発売日: 2022年9月22日
ジャンル: ダンスロック、ニューウェーブ、ポストパンク、エレクトロ・ロック
概要
『SZNZ: Autumn』は、Weezerが2022年に展開した四季連作プロジェクト『SZNZ(シーズンズ)』の第3弾であり、“秋”という季節の不安、感情の揺らぎ、知性と混乱の交錯を音楽的に描いた、きわめてコンセプチュアルな作品である。
Rivers Cuomoはこのアルバムを“ダーク・サイドの季節”と位置づけ、前作『Summer』の熱狂から一転して、内省的かつ不穏な雰囲気を持つ楽曲で統一。
音楽性も、70〜80年代のニューウェーブやポストパンクに影響を受けたエッジの効いたアレンジが施されており、シンセとギターがスリリングに絡み合うダンスロック的サウンドが特徴的である。
また、『SZNZ』シリーズの中でも特に政治的・社会的メタファーが強く、“堕落した知性”や“自己の暴走”といったテーマがリリックに滲む。
知的でありながら、どこか滑稽で、制御不能な感情を抱えたこの作品は、秋という季節の曖昧さを見事に音にしている。
全曲レビュー
1. Can’t Dance, Don’t Ask Me
不穏なシンセのイントロから始まるオープニング・トラック。
“踊れない自分”をモチーフに、現代人の疎外感と不適応を風刺する。
タイトルはミュージカル『On Your Toes』の楽曲への言及とも取れる。
2. Get Off on the Pain
ギターとエレクトロビートが重なり合うエッジの効いたナンバー。
“痛みこそが快楽”という自己破壊的なテーマが、Rivers Cuomo特有のユーモラスな語り口で描かれる。
3. What Happens After You?
アルバム中でも最もキャッチーな一曲。
恋愛関係の終焉を、“その後の自分”という視点で描くことで、時間と喪失の感覚を見事に表現している。
ダンサブルなリズムに乗せた切なさが心に残る。
4. Francesca
クラシック文学的な香りをまとった、幻想的なロックバラード。
“フランチェスカ”という名の女性への憧れと呪縛を描く、象徴性の強い一曲。
秋の黄昏と共に聴きたくなる、物憂げな叙情が漂う。
5. Tastes Like Pain
タイトル通り、“痛みの味”を詩的に表現したエレクトロ・ロック。
苦味と快楽が背中合わせになる感覚が、シンセの波とギターの刃のようなリフで見事に音像化されている。
6. Run, Raven, Run
秋の象徴“カラス”を冠した終曲は、7分近い長尺で展開されるドラマティックな構成。
バロック風アレンジと、ポストロック的なビルドアップが融合し、『Autumn』という章のクライマックスにふさわしい壮大さを持つ。
総評
『SZNZ: Autumn』は、Weezerが“季節”というテーマをここまで重層的かつ象徴的に描いたことに驚かされる、シリーズ中でも特に哲学的かつ美的完成度の高い作品である。
本作の中心にあるのは、思考の迷宮と感情の暴走。
シンセとギターが互いにぶつかり合い、時に重なり合う音像は、人間の中にある“理性と衝動”の綱引きを視覚的に描くようでもある。
また、前作『Summer』の“堕天使的熱狂”に対し、本作では“知性と諦観”がテーマになっており、まさに秋という季節が持つ“実りと喪失”の両面性を体現している。
バンドの演奏力もさることながら、Rivers Cuomoのリリックに込められた聖書的/古典的引用、象徴表現、構造的工夫は、詩的でありながら現代的で、知的好奇心を刺激する。
ニューウェーブ、ダークポップ、ポストパンクといった要素を吸収しながら、最終的にはWeezerらしい哀愁とユーモアで包み込む——そんなこのアルバムは、“秋のポートレート”として記憶されるにふさわしい一作である。
おすすめアルバム(5枚)
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Low-Life / New Order
『Autumn』のエレクトロとポストパンクの融合をさらに深化させた80年代の名盤。 -
Songs of Faith and Devotion / Depeche Mode
宗教的テーマとダークなエレクトロサウンド。Weezerの神話的側面と重なる。 -
The Age of the Understatement / The Last Shadow Puppets
バロック・ポップとロックの交差。秋的な映像美を音で表現するという点で共鳴。 -
The Downward Spiral / Nine Inch Nails
『Get Off on the Pain』のような自己破壊的美学をより重厚に描いたインダストリアルの金字塔。 -
OK Computer / Radiohead
『OK Human』への言及と同様、本作にも響く「知性と崩壊」のテーマを描いた現代の黙示録的作品。
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