなメロディがModest Mouseファンにも通じる。
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