発売日: 1987年10月20日
ジャンル: ロック、シンセ・ロック、ハードポップ、AOR
“ガムある?”から始まる奇妙な80年代の旅——Joe Walshが模索した時代との対話
『Got Any Gum?』は、Joe Walshが1987年に発表した通算7作目のソロ・スタジオ・アルバムである。
80年代後半というロックにとって難しい時代に、ウォルシュが自らのスタイルと“時代性”の折り合いをつけようとした挑戦的作品である。
タイトルの「Got Any Gum?(ガムある?)」という投げかけは、
真剣さと茶化しのあいだを泳ぐような、彼らしい“無邪気な挑発”でもある。
本作では、プロデューサーにTerry Manningを迎え、よりシンセサイザーやエレクトロニックな要素を前面に押し出したサウンドメイクが施されており、
ウォルシュの持ち味であるアナログなギターサウンドとのバランスを取ることに苦心した様子がうかがえる。
全曲レビュー
1. The Radio Song
開幕から軽やかなシンセが鳴り響く、80年代的ポップロックの好例。
「ラジオが僕の人生を語ってくれる」とでも言いたげな、現実逃避とメディアへの依存を描いた歌詞が時代を映す。
2. Funk 50
James Gangの名曲「Funk #49」の続編的ナンバー。
シンセとドラムマシンで再構築された“ファンク・ロック”の現代版だが、オリジナルのワイルドさとは対照的に、都会的でクールな印象。
3. Lucky That Way
ミッドテンポのAOR的ナンバー。
ウォルシュのソフトな歌声が際立つ、80年代的洗練が滲む1曲。
リリックには諦念と感謝が混ざっていて、内省的な側面も強い。
4. In My Car
シングルカットされた本作の代表曲。
Ringo Starrとの共作で、「車に乗ってるときが一番自由」というシンプルなロックンロールの楽しさがストレートに表現されている。
キャッチーなコーラスとドライブ感が心地よく、80年代的でもありつつ“古き良き”精神も宿す。
5. Half of the Time
ウォルシュが得意とする“力の抜けたラブソング”。
エレクトロ寄りのサウンドながら、メロディラインの親しみやすさが救いとなっている。
6. Alpha Man
近未来的なイメージと、自虐的なスーパーヒーロー像がミックスされたユニークな楽曲。
サウンドはシンセ主体で、まるで映画のテーマソングのようなスケール感がある。
7. Time
バラード寄りのナンバーで、“時の流れ”に翻弄される自己像が浮かぶ。
アコースティックギターとキーボードが溶け合うアレンジが美しい。
8. Told You So
どこか『So What』期を思わせるメロウなグルーヴ。
「だから言ったじゃないか」という繰り返しが、人生の虚無と皮肉を突きつける。
9. Ordinary Average Guy(未収録)
※本曲は次作のタイトル曲となるため、本作には未収録。だが本作の“方向性”の延長線上にある重要曲として触れておく価値はある。
10. Memory Lane
アルバムを締めくくるにふさわしい、ノスタルジックで抒情的な小品。
“記憶の小道”を歩くように、ウォルシュは過去を見つめながら、優しく幕を下ろす。
総評
『Got Any Gum?』は、Joe Walshが自らのロック美学と1980年代の商業音楽シーンの中間地点を模索した作品である。
ギターロックの骨太さは後退したが、その代わりに、軽やかで柔らかな自己表現が増している。
確かに80年代的なサウンドに戸惑うファンも多かった。
だが、その中にある遊び心、風刺、メロディへのこだわりは、確かに“ウォルシュらしさ”を保っていた。
そして何より、“Got Any Gum?”という無邪気なフレーズに、
どこかで世界にすり減らされたロックンローラーのやさしい皮肉と、まだ残っている自由の香りを感じることができる。
おすすめアルバム
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Ringo Starr – Old Wave
本作と同時期、同プロデューサーによる80年代的ビートル・スピリット。 -
Don Henley – Building the Perfect Beast
ウォルシュとは対照的に80年代のプロダクションを極めた元イーグルスの作品。 -
Steve Winwood – Back in the High Life
シンセ時代におけるロックミュージシャンの洗練された再定義。 -
Robert Palmer – Riptide
80sの都会感覚とギターサウンドの共存という点で比較対象に。 -
Joe Walsh – Ordinary Average Guy
次作にして、“普通であること”をテーマに掲げたウォルシュの新境地。
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