発売日: 2012年10月5日
ジャンル: サイケデリックロック、インディーロック、エレクトロニカ
オーストラリアのサイケデリックロックプロジェクトTame Impalaの2作目「Lonerism」は、ケヴィン・パーカーが創り上げた孤独と内省をテーマにした名盤である。デビュー作「Innerspeaker」から一転し、今作ではサウンドがより広がりを持ち、シンセサイザーの使用も増え、サイケデリックとエレクトロニカが美しく融合している。音響の奥行きや複雑さが増し、個人としての葛藤や孤独感を緻密に描いたパーカーのビジョンが、鮮やかなサウンドスケープと共に展開されている。
「Lonerism」のタイトルが示す通り、アルバムの中心テーマは「孤独」であり、パーカーの内面的な感情が繊細かつ普遍的な形で表現されている。彼のボーカルはエコーで包まれ、ギターとシンセが折り重なり、サイケデリックな響きと共にリスナーを深い内面の旅へと誘う。「Lonerism」は、サイケデリックロックを現代に蘇らせた傑作であり、Tame Impalaのサウンドが確立された瞬間でもある。
各曲解説
1. Be Above It
アルバムは、「Gotta be above it」という囁きのようなフレーズが繰り返されるビートから始まる。反復がもたらす高揚感が特徴で、パーカーの内なる葛藤と決意が感じられる。シンプルながらも、強烈な印象を与える一曲だ。
2. Endors Toi
フレンチ語で「自分を受け入れよ」という意味を持つこの曲は、夢の中を漂うような幻想的なサウンドが特徴。シンセとギターが織りなすメロディが美しく、夢と現実の狭間で自己を探るような感覚が漂う。
3. Apocalypse Dreams
長尺の楽曲で、曲調がダイナミックに変化していく。冒頭は明るく希望に満ちているが、徐々にサイケデリックな深みに引き込まれる展開が見事。パーカーのボーカルが、未来への期待と不安を同時に描き出す。
4. Mind Mischief
軽やかなギターリフが印象的な「Mind Mischief」は、心の迷いと混乱をテーマにしている。甘く切ないメロディが耳に残り、恋愛の複雑さと、心の奥に潜む葛藤が歌詞に滲んでいる。
5. Music to Walk Home By
シンセが前面に出たサウンドと、軽やかなビートが特徴的。帰路につく時の内省的な感情を映し出し、パーカーのノスタルジックな視点が感じられる。サウンドが何層にも重なり、孤独と解放感が交錯する。
6. Why Won’t They Talk to Me?
孤独感と疎外感がテーマで、タイトルが表すように、周囲からの孤立を感じる瞬間が描かれている。浮遊感のあるシンセサウンドとメロディアスなギターが切なさを強調し、パーカーの独特な世界観が広がる。
7. Feels Like We Only Go Backwards
「Lonerism」を代表する一曲で、恋愛における後悔や迷いが込められている。シンプルなメロディとエコーの効いたボーカルが美しく、どこかビートルズを思わせるノスタルジックなサウンドが心に残る。悲しみと安らぎが同居する、普遍的な名曲だ。
8. Keep on Lying
この曲ではリフの反復がサイケデリックな浮遊感を作り出し、まるで夢の中にいるような気分にさせられる。歌詞は少なく、ほとんどがインストゥルメンタルのパートで構成されているため、サウンドに深く没入できる。
9. Elephant
アルバムの中でも特にハードでファンキーな一曲。「エレファント」は、強烈なベースとドラムのグルーヴが支配する曲で、パーカーのエネルギッシュなギターリフが際立つ。ビートルズの「I Am the Walrus」に通じるサイケデリックな要素が色濃く反映されている。
10. She Just Won’t Believe Me
短いインストゥルメンタルで、エフェクトを多用した音像が特徴。柔らかなシンセが心地よく、どこか遠くから聞こえてくるようなミステリアスな雰囲気が漂う。
11. Nothing That Has Happened So Far Has Been Anything We Could Control
6分以上に及ぶ壮大な構成の楽曲で、さまざまな感情が混じり合う。人生における不安定さや、流れに身を任せるしかない感覚がサウンドに表れており、サイケデリックな音響が心を揺さぶる。
12. Sun’s Coming Up
アルバムの締めくくりとなるこの曲は、パーカーの哀愁漂うピアノとボーカルが印象的なバラード。夜明けの静寂の中に一筋の光が差し込むような、希望と孤独が交錯する美しいラストトラックだ。
アルバム総評
「Lonerism」は、ケヴィン・パーカーの孤独と自己探求の旅をサウンドに封じ込めた傑作であり、現代のサイケデリックロックの中でも特に重要な作品とされる。ギターやシンセサイザーの多層的なアレンジとエコーの効いたボーカルが、彼の内面世界を繊細かつ大胆に描き出している。聴く者に孤独と共感をもたらし、パーカーの独自の視点から世界を体験させる「Lonerism」は、Tame Impalaの音楽性が確立された瞬間であり、ロックシーンにおける名盤のひとつとして語り継がれていくだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Currents by Tame Impala
サイケデリックな要素を保ちながら、エレクトロニカを大胆に取り入れたアルバム。進化するパーカーのサウンドが楽しめる。
The Dark Side of the Moon by Pink Floyd
サイケデリックロックの象徴的作品。内省的なテーマと幻想的なサウンドが「Lonerism」に共鳴する。
Plastic Beach by Gorillaz
エレクトロニカとサイケデリックの融合が魅力。孤独感と未来への不安をテーマにした独特の音世界が広がる。
Innerspeaker by Tame Impala
Tame Impalaのデビュー作で、サイケデリックロックを現代的に再構築したパーカーの原点。
Congratulations by MGMT
サイケデリックなポップセンスが際立つアルバムで、実験的なサウンドと内面的な歌詞が「Lonerism」と共通する。
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